『源流(ルーツ)』
シナリオセンター本科 課題作品
課題:旅
人 物
栖本毅(35)ツアー参加者
等々力甚吾(53)ツアー企画者
倉敷なつみ(27)ツアー参加者
常吉直樹(47)ツアー参加者
サコ(21)現地人ガイド
○MK物産本社・ホール・中
正装の男女たちが集まっている。
「第35期社長賞・優秀社員賞受賞記念パーティー」の看板。
眩いスポットライトに照らされた壇上に立つスーツ姿の栖本毅(35)。
沸き起こる拍手。
社長から賞状と祝儀袋が栖本に手渡される。恐縮しながらも笑みを浮かべて賞状と祝儀袋を受け取る栖本。
ふと顔を上げて賞状に目をやり、愕然。賞状には「死亡診断書」の文字。
慌てて祝儀袋に目をやると、そこには「離婚届」の文字。
栖本、賞状と祝儀袋を取り落とし、突然喉を押さえて苦しみだす。
足元がふらつき、壇上から落ちる。
思わず腕を真上に伸ばす栖本。その腕を別の誰かの腕がしっかり掴む。
○河のほとり
水の中から勢い良く引き上げられる栖本の身体。
彼を引き上げている等々力甚吾(53)、手伝っている黒人青年サコ(21)、その様子をハラハラしながら見守っている倉敷なつみ(27)と常吉直樹(47)。
いずれも大きな荷物を持ち、行動的な服装。
陸に上げられた栖本、水を吐き、苦しそうに咳き込む。
等々力「全く、もう少しで死ぬとこだったぞ」
栖本「俺は……どうしたんだ?」
常吉「足を滑らせて、滝壺に落ちたんだろ。覚えてないのか?」
栖本「……そう、だったか」
○ジャングル・遠景
どこまでも広がる広大な密林。
タイトル「東アフリカ・ザイール」
○ジャングルの中
歩き続ける一同。
等々力とサコが先頭を切って進み、後から常吉、なつみ、栖本が続く。
常吉「しかし誰がこんな馬鹿げたツアー考えたんだろうな」
なつみ「誰かさんの経営していた旅行会社が倒産して、その腹いせに私達が付き合わされてんでしょ」
と、前を歩いている等々力を見る。
無視して歩き続ける等々力。
常吉「そういう君こそ、男に捨てられた腹いせなんだろ?」
なつみ「そんな話蒸し返さないでよ。事情は出発の時話したでしょ。あなたこそ、旅の途中でポックリ逝ったりしないでよ」
常吉「どうだかな、威勢のいい病気らしいから。しかし、見も知らぬ四人が、人生がうまくいかない腹いせにアフリカ縦断ツアーか。ネットで募集したとは言え、よくもまあ落伍者が4人も集まったもんだ。あんたもそのクチかい?」
と、栖本を見る。
なつみ「(栖本に)そういえば、まだあなたの事情聞いてなかったわね」
俯いて歩いていた栖本、顔を上げ、
栖本「……いずれ話すよ」
○深い谷の前
切り立った崖の淵に立つ5人。サコとなにやら現地語で話している等々力。話し終え、常吉たちに話しかける。
等々力「夕暮れ近くになると、ここにも雷雨がやってくるかもしれない。今の時間からここを越えるのは危険だ」
常吉「もうすぐ雨季だからな」
等々力、地図を取り出して広げ、
等々力「一端この辺に退避して、雨が過ぎるのを待とう」
荷物を背負い、歩き出そうとする一同。一人、栖本だけがその場に佇んでいる。
なつみ「どうしたの?行くわよ」
栖本「俺はこのまま谷を渡る」
驚く一同。
常吉「今のは、冗談か?それとも……」
栖本「早く行け。ここからは一人で行く」
なつみ、何か言おうとするが等々力がそれを制して、
等々力「(栖本に)雨季の雨は半端じゃないぞ。物凄い水飛沫で何も見えなくなる。そんな状態で谷を渡るのは危険だ」
栖本「そんな事は言われなくてもわかってる」
と、構わず歩き出そうとする。
等々力「さっき滝壺に落ちた時……」
足を止める栖本。
等々力「あの時、君は足を滑らせたというより、自分から飛び込んだように俺には見えた。何が目的だ?何のためにこのツアーに参加した。過去に何があったか知らないが、まさか自殺ツアーと勘違いしてるんじゃないだろうな」
