『迷子の迷子の』
シナリオセンター研修科 課題作品
課題:不安
人 物
志乃子(18)女子高生
愛美(18)女子高生
女子A
警官
○駒場高校・教室・中
まばらな生徒達の姿。
鞄に参考書や教科書を詰めて席を立つ女子生徒、志乃子(18)。
近くの席でだべっていた女子A。
女子A「来週模試かよ、かったりー。(志乃子に向き)しのこー、帰りにマロリーでお茶してかない?」
志乃子「ごめん、今日は塾なの」
女子A「えー、昨日も塾で一昨日も塾じゃなかった?」
志乃子「明日も塾で、明後日も塾なの」
そそくさと教室を出て行く志乃子。
女子A「つっきあいわりー」
志乃子の後姿を見ている女子生徒、愛美(18)。後を追うように席を立つ。
○駅・ホーム
電車を待っている志乃子。
数学の参考書を開いている。
やがて参考書を降ろし、溜息。
と、前方の線路上に一匹の子猫がいることに気付く。
志乃子「……?」
志乃子、周囲の人々を見渡す。
誰も子猫に気付いていない様子。
志乃子、気にしつつも再び参考書に顔を埋める。
アナウンス「間もなく三番線に電車が参ります。危険ですので……」
志乃子、参考書から顔を上げる。
まだ線路上にいる子猫。気付かないか、見て見ぬフリをする周囲の人々。
電車が迫ってくる。
志乃子「(やや焦り)ちょっと……誰か気付きなさいよ」
電車更に近づく。動かない子猫。
志乃子「(見比べ)――」
志乃子、意を決したように線路に飛び降りる。地面に落ちる参考書。
周囲のざわめき。慌てる駅員の声。
猫に向かって走る志乃子。
志乃子が猫を抱き上げようとした時、もう一人別の手が猫を抱き上げる。
志乃子「愛美?」
愛美「あ、志乃子」
唖然と線路上に突っ立っている志乃子と愛美。と、けたたましい警笛。
電車がふたりに迫ってくる。
気付き、慌てて子猫を抱いたまま逃げる志乃子と愛美。
電車、ふたりに追いつきそうになりながらも辛うじて停まる。
安堵したように立ち止まる愛美。
なおも線路上を逃げ続ける志乃子。
愛美「ふぅー、あぶねー。(志乃子を見て苦笑)もう大丈夫だぞ。電車止まったし」
慌てて引き返してきた志乃子、愛美の腕を掴んで引張っていく。
愛美「ちょっと、なんだよ?!」
構わず走り続ける志乃子。
駅員の呼ぶ声が後方で聞こえている。
○道路脇
立ち止まる志乃子、子猫を抱いた愛美。
愛美「どうしたっての」
志乃子答えず、膝に手をついて荒く息をしている。
周囲を見回す愛美。自転車で巡回中の警官が目に入る。
愛美「あ、おまわりさ……」
志乃子、慌てて愛美の口を塞ぐ。
気付かず行ってしまう警官。
愛美「(振り解き)なんなのさ!」
志乃子、深刻な表情で俯いたまま。
志乃子「……JR」
愛美「?」
志乃子「(顔を上げ)……JR、一分止めたら80万」
ポカンとなる愛美。
○ファーストフード店・店内
ハンバーガーを食べている志乃子と愛美。愛美のリュックから微かに顔を覗かせる子猫。
愛美「(爆笑)あはははは」
志乃子「な……何が可笑しいのよぉ!」
愛美「可笑しいよ。電車止めたら一分につき罰金80万円?ありえねー」
志乃子「本当なんだってば!ある人なんか、車が踏み切りで立ち往生して電車が1時間も停まって、その罰金で全財産搾り取られて、結局その人は自殺しちゃって……」
愛美、志乃子の唇に指を当てて言葉を遮り、
愛美「それって、いわゆる都市伝説ってヤツじゃん?」
志乃子「都市伝説……?」
愛美「ほら、よくあるじゃん。マクドナルドのハンバーガーは、実はオーストラリア産のミミズの肉で造られていた!とか」
手元のハンバーガーを見る志乃子。
