*ひとつ欠けた月*


【1】

 ある夜、廊下で佇んで空を見上げている絳攸の姿を見つけた。
 また迷って戻れなくなったのかと、周りに人がいないことを確かめてから近付く。

「何やってるんですか、こんなところで」
 絳攸は声に振り返ると「楊修か」と言って、それからまた空に目を戻した。

「もうすぐ満月だと思ってな」
 言われて楊修も空を仰いだ。ちょうど雲の合間から月が覗いている。丸くなりきれない、いびつな形の月だ。

「そうですね。あと4日ほどしたら、満月ですね」
 でも、それが何なんです? と楊修は疑問をそのままぶつけてみた。
 いつからこの上司は月の満ち欠けを気に留めるような風流者になったのだろうか。

「言っておきますが、中秋の名月はもうひと月も前の話ですよ」
「そ、そのくらい分かっている!」
 冷静に指摘してやると反発された。

「だったら何しんみりと、満月が待ち遠しいみたいな顔して突っ立ってるんですか。そんなに暇なんですか?」
 そう、まるで満月を指折り数えているかのような。らしくもない。

「暇に見えるか?」
「少なくとも今は。余裕ですねえ、と思っていますよ」

 絳攸は、はあっとため息を吐いて「吏部に戻る」と言った。そうして歩き出したは良いが、やはり方向が逆だった。

「李侍郎。吏部はいつから引っ越したんですか? 逆、ですよ」
 口の端を上げながら言ってやると、絳攸は真っ赤になって「違う、ただこの方向に……」などと言い訳を始める。
 仕方ないと楊修は道案内を買って出た。

 どうせ、いつものように何処かからの帰り吏部に戻れなくなって、疲れ果てたところでちょうど月が目に入り、一休みがてら眺めてでもいたのだろう。

 次の満月の日に何があるのかは知らないが。
 楊修はそんなことを考えながら絳攸を吏部へと導いた。


【2→】
【GIFTもくじ】
【TOP】
(C) asakawa itsuki
all right reserved.