*かぼちゃまつり*
(黎深・絳攸)


【2】

話は少し前にさかのぼる。
絳攸が部屋で書物を読んでいると、扉が叩かれた。
「入るぞ、絳攸」
返事も待たずに入ってきたのは、絳攸の養い親・紅黎深だった。扉を振り向いた絳攸は、唐突な訪問と、彼が持っているものに驚いて、何も言えずにただ養い親が近づいてくるのを見つめていた。
急に書物の横に、ドン、と「それ」を置かれて、絳攸は目をしばたかせる。
「……なんですか、これ」
「見て分からないのか。かぼちゃだ」
「かぼちゃ……?」
絳攸が抱えられないくらい大きな「それ」は、巨大なかぼちゃだという。それまでの彼の常識では、かぼちゃとは緑色で、彼が両手で持てるくらいの大きさだと思っていたのだが、どうやらそれだけではないらしい。世の中にはやっぱりまだまだおれの知らないことがいっぱいあるんだ、と絳攸は橙色の巨大な「それ」を興味深げに観察した。
そんな絳攸に、黎深は告げる。
「それはお前にやる。そのかぼちゃを彫れ」
「…………え?」
こんな風に、と黎深は一枚の画をかぼちゃの横に置いた。そこにはいくつかの三角形と波状の空洞が空いた巨大かぼちゃが描かれていた。おそらくその空洞は、目鼻口をあらわしているのだろう。奇妙な表情だ、と絳攸は思った。
――黎深様は一体なんのためにこんなものを作れというのだろう?
不思議そうに首を傾げた絳攸に、黎深は続ける。
「中身をくりぬいて、その代わりに蝋を入れてな、燈明にするのだ」
「燈明、ですか」
「ああ。その燈明は悪霊を追い払うそうだぞ」
養い親が悪霊なんてものを信じているとは思えないが、取り立てて反対する理由もないので、絳攸は大人しく言われた通りにかぼちゃ燈明作りをすることになった。こんなに大きなかぼちゃならいっぱい食べられそうなのに、食べないで彫って燈明にするなんて、お金持ちの考えることは分からないな、と思いながら。


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