*親の心子知らず*
(黎深・絳攸)
【1】
「余から皆に、ひとつ聞いてほしいことがある」
本日の朝議も終わろうかという頃、彩雲国国主・紫劉輝はそう切り出した。
唐突な王の言葉に、居並ぶ高官たちはすわ何事かと劉輝を仰ぎ見る。
全員の視線が自分に集まったのを確認して、劉輝はゆっくりと口を開いた。
「皆、普段から国のために官吏として働いてくれてありがとう」
「………………」
一体何を言い出すのだ、という表情をした高官たちを見渡しながら、劉輝は言葉を続ける。
「朝廷は数年前の王位争いの影響もあり、十分に人手が足りているとは言い難く、いまだ空位の官も多い。そんな状況では、皆何かと忙しくて自分の身体をいたわる時間もなかなか取れぬだろう。だが官吏は身体が資本だ。武官はもとより、当然文官も、な」
そう言葉を切った劉輝は、まだ成り行きを飲み込めていない高官たちの前で、堂々と宣言したのだ。
「そこで余は、"健康診断"を実施することにした!!」
「――だ、そうだ」
「……はい?」
「あのハナタレは、官吏全員に"健康診断"とやらを実施することにしたらしい」
「…………はぁ……?」
朝議から戻った上司に呼び出された絳攸は、即座には意味が分からずに首を傾げた。それに黎深は、さも嫌そうに顔をしかめつつも部下に伝達事項を告げる。
「官吏どもの現在の健康状態を確認したいのだそうだ。もちろん実際に診断するのは医師だが、人事を管轄する部署として、この吏部がその"健康診断"とやらを仕切れ、と言ってきた」
私はもちろん断わったぞ、と言った黎深は、嫌そうにしかめた顔の前で扇を振った。
そんな上司を前に、絳攸はおそるおそる聞き返す。上司に呼び出された時からうっすらと嫌な予感はしていたが、まったくもって嬉しくないことに、絳攸の予感は的中した。
「で、でも黎深様、それをわざわざ私に言うということは……」
「ジジイどもが『それはいい』『是非やれ』などと言い出しおったせいで、朝議を通った」
「それでは」
「医官どもとの打ち合わせ、戸部との予算折衝、官吏全員の名簿作成および通達、日程調整その他モロモロ、頼んだぞ」
「え!? 俺、いえ私がですか!!??」
「他に誰がいる」
「でもだって!」
ただでさえ怒濤の勢いで忙しい吏部に、これ以上仕事が増えるというのか。官吏全員の健康状態を調べる前に、吏部官たちの健康が悪化するのではないかと絳攸は思った。いやまず絳攸自身が"過労死"してしまう。
「文句ならあのハナタレに言え。――言っておくがな、私は断固反対したんだぞ」
ハナタレの分際で余計な仕事を増やしおって、という上司の呟きに、絳攸もまったくだと大きく頷いた。
【2→】
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