98.3 ハイブリッド・ロサンゼルス・ツアー        後編

 最終日は、近藤選手のストレッチ教室で幕を開けた。

 ホテルはユキと同室だったが、二人とも、一度でいいからルームサービスというものを頼んでみたかったので、朝食はルームサービスを頼んだ。私はペストリーを頼んだが、ペストリーというパンは、もともと生地が甘いのに、砂糖衣が鬼のようにたっぷりとかかり、さらにジャムまで添えてあった。このジャムをどこにつければいいのか、日本人の私にはどう考えてもわからず、アメリカ恐るべしの感を強くした。
 ホテルの屋上で、近藤選手のストレッチ教室が行われた。近藤選手は、あまり声を張って話すタイプではない上に、折り悪しくヘリコプターまで飛んで来て、我々がストレッチをしている上空を通過し、何をおっしゃっているのかよく聞こえないときも多かった。

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 ストレッチ教室で体をほぐすと、ユニバーサルスタジオへ出発した。午前中は全員で、トラムに乗ってジョーズやキングコングのアトラクションをまわったり、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に乗ったりした。「バックドラフト」にも入った。本当の火事現場のように、炎が襲ってきて、怖かったが、終始ガス臭く、それがナチュラルな恐怖をかきたてていた。
 午後からは自由行動で、私は、近藤選手と「ウォーターワールド」のアトラクションを見たあと、ユキと二人でうろついた。カフェでお昼を食べた。ホットドッグのソーセージが、鬼のように大きくて食べきれなかった。かわいいケーキがあったので、二人で一個ずつ頼んだが、鬼のように甘くて食べきれず、半分ずつ食べて、残りは、つたない英語を駆使してパックをもらい、つめて持って帰った。あとで食べるのを楽しみにしていたが、ケーキを持ったまま「ジュラシックパーク」に乗ってしまったために、ホテルに帰って開けたら、グチャグチャになっていた。

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 その夜は、ホテルの近くの中華料理店で、このツアーをしめくくる食事会が催された。テーブルが二つあり、「鈴木テーブル」「近藤テーブル」に分かれた。どちらの選手と一緒に座りたいかは、あらかじめアンケートで答えてあった。私とユキは、鈴木ファンの友達と同じテーブルがいいと思ったので、鈴木テーブルに座った。

 楽しく食事したのはもちろん、添乗員の方が、いろいろなゲームをしてくださり、テーブル別に「鈴木チーム」「近藤チーム」に分かれて競った。万歩計を、頭・手首・足首につけて、カウントを競うゲームをした。まず両チームのツアー参加者が何名かやってから、アンカーを両選手が務めた。途中までは鈴木チームが勝っていたと思うのだが、ひたすら足踏みする近藤選手に対し、鈴木選手は、意味不明な踊りを踊りはじめ、酔って頭を振ったために吐きそうになり、逆転されてしまった。
 ジェスチャーゲームもした。添乗員の方がお題を出し、選手がジェスチャーをし、参加者が答える。私は、鈴木選手のするジェスチャーが一つもわからず、悔しい思いをしていたが、鈴木選手が、何かをつまんでひらひら泳がせるしぐさをし、続いて、笑って盛り上がってるしぐさをし、その手を、ミニスカートを思わせる太もものラインに持ってきたとき、私に、ジェスチャーの神様が降臨して、
「ノーパンしゃぶしゃぶ!!!」
と叫んでいた。それはもちろん正解で、鈴木選手はとても喜んでくれ、このためだけにロサンゼルスに来た甲斐があったと思った。

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 海外旅行ははじめてだったので、家では、家族が、足が地につかないほど心配し、早く帰ってくることばかり願っていたらしいが、私とユキは、あまりに楽しくて、帰りたくないと思っていた。帰りのロサンゼルス空港で、なぜか、私だけ荷物を開けられ、調べられた。黒人の女性係官が荷物を開けると、ディズニーランドで買った、みつばちの服を着たプーさんのぬいぐるみ、サルやロブスターやスカンクのぬいぐるみ、アイスホッケーのパック、しまうまの形をしたハンガーなどのくだらないものが大量にあふれ出し、大変恥ずかしかった。係官が笑ってくれれば救われたが、にこりともしない。プーさんの腹に麻薬でも仕込んでいると思われたのか。

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 成田に帰ってきて、ツアーは終わった。パンクラススタッフの方が出迎えてくれ、パンクラスグッズをいろいろ持って来てくださり、参加者にくださった。私はキーストラップをもらった。鈴木選手は、それを私の首にかけてくれながら、
「おれのことも応援してよ」
と言った。ユニバーサルスタジオで、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に乗るために並んでいるとき、私が、冨宅さんの話をしていたら、鈴木選手は、「冨宅とか好きな奴は、おれみたいなのは嫌いなんだよなとつぶやいたのだ。そんなことはない。鈴木選手と一度でも接して、その口から実際に話を聞いたら、悪く言ったり嫌ったりできる人はいないと思う。

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 この機会に、白状したいことが一つある。私は、当時の職場や、茶道のおけいこ仲間に、ロサンゼルスのおみやげだと言って、ディズニーキャラクターのクッキーを持って行ったが、あれは実は、ツアーのしおりと一緒に、近畿日本ツーリストから送られてきた、「日本で注文して受け取れるおみやげ・身軽な旅を」とかいうカタログで注文したものだったのだ。ここで、心からお詫び申し上げたい。嘘ついてごめんなさい。


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