*ひとつ欠けた月*
【3】
翌日、日も暮れてから吏部侍郎室を訪れた。片手に報告書。片手には包みを持っている。
今日は煌々と灯りがついていた。対して尚書室は既に真っ暗である。
部屋へ入ると絳攸が新たに積み上げられた書翰を処理しているところだった。
そこへ自分の報告書を乗せる。じっとそれを見る絳攸に「急ぎでお願いします」と念を押した。
「昨日は、お月見楽しかったですか?」
「は?」
絳攸が書翰から楊修へと視線を転じた。
「藍将軍と二人でお月見したんでしょう?」
「何で、それを」
「昨日あなたがさっさと定時帰宅した後、紅尚書が面白くなさそうに言ってましたから」
このくらいは、ばらしても構わないだろうと勝手に判断する。
「黎深様が……? 何かご用でもあったのだろうか」
「さあ。大方、拗ねてただけなんじゃないですか?」
楊修がやや投げやりに言うと、絳攸は「まさか」と真面目な表情で言う。
(あなたは分からないんでしょうね。本当、呆れた親子ですよ)
内心で思いつつ、口に出しては教えてやらない。楊修は窓へと近付いた。
「ところで、今日もまた雲もない良い月夜ですよ」
満月から一つかけた既望の月。満月とはまた違った趣で、楊修は好きだと思った。むしろ絳攸にはこちらの方が似合いかもしれないと思う。
満月の翌日の月の別名は、いざよい。ためらいの、月。
楊修は持っていた包みを絳攸の机案の上に置いて広げた。急に何を始めるのかと絳攸が注視する。
「月餅? どうしたんだ、それ」
「貰い物ですよ。一息ついて、月でも見ながら食べませんか」
言わずもがな、昨日黎深が投げて寄越したものである。ありがたく利用させてもらう。
「中秋の名月はもう、ひと月と一日前の話だぞ」
いつぞやの仕返しのように絳攸が指摘する。楊修は構わずに笑った。
「別に私は構いませんがね。何か特別な意味を込めている訳でもなし。ひと月と一日ずれていようが、月が綺麗なんだから愛でても誰も文句は言いませんよ」
むしろそれこそ、中途半端な位置に甘んじている自分に相応しいのではないか。自虐的にそんなことを思って笑みが漏れた。
それでも。
このままただ甘んじているつもりもない。
(隙あらば、奪ってしまいますよ)
それは紅黎深に対する挑戦か、それとも藍楸瑛に対してのものだったのか。
絳攸が仕方ないな、と言いながら書翰から手を放すのを見て、楊修は茶を入れようと茶器が置いてある方へと歩き出した。
【←2】
「月天心」の霞上さまより誕生日にいただいた小説です。霞上さん宅の「この月を君に」と並行したお話とのことですので、そちらもぜひ! 霞上さん宅へはリンクページからどうぞ! 霞上さま、この度は本当にどうもありがとうございました!
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