『逝きまつり』
シナリオセンター研修科 課題作品
課題:死
人 物
曽根崎徳夫(28)プログラマー
玉井初子(27)雑誌編集者
都築和哉(24)自殺志願者
部長
大日システム社員A
同B
初子の同僚A
同B
若者A
○大日システム・社員食堂・中
昼時の賑わいを見せる食堂内。
若い社員達が雑談に花を咲かせる。
その中に、一人冷めた表情の曽根崎徳夫(28)の姿。
社員A「また人身で中央線止まってさあー。どうせ飛込みだよ。死ぬのは勝手だけど他人様に迷惑かけるなっつんだよな」
一様に頷く社員たち。
社員B「でもそれって、死ぬことで世間に復讐するっていう側面もあるんじゃない?」
社員A「俺が自殺に追い込んだわけじゃないんだから、やっぱそれってこっちにとっちゃ単なるいい迷惑じゃん?(曽根崎に)そう思わねえ?」
突然、話を振られて口ごもる曽根崎。
曽根崎「あ……まあ……うん……どうだろう」
社員B「ナンだよハッキリしろよー」
誤魔化すように苦笑する曽根崎。
○同・応接室・中
部長の前に立つ曽根崎。
曽根崎「解雇……ですか」
部長「(目を逸らし)そういうことだ」
動じる風もなく、落着いている曽根崎。
曽根崎「理由は?」
部長「これといってない。……と言っては変だが、これといってないのが、理由と言えば理由だ」
曽根崎「わかりますよ。可もなし不可もなし、ってヤツが問題なんでしょ」
部長「……すまん。この不況で、わが社も厳しい状況なんだよ」
曽根崎「そうそう、厳しいと言えば僕の案件、引き継ぐ人は大変ですよ。納品直前に仕様変更。設計書も全部作り直しですから」
渋い顔をする部長。
○某アパート・曽根崎の部屋・中
座って漫画を読んでいる曽根崎。
近くに座っている玉井初子(27)。
初子「……そう。残念だったね。せっかく、頑張ってたのにね」
曽根崎「一年と3ヶ月。俺にしちゃ持った方でしょ」
黙っている初子。何か言いたげな様子。
初子「あの……ね。実は今日、話があって来たんだ。こんな時にこんな話し切り出すのもどうかと思ったんだけど……」
曽根崎「(遮り)私たちそろそろ、別れたほうがいいんじゃないかしら」
初子、驚いて曽根崎を見る。
曽根崎「(女の声色で)お互い仕事の都合で時間も合わないし、趣味も違いすぎるし、だいいちあなたって何話しても暖簾に腕押しで全然面白くないのよね」
俯いて黙る初子。
曽根崎「図星?」
初子「……ごめん」
曽根崎「(軽く)いいよ気にしなくて。この前Aまで行ったからさ、そろそろじゃないかと思ってたんだ、俺も」
初子、気まずそうにゆっくりと立ち上がり、部屋を出て行く。扉の閉まる音。
曽根崎、漫画から顔を上げ、机上で起動しているPC画面を見る。
スクリーンセーバーを解除し、ブラウザを立ち上げる。「自殺志願者の森」とタイトルのサイトが表示される。
曽根崎「……頃合い、かな」
○同・中(夜)
机の上で手紙を書いている曽根崎。
丁寧に折りたたんで、封筒に入れる。それが終わると、今度はPCに向かい、「自殺志願者の森」を開く。
掲示板に猛烈な勢いで文章を書き込んでいく。取り憑かれたような表情。
○某雑誌社・編集部・中
席で携帯の画面を見つめている初子。
「曽根崎徳夫」との表示があるメモリダイヤル。「消去しますか?Yes/No」とのダイアログが表示されている。
初子、「Yes」を選ぼうとするが、ややためらった後「No」を選ぶ。
同僚A「玉井さん!渋谷で打合せでしょ?そろそろ出ないとヤバイよ?」
初子「あーいっけない。わかった、すぐ出る」
慌てて鞄を持って席を立つ初子。
別の同僚がすれ違いざまに、
同僚B「あ、玉井さん、手紙届いているけど」
初子「(忙しそうに)私のデスクに置いといて」
慌しく部屋を出て行く。
初子のデスクに封書を置く同僚B。
後から来た他の編集部員が、忙しそうに初子のデスクに書類を積み重ねる。
