*おもてなし*
【1】
「明日、同期の者が邸に来る」
突然の呼び出しに何だろうと顔を強ばらせていた絳攸は、黎深の言葉に首を傾げた。
「黎深様のお友達ですか……?」
黎深は「同期だ」と絳攸の言葉を訂正した後、扇をひらめかせながら口を開いた。
「お前、二人をもてなしなさい」
「……え、えええええええっ!?」
「うるさい、叫ぶな」
「だ、だって! だって、無理です!」
黎深に無情に言い放たれて、絳攸は声をひっくり返らせた。
普段、黎深はどんなに請うても何の仕事も与えてはくれない。だから、できることならばどんな役目でも果たしたいと思う。
しかし、賓客のもてなしといえば、普段は貴陽紅邸の女主人である百合が――不在の場合は家令と侍女長がおこなっていることだ。出迎え、客房に生ける花、香の種類、饗応の菜や茶、酒肴まであらゆるものに心を砕き、相手の趣味や嗜好に配慮して準備をし、家人たちを采配する――そんなことが絳攸にできるはずがない。黎深に拾われてたった一年しか経っていない身には、あまりにも荷が重すぎた。
「当たり前だ。誰がそんなことをしろと言った」
「え、違うんですか?」
呆れ果てたようにため息をついた黎深にほっとしながら、絳攸は困惑気味に眉根を寄せる。
「お前は、ただ座っていればいい」
重々しく言った黎深によく分からないと困惑しながらも、絳攸は頷くことしかできなかった。
翌日、夕刻になって訪れた二人の客を貴陽紅邸の家人たちが跪拝して出迎える中、絳攸は一歩前に踏みだした。床に膝をつき、恭しく礼を取る。
「李絳攸と申します。以後お見知りおきくださいますようお願い申し上げます」
一拍を置いて顔をあげた絳攸の瞳に、杖をついた青年の姿が映った。
「こんにちは。お久しぶりですね」
淡い色の髪の青年の穏やかな微笑に、絳攸は頬を緩める。
「お久しぶりです、悠舜様」
一年前の黎深と百合の結婚騒動――実のところ絳攸には、あの時に何が起こっていたのかよく分からないのだが――の中でたった一度話をしただけの悠舜に、絳攸は好意を抱いていた。何と言っても彼は傲岸不遜の権化とも言うべき養い親と対等に話ができるのだ。彼に振り回されっぱなしの絳攸としては、『なんてすごい人なんだ! タダモノじゃないよ!』と尊敬せずにはいられない。
客の一人が悠舜と分かって少し緊張を解いた絳攸は、悠舜の隣に立つ男を仰ぎ見た。そして大きな瞳をさらに大きく見開いた。もう一人の客は黄の官服を纏い、長くきれいな黒髪を背に垂らした人物で――その顔には、精巧な細工の仮面をつけていた。
(か、仮面!? どうして!?)
失礼にあたると知りながらも目を逸らすことができずにじっと仮面を凝視する絳攸に、男は仮面の下で小さくため息をついたようだった。
「黄鳳珠だ」
「っ、よ、よろしくお願いします!」
くぐもった声に我に返り、絳攸は慌てて頭を下げた。
【2→】
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