*珀明の憂鬱*
(黎深・絳攸・珀明)


【8】

そんな珀明を観察した黎深は、にっこりと笑って話しかける。
「珀明といったか」
「はっ、はいぃっ!!」
吏部氷の長官・紅黎深。
珀明は、彼に対面するとき、今でも緊張する。
「その書翰は私宛だろう。机案に置いておけ。載らないなら床にでも落としておいて構わない。ああ、それと……」
楽しそうに笑った黎深は、手招きをしながら珀明に言う。
「お前も揉んでやろうか。ああ、それとも絳攸に揉んでもらったほうがいいか? これはなかなか上手いぞ」
なぁ、と黎深は自分の上に乗ったままの絳攸を振り返った。絳攸は足のケガのため、そんなに簡単には動けないらしい。
長官の申し出に、珀明は勢いよく首を振った。
「いえっ、いいえっ!!! そそそんな恐れ多いことはできませんっ! そ、それでは失礼致しましたっ!!」
脱兎のごとく逃げ出した珀明を見送って、黎深はくっくっと笑う。
――気配を読める黎深は、珀明がずっと扉の外にいたのを知っていた。
もちろん珀明が絳攸を敬愛しているのも承知の上。
その上でわざと聞こえるように声を出していたのだ。
ゆっくりと黎深の上から退きながら、絳攸は首を傾げた。
「黎深様? どうかなさったんですか?」
「くくくっ。……いや、お前の指圧があまりに悦かったのでな」
楽しそうに笑う黎深はそれはそれはご機嫌で、その日は机案の書翰の山がなくなったという。

END.
【←7】
ちょっとやらしい感じに、お約束のマッサージネタです(笑)。これ、絳攸が足をケガしてる設定になってるんですけど、これは「十六夜の月」をはじめとする「月」シリーズ上の設定です。(「月」シリーズはオフライン発行「夜明け前」に収録してあり、現在webには載せていません)

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