『彼女の戦争』
シナリオセンター研修科 課題作品
課題:魅力ある女


人 物

伊吹麻李(25)傭兵
カレル(37)傭兵部隊隊長
アル(36)傭兵・麻李の先輩

待機要員A


○ある教会・礼拝堂・中
  ステンドグラスに描かれた十字架のキリスト。
  それを、膝を抱えてじっと見ている少女、伊吹麻李(9)。
  キリストを遮るように麻李を覗き込む神父の顔。逆光で顔は見えない。
神父「さあ、おいで」
  眼を見開いたまま動かない麻李。
神父「どうした?また痛い目にあいたくはないだろう?」
  麻李、ボタンをはずし、着ていたシャツを脱ぐ。
  露になった背中には、鞭で打たれたような幾多の傷跡。
神父「……いい子だ」
  神父にゆっくり近づき、その股間に顔を埋める麻李。

○東南アジアの戦場
  爆音と銃声と怒声が響く。
  背後からの硝煙弾雨に晒されながら撤退行動中の傭兵部隊。
  その中に伊吹麻李(25)とアル(36)の姿。麻李の首に揺れる十字架のペンダント。
  麻李とアル、攻撃をかわしながらブッシュ近くの窪地に逃げ込む。
  麻李、パックから弾頭を取り出し、背負っていた無反動砲・RPGにセットし始める。取り憑かれたような表情。撤退を続けようとしていたアル、それを見咎め、
アル「(英語・以下同じ)何をしている麻李!撤退だ」
麻李「まだ戦える!」
アル「駄目だ!作戦は失敗した。余計な戦闘は犠牲を増やすだけだ!」
  その時、機関銃の弾丸が麻李とアルの周囲に着弾する。
  思わず伏せるアル。
  麻李、弾かれたように振り向き、RPGの引き金を引く。
  RPGの発射と共に強烈なバックブラストが後方のアルを襲う。
  アル、咄嗟に避けるが、足を焼かれる。
麻李「(振り向き)!」
  倒れたアルに思わず駆け寄ろうとする麻李。
  アル、苦悶の表情で麻李に銃を向ける。
アル「教えたはずだ。ワンショット・ワンムーヴ。死にたいのか」
  後方から麻李を狙っている敵戦車。
麻李「(気付き)!」
  突然、横から飛んできた弾丸が戦車を貫く。炎上する戦車。
  麻李、弾丸の飛んできた方向を見る。RPGを構えているドイツ人傭兵のカレル(37)。
  ハンドシグナルで麻李に撤退を促す。
  倒れて呻いているアルを後ろめたそうに見やりながらも、ブッシュに向って走り出す麻李。
  その後ろで爆発。爆風に伏せる麻李。その目の前に千切れた手首が落ちてくる。
麻李「……!」

○とある廃村(夕)
  集まっている傭兵部隊。
  俯いたまま立ち尽くしている麻李。
  その周囲を取り囲んでいる傭兵達。
  皆一様に傷を受けている。
  麻李の前に立つカレル。
カレル「本来なら袋叩きにして殺したいところだが、今回は許してやる。頭を冷やして、自分のしたことを考えろ」
麻李「(顔を上げ)新兵とは言え、私も傭兵の一人だ。ミスを犯したのなら、どんな処罰でも受ける!」
カレル「そう熱くなるな。お前は俺たちとは違う」
  立ち去るカレル。
  他の傭兵達も、麻李を一瞥しつつわらわらと去っていく。
  ひとり取り残される麻李。唇を噛み締め、胸の十字架を握り締める。

○同・一角(夕)
  追いすがるようにカレルを追ってくる麻李。
麻李「待ってくれ!」
  無視して歩き続けるカレル。
麻李「私が女だからなのか?答えてくれカレル!」
  カレル、振り向き、
カレル「皆の反対を押し切って、お前をこの部隊に入れたのはアルだ。皮肉にも彼は、女が戦場では足手まといにしかならんことを、見事に証明したってわけだな」
  言い捨てて立ち去ろうとするカレル。
麻李「……私だって、戦える!」
  麻李、カレルの前に立ち塞がり、格闘線を挑む。
  麻李の攻撃を尽くかわすカレル。
  × × ×
  フラッシュ――ファーストシーン、逆光で顔の見えない神父の顔。
  × × ×
麻李「私は、理不尽な男の力などに屈したりはしない!」
  なおもカレルに掴みかかる麻李。
  が、腕を逆手に取られ、地面にねじ伏せられてしまう。
カレル「その傲慢さがアルを殺した!なぜ、そう意固地になる?」
  カレル、言いつつもふと、麻李の背中を見やる。
  シャツの襟から、鞭で打たれたような古い傷跡が覗いている。
カレル「……それとも、過去に何かあったのか?」
  麻李、カレルの手を振り解き、カレルに向き直る。
麻李「あなたに話すことじゃない」
カレル「その傷……誰につけられたか知らんが、そんなものの為に戦っても、誰かを犠牲にするだけだぞ」
麻李「!」
カレル「次の作戦では前線には出るな。ここに残って、拠点を守れ。命令だ」
  踵を返すカレル。
  その後姿をじっと見送る麻李。

○同・小屋の中
  雨の中、カレルの号令と共に出撃していく傭兵たちを窓から見守っている麻李と、他数人の待機要員。
  × × ×
  胸の十字架を手に取り、考え込んでいる麻李。
  銃の手入れをしていた待機要員A、麻李を見やり、
待機要員A「お前さんと一緒に留守番とはな。俺もなめられたもんだ」
  麻李、反応しない。拍子抜けした様子の待機要員A。
  そこへ、無線の通信が入る。
  激しい銃声と爆音に混じって聞こえてくる、カレルの呻くような声。
カレル「こちらホワイトファング……誰か、応答しろ……」
  マイクに飛びつく麻李。
麻李「こちらプリベンダー!カレル隊長!何があった?!」
カレル「麻李か……今すぐ逃げろ。裏をかかれた。敵がそっちに向ってる」
麻李「なら、私たちもすぐ応援に――」
カレル「来るな!……今、お前に出来ることを……」
  プツリと途切れる通信。
  一瞬の沈黙の後、一斉に銃を取り、小屋を出て行こうとする待機要員たち。
  黙ったまま、十字架を強く握り締める麻李。掌から一筋の血が流れる。
麻李「(待機要員たちに)……何処へ行く」
待機要員A「決まってるだろ!仲間を放っては置けない」
  麻李、待機要員Aを真っ直ぐに見て、
麻李「いや、撤退だ」
  驚いて麻李を見る一同。
  麻李、一同を見渡し、
麻李「もう一度言うぞ。撤退だ。すぐにここから脱出する」
待機要員A「麻李、貴様いつから……」
  麻李に掴みかかる待機要員Aだが、逆にねじ伏せられる。
麻李「そんなに無駄死にしたいなら死にに行けばいい。だが私は生きる!何があろうと生き延びてみせる!」
  圧倒されているほかの待機要員たち。

○ジャングルの中
  仲間たちと共に、先頭を切ってジャングルを駆け抜ける麻李。
  背後から微かに響いてくる銃声。
  振り返らずに、ひたすら走る麻李――。

○ある小高い丘の上(夕)
  崖の上にひとり立つ麻李。
  夕陽が眩しい。
  首から掛けていた十字架を外し、崖下に投げ捨てる。
  夕陽を一瞥し、その場を立ち去る麻李。その顔には、決意が漲っている。
(終)

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