*ばれんたいん小話09*
(黎深×百合 +絳攸)
【2】
「そんなの知るか。いいから黙れ」
「――って黎深、ホントにちょっと待ってってばーーー!!!」
変な方向に事態が流れそうになったそのとき、トントン、と扉を叩く音が響いた。もうやけっぱちとばかりに百合は返事をする。
「はい!!!」
「百合さん、お帰りなさい!!」
家人たちと入れ替わりに室に入ってきた絳攸は、状況を察するや扉の前で回れ右した。
「……あ、えーと、お邪魔しました!」
「ちょっと待って絳攸! 全然!邪魔じゃないから!! っていうかむしろ助けて!」
「でも、あの、ええと……」
ここで今2人の邪魔をしたら後で黎深にいじめられるのは目に見えていたが、かといって絳攸は百合を見捨てられなかった。
覚悟を決めて室の中へと足を踏み入れる。
「……あの、黎深様、無理強いはよくないと思います……」
「無理強いじゃない」
「………………」
絳攸が見た百合は、どう考えても嫌がっているふうにしか見えなかったが、夫婦の間には余人には分からない何かがあるのかも知れない。賢明な絳攸は、無言で苦笑を浮かべた。
「それで絳攸。きみは何をしにここへ来たんだね?」
「あ、はい、黎深様に言われたとおり、おしるこを作って持ってきました」
これを、と盆を示した絳攸は、近くの卓子に3人分の椀と茶器を用意し始めた。
「……黎深、きみ本当に相変わらずおしるこ好きだね……」
「…………ふん」
鼻を鳴らすと同時に黎深の腕の力が弱まったので、百合はその隙に夫の拘束から抜け出した。そそくさと息子へと近づくと、ほかほかと湯気を立てる椀を手に取る。
「わーい、おいしそー! いただきま〜す」
さっそく温かい汁粉に口を付けようとした百合は、目の前に伸びてきた手と、そこに置かれた小さな箱に目を丸くした。
「百合」
「ん?」
「やる」
それだけ言って室の隅に置かれた長榻へと行ってしまった黎深に、百合は首を傾げる。
「なに? 何か怒ったのかな、黎深」
首を傾げた百合に、絳攸は養い親に聞こえないようこっそりと耳打ちをした。
「あのですね、百合さん。今年、貴陽では"逆ちょこ"が流行ったんですよ」
「"逆ちょこ"?」
「ええ。今年はいつもと逆で、男性から女性に贈り物を」
だから黎深様もきっと百合さんに、と絳攸から教えられた百合は、室の隅でふて寝を決め込んだらしい夫をちらりと見遣った。
相変わらずワガママで不器用で、ほんの少し、かわいい。
温かい汁粉をすすりながら、百合は心もほんのりと温かくなった気がした。
「あ、ねぇ、じゃあひょっとして絳攸も誰かに何かあげたりしたの?」
「え、い、いえ……。ははははは……」
まさか、例年より何だかたくさんもらいましたとは言えない絳攸は、苦笑しつつ汁粉を飲み込んだ。
END.
【←1】
ちなみに百合さんの持ってきたおみやげは"紅州みかん"です(笑)

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