足を止めたまま動かない栖本。
突然、呻き声を上げて倒れかかる常吉。慌てて常吉の身体を支えるなつみ。
なつみ「大丈夫?!」
常吉「心配ない。ちょっと目眩がしただけだ」
等々力「早く休ませよう。(栖本に)この件は一時お預けだ」
栖本「……」
○サバンナ(夕)
黒雲が空を覆う。雷鳴が鳴り響き、激しい雨が大地を叩く。
○等々力たちのキャンプ・外観(夜)
雨は上がり、夜空に満天の星が輝く。
キャンプから少し離れたところで星空を見上げている栖本。
設置されたテントの入り口付近で栖本を見ている等々力。
テントからなつみが出てくる。
等々力「どうだ?具合は」
なつみ「大丈夫。落ち着いてる」
ホッとしたように頷く等々力。栖本に視線を移し、
等々力「彼を見ていてくれないか。放っておくと何をするか分からん」
なつみ「(頷き)そう……ね」
テントの中に入る等々力。
なつみ、栖本に近づき、
なつみ「話してくれない?あなたの事情」
黙っている栖本。重い沈黙。
なつみ、溜息をついて立ち去ろうとするが、栖本が口を開く。
栖本「会社で……社長賞を取った。その晩、妻が家を出た。息子も一緒だった。後には、何も残らなかった。忘れるために仕事した。来る日も来る日も、寝食を惜しんで……。ある日、リストラされた友人が自殺したっていう知らせが届いた」
なつみ「やっぱり、死に場所を探してるの?」
少しの間。
栖本「(微笑)いや、ただ暇なだけさ。失うものが何もなくなってから、退屈で仕方がなくてね」
栖本を哀れむような眼で見つめているなつみ。
○サバンナ
依然続いているサバンナの風景。
タイトル「東アフリカ・ケニア」
現地語で話している等々力とサコ。
等々力、一同に向き直り、
等々力「ここを超えればアフリカ大地溝帯に着くそうだ」
なつみ「大地溝帯?」
等々力「太古の地殻変動で出来た大地の割れ目さ。三百万年前、最初の人類もそこで生まれたと言われている。言ってみれば、人類発祥の地だな」
感心しながら聞いているなつみ。
その隣で顔色の悪い常吉。
等々力「じゃあ、そろそろ行くか」
と、歩き出そうとした時、常吉の異常に気付く。
苦しそうな顔で、その場に倒れこんでしまう常吉。
等々力「おい?」
常吉「俺……そろそろやばいみたいだ」
一同「!」
常吉を抱え起こすなつみと等々力。
栖本は立ち尽くしたままで、常吉の様子をじっと見守っている。
なつみ「薬、飲んでたんじゃなかったの?!」
常吉「飲んだ振り、してただけさ……」
なつみ「どうして!」
常吉「どうせ死ぬなら、こんな場所で死にたかった。ロクな人生じゃなかったが、最後の最後で夢が叶ったよ……」
眼を閉じて動かなくなる常吉。
なつみ「常吉さん!」
等々力「常吉!」
サコが現地語で何事か言う。
なつみと等々力が振り返ると、栖本が一人で出発しようとしている。
等々力「何をしている!」
栖本「俺は行く。人類発祥の地をこの目で見てみたい」
等々力、栖本に掴みかかり、
等々力「まだそんなこと言ってるのか!俺はもう誰も死なせないぞ!何かを失うのはもう沢山だ!」
睨み合う栖本と等々力。不安げに見守るなつみ。
栖本がはっきりした口調で言う。
栖本「俺は死ぬために行くんじゃない。ただ、生きていることを確認したいだけだ。あんたらも、そのためにここに来たんじゃなかったのか?」
等々力・なつみ「……」
栖本「最初は俺も死に場所を探してた。だが今は……この先に、もし俺達の源流(ルーツ)があるのなら見てみたい。そのために生きてみる価値はある。例え、死がいつも隣にあるとしても」
しっかりした足取りで歩き出す栖本。
等々力、常吉の遺体を抱き上げると、ゆっくり栖本の後に続く。
なつみ、サコも黙って歩き出す。
遠く東の空で雷鳴が響いている。
(終)
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