旅日記番外  銀座編

 私は、年寄りっ子で、小さい頃から、感性的にはほぼ初老だが、その世代の、田舎の女にとって、銀座が憧れの街だということは、都会の人にも、容易に想像してもらえると思う。

*****銀座のデパート*****

 パンクラスを観に東京に行きはじめて、少し余裕が出てくると、どうしても銀座に行ってみたくなり、JR有楽町駅から、壮絶な迷子になりながら、ようやく銀座の三越にたどりついたときの感動は、今でも忘れられない。

 地元の松山には、二年前までそごうだった高島屋と、三越の、二つしかデパートがないので、銀座だけであんなにたくさんのデパートがあるのが、夢のようで、かたっぱしから入ってみたことがある。そうしていると、某M屋デパートで、急にトイレに行きたくなった。が、なかなか場所がわからず、困っていると、ようやく、フロアのすみっこにトイレを発見した。

 喜んで入ろうとすると、「従業員用」と書いてあり、がっかりしたが、「お客様もご用の節は遠慮なくお使いください」とも書いてあったので、本当に遠慮なく使わせてもらうことにした。で、個室に入ると、目の前の壁には、殴り書きで、
「もう二度と、M屋の販売員なんかやるか!!」
 と、落書きがしてあった。
 華やかに見える世界も、いろいろ大変なんだなあと思った。

*****資生堂パーラー*****

 資生堂パーラーでお昼を食べてみたいという、ささやかな野望を持っていたときもあった。
 いつの試合か忘れたが、パンクラスの試合の翌日の昼、一人だったので気後れしながら、勇気を出して入ってみた。メニュー選びに迷った末、ロールキャベツにした。
 私の隣のテーブルには、カップルがいたが、その女性も、やはり相当迷っていて、ようやく決めて注文してからも、後悔しているらしく、
「あー、ロールキャベツにすればよかった」
 と言った。まさにちょうどそのとき、私のロールキャベツが運ばれてきた。なんか気まずい空気が流れた。女性が、連れの男性にささやくのが聞こえた。
「ねえ、聞いて。おいしいかどうか聞いて」
 自分で聞け!ていうか聞こえてるし。でも、その気持ちはよくわかる。気の毒になり、何か伝える義務が私にはあると思い、とりあえず、
「あー、おいしい」
 と、聞こえるように、独り言を言ってみた。恥ずかしかった。

*****独り言*****

 銀座とは関係ないけど、聞こえるように独り言を言ってしまう瞬間って、誰にでもあると思う。(私だけか?)
 落とし物をしたことに気づいて、慌てて、来た道を引き返すと、道端に落ちていて、ほっとして、その物を拾う瞬間、「あの人、ネコババしよるんやないん?」と思われるんじゃないかと気になり、ついつい、周囲に聞こえるように、
「あー、あった!」
 とか、言ってしまう。誰も見てやしねえよと思うが、そんなことはわからない。世の中には危険がいっぱいだ。

 本屋で、「船木誠勝のハイブリッド肉体改造法」を買ったあと、電話ボックスで電話をかけたとき、本を電話の上に置いてきてしまい、十分くらい歩いてから気がついたことがある。慌てて走って戻ると、電話ボックスはふさがっていたが、本はあった。電話してた男性が出てきたので、さっそく本を取りに入ると、その人が、なんか疑惑のまなざしで見るじゃないか。電話をかけるふりをして、その人が立ち去るのを待ったことは言うまでもない。

 そんなのは被害妄想だと笑うなら笑え。でも笑いごとじゃない!(←どっちだよ)。もし私が、犯罪への関与を疑われて、嘘発見機にかけられたら、動揺のあまり、無罪でも針が振れまくって、確実に有罪になってしまうと思う。

 新品の本を、裸の状態でバッグに入れているのに、どうしても本屋によりたいときとか、困りまくる。私のよく行く本屋には、
「包装されていない本を持ち込まれますと、店員が時折勘違いを生ずることがあります」
 という趣旨のことが張り紙してある。店員が、常に勘違いしつづけているのなら、こちらも対処のしようがあるが、時折では、とりあえず挑むしかなく、バッグの中の本がチラ見えなのに、入ってみたりするが、それはどうだろうか。心の中で、小人さんが、手を振りながら、「これは、さっき友達に借りたんダヨ!」と、店員にアピールしているが、無論、そんなこと誰にも伝わらない。

 本屋でなくても、店には危険がいっぱいだ。
 母が、茶色いファーのマフラーをプレゼントしてくれたので、それをつけて、冬物のバーゲンに行った。ワゴンに、ファーの小物がたくさん入っていたので、黒のファーがほしくなり、自分のマフラーをはずして、つけてみた。
 鏡をのぞいていて、ふと気づくと、自分のしてきたマフラーがなくなっている。見回すと、見知らぬおばさんが、私のマフラーをつけて、鏡をのぞいているのだった。ありえない。しかも、今にも買われそうな勢いだった。
「すいません、それ私のなんですけど・・」
 と、おばさんに言うときの、意味不明な恥ずかしさ。そして、自分のしてきたマフラーをして立ち去るだけなのに、なんか、店の物を持ち去っているように見える気まずさ。何でこんな目にあうのか。

 銀座以外の、どうでもいい話の方が長くなってしまった。今の芸能界における菊川怜の存在のどうでもよさ=「1キクカワ」だとすると、3キクカワくらいかな。申し訳ありません。



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