書類に紛れる封書。
○某アパート・曽根崎の部屋・中
机上で起動したままのPC。
部屋の片隅でハンダゴテを手に何やら作業に熱中している曽根崎。
周囲にはアセトンや漂白剤の容器、乾電池等が無造作に転がっている。
電話が鳴る。手を止め、出る曽根崎。
曽根崎「はい」
電話の声「曽根崎さん……ですか?」
曽根崎「そうですけど」
電話の声「あの、僕、BBS見たんですけど、まだ参加者って募集してます?」
曽根崎「ええ、してますよ。……はい。はい。じゃああの、詳しいことメールで送りますから、アドレス教えてもらえます?」
メモ用紙とペンを手に取る曽根崎。
○某雑誌社・編集部・中(夜)
デスクで書類の整理をしている初子。
ふと、書類の下から出てきた一通の封書に目を留める。
手に取って見るが、差出人名がない。封を開き、中の手紙を出して読む初子。
「12月24日午前零時零分、集団自殺を敢行、その映像をリアルタイムでネット配信。場所は……」等と書かれている。
初子、驚き、封書の宛名書きを見直す。
初子「この字って……彼の……」
○高尾山中・一角(深夜)
人気のない空き地の一角に停車している一台の乗用車。
その周囲でビデオカメラとPCを設置している曽根崎と、他数人の若者達。
若者A「(曽根崎に)ね、マスコミ来るかな」
曽根崎「来るさ。予告状出しといたから」
遠くから近づいてくる光と声。
曽根崎「(気付き)?」
数人の警官がこちらに向かってくる。
若者A「(曽根崎を見て)話が違う!」
警官に混じって初子の姿もある。
曽根崎「(睨み)あいつ……」
曽根崎、手早くビデオカメラとPCを片付け、車に向かう。
若者A「お、お、俺はやめるぜ!こんなの!」
その場から退散する若者A。追従するように他の若者達も逃げていく。
唯一その場にとどまっている若者の一人、都築和哉(24)。
曽根崎、都築に近づき、
曽根崎「お前、最後までやりぬく覚悟はあるか?」
都築「せっかくここまで来たんだ」
曽根崎「じゃ、車に乗れ。早く!」
曽根崎と都築、ビデオカメラとPCを車に積み、自分たちも乗り込む。
車の後部座席にはリード線に繋がれたボトル缶のようなものがある。
すぐそこまで迫っている警官隊。
運転席の曽根崎、車を急発進させる。それを見て、警官隊とは別の方向へ走り出す初子。
○同・別の場所(深夜)
林の一角に停車している車。
車から10メートルほど離れた場所にカメラとPCを設置する曽根崎と都築。
作業を終え、二人とも車に乗り込む。
曽根崎、ボトル缶を手に取り、
曽根崎「覚悟は出来てるよな」
都築「もちろん」
そこへ息を切らせてやってくる初子。
初子「徳夫!」
振り返る曽根崎と都築。
初子「馬鹿な真似はやめて!」
曽根崎「馬鹿……馬鹿?(声を荒げ)ああ馬鹿だよ!やっと馬鹿になれるモンが見つかったんだよ!何が悪い?!」
初子「何を……言っているの?」
曽根崎「俺は俺が許せねーんだよ!何やっても中途半端な俺が!だから今度こそやり抜くんだよ、最後まで!それを皆に見てもらうんだ。邪魔したら殺すぞ」
初子を鋭く睨む曽根崎の眼。唖然として立ちすくむ初子。
曽根崎、都築と眼を合わせて頷き、ボトル缶から伸びたリード線にライターで火をつける。
そして振り向き、カメラに向って叫ぶ。
曽根崎「よく見てくれ!これが、俺の最後の晴れ舞台だ。何もかも中途半端な人生だったが、最後の最後に一つのことを成し遂げたんだから、神様だって、少しは……」
次の瞬間、曽根崎の言葉をかき消すように爆音と炎が上がり、車を包む。
思わず地に伏せる初子。
ゆっくり顔を上げ、炎上する車をじっと見つめる。
初子「……褒めちゃくれないわよ、誰も」
炎の照り返しに光る涙。
空から白い粉雪が舞い始める。
(終)
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