志乃子「(押し付けて)あげる」
愛美「(押し返し)だから、都市伝説!ただの噂なんだってば」
俯く志乃子。
愛美、リュックを覗き込み、
愛美「それよかまず、この子どうにかしないとな。交番って、捨て猫とかも預かってくれるんだっけ?」
志乃子「(顔を上げ)交番はダメ!面が割れる」
愛美「……多分もう割れてると思うけど。駅員に顔見られてるし」
志乃子「(泣きそう)……もし罰金なんか払うことになったら、私進学できない」
愛美、微笑。
愛美「キミって現実主義者だと思ってたけど、案外迷信深いとこあるんだな。ちょっと微笑ましいよ、うん」
志乃子「笑い事じゃないわよ!あんたこそどうしてそんな能天気でいられるの?!」
愛美「じゃあ聞くけど、なにが楽しくてそんなに毎日毎日塾に通うんだ?」
志乃子「楽しい楽しくないの問題じゃ……(ハッと腕時計を見て)あ、塾!もういや〜」
うなだれてテーブルに突っ伏す。
愛美「いいじゃん、一日くらい。どうせ明日も明後日も行くんだろ?そんなことより、とりあえず交番行かないと。ねぇ」
と、リュックの中の子猫に話しかける。
志乃子「だめ!JR、一分」
愛美「(遮り)だって、猫助けたんだぜ?」
志乃子「でも電車止めた」
愛美「(観念したように)わーかった!もういいから塾行きなさいな。キミは関ってなかったことにしといたげるから」
と、リュックを抱え席を立つ愛美。
志乃子「(黙る)――」
愛美「(見て)自分がしたこと、もう一度よく思い出してみなさいな。キミは猫を助けたんだよ。人目とか関係なく、自分がそうしたかったからそうしたんだろ?」
志乃子「……」
店を出て行く愛美。
リュックの隙間から顔を覗かせ、志乃子を見ている子猫。
動けずにいる志乃子。
○街中・交番の近く
子猫を腕に抱いて市街地を歩く愛美。
愛美「80万なんて、いくらなんでも、ねぇ」
ビル壁面の大画面からニュースが流れてくる。
キャスター「……このため××線には現在約15分の遅れが出ています」
足を止める愛美。
愛美「(ひきつった笑顔)……眉唾、眉唾。都市伝説なんだってば」
言いつつ、恐る恐る大画面を振り返る。
画面には、駅のホームで列を作る人々のVTR映像。
愛美「(苦しい笑い)大丈夫、だよな……多分……あは、あはははは」
言いつつも交番とは反対方向に足が向きかける。
志乃子の声「早く交番行くよ」
愛美「え?」
現れた志乃子、愛美の脇を通り過ぎ、まっすぐ交番に向かう。
愛美「(微笑し)……」
○交番・中
警官の前に座っている志乃子と愛美。
警官「ちょっとここで待っててね」
と、子猫を抱き上げ奥の部屋に入っていく。
志乃子「80万くらい、二人でバイトすれば何とかなるよね」
愛美「でも、受験はどうするの?」
志乃子「両立できる。……多分」
愛美「(微笑)そう、その意気。たがが80万、二人で頑張れば2年か3年で……ん?待てよ?一分止まったら80万って言った?」
志乃子「そうだけど?」
愛美「さっきニュースで……」
志乃子「?」
愛美「……15分て……」
間。
指を折り計算するふたり。
志乃子・愛美「(同時に)1200万!!」
チラと奥の部屋を見る志乃子と愛美。子猫を籠に入れている警官。
志乃子「……どうする?」
間。
愛美「逃げよう!」
頷く志乃子。
抜き足差し足で出口へ向かうふたり。
警官「(気付き)君たち?」
志乃子・愛美「きゃああああああ!!」
交番を飛び出す志乃子と愛美。
ふたりの悲鳴が街角に響き渡る。
(終)
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