『てのひらの宝石』
シナリオセンター本科 課題作品
課題:盗む


人 物

源野翔太(12)小学生
水島園香(12)小学生
矢奈見勇実(12)小学生
桐上洋平(12)小学生
青葉順平(7)小学生
水島達郎(42)園香の父・ペットショップ経営


○空き地
  草生す空き地に一台の廃車。車体にペンキで「ひみつ基地」と書かれている。
  その前で、苛ついた様子で足踏みしている源野翔太(12)。
翔太「……遅い!」
  そこへ、青葉順平(7)が手を振りながら走ってくる。
翔太「遅いぞ順平!(キョロキョロして)勇実と洋平は?」
順平「それがね、二人を呼びに行ったらね」

○イメージ
  眼鏡を掛けた少年、桐上洋平(12)。
洋平「ひみつ基地?ワタクシ、今日は塾で忙しいんですけどね」
  × × ×
  気の強そうな女の子、矢奈見勇実(12)。
勇実「あんた、まだそんな子供っぽいことやってんの?いい加減卒業しなさいよ」

○空き地
順平「……だってさ。最近集まり悪いね」
  舌打ちする翔太。
翔太「チェッ、何なんだよ、あいつら……」

○並木道
  つまらなそうに石を蹴とばしながら歩く翔太。後に続く順平。
  ふと、道沿いの木を見上げる翔太。
  枝に泊っていた一羽の白い小鳥が、羽ばたこうとしてバランスを崩し、木から落ちる。
翔太「あぶねっ」
  思わず手を差し伸べる翔太。
  向かいから走ってきた水島園香(12)が翔太と同時に手を差し出している。
  二人の手に受け止められる小鳥。
  次の瞬間、園香と眼が合い、慌てて手を引っ込める翔太。
翔太「ご、ご、ごめん」
園香「(クスリとして)ううん……ありがとう」
  翔太に微笑みかけてから、心配そうに手の中の小鳥に目を移す園香。
翔太「(覗き込み)……足、怪我してるね」
園香「連れ帰って、手当てしてみる。うち、ペットショップだから」
  園香、腕時計を見て、
園香「あ、もう私行かなきゃ。じゃあね」
  と、手を振って走り去る。
  ポカンと口を開けたまま見送る翔太。その横顔を見ている順平。

○××小学校・教室内
  授業中の教室。
  窓際の席で、ボーと外を見ている翔太。その顔に、教壇からチョークが飛んでくる。

○商店街・路上
  鼻の頭に絆創膏をした翔太が歩いてくる。後をついて歩く順平。
順平「翔にい、その怪我どうしたの?」
翔太「(ムスッとして)……うるさい」
  前方にペットショップが見えてくる。
  ハッとして立ち止まる翔太。
順平「翔にい?」
翔太「きょ、今日はこっち通るのやめようぜ」
  と、落着かない様子で踵を返そうとした時、突然ショップの中から鳥篭を抱えた園香が飛び出してくる。
  鳥篭の中には鮮やかな色をした美しい鳥の姿。
  園香を追って出てくる水島達郎(42)。
水島「(鳥篭を指し)それを渡しなさい、園香」
園香「だめ!この子は故郷へ帰してあげるの!」
水島「いい加減にしなさい!」
  園香の頬を叩いて店内に引戻す水島。
  涙目の園香、翔太と眼が合う。
翔太「!」
  店内に消える園香。立ち尽くす翔太。

○空き地
  「ひみつ基地」の前に立つ翔太と順平。
  白け顔で翔太を見ている洋平と勇実。
洋平「話を総合すると、要はそのペットショップに忍び込んで捕われの鳥を助け出し、自然に帰そう、ということですか?」
勇実「つまり私達に泥棒の手伝いをしろっての?最近妙にボーっとしてると思ったら、そんなこと考えてたのね」
洋平「要は可哀想な鳥を助けて、その女の子にいいカッコしたいってところですかね」
翔太「(怒鳴る)そんなんじゃねえよ!」
  翔太の剣幕に黙る勇実と洋平。
翔太「悲しんでる女の子がいるんだぞ。俺ら、困った時はいつも助け合ってきたじゃねーか。なのに何だよ、最近は急に大人ぶりやがって!俺は一人でもやるからな!」
  立ち去る翔太。後をついていく順平。
勇実「ムキになっちゃって、ホント子供なんだから、翔太って」
洋平「まったくです……」
  沈黙する勇実と洋平。
勇実「……なんで黙るのよ」
  答えられない洋平。

○ペットショップ・ミズシマ・前(夜)
  人気のなくなった商店街。
  閉まったシャッターの前に翔太と順平が屈んでいる。
順平「ねえねえ、どうやって忍び込むの?」
翔太「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、秘密兵器を用意してきた……コレだ!」
  クリップを取り出す。
翔太「前に、映画で見たことがある……」
  × × ×
  引き伸ばしたクリップを鍵穴に差し込んでぐりぐり回している翔太。
  横で欠伸している順平。
順平「ねえ、いつ開くの?」
翔太「おっかしいなー、映画じゃ確かに……」
勇実の声「映画と現実は違うのよ」
洋平の声「もう少し頭を使って欲しいですね」
  翔太が驚いて振り返ると、勇実と洋平が立っている。
翔太「お、お前ら……」
勇実「全く……あんた一人じゃ心配だから、来てやったのよ。感謝なさい」
  翔太、目が潤んでいる。

○水島家・座敷・中(夜)
  部屋の中には誰もいない。
  畳がゆっくり持ち上げられ、床下から翔太たちが恐る恐る顔を出す。
翔太「なるほど、この手があったか」
勇実「(洋平に)ね、これがばれたら、やっぱフホーシンニューとかで警察に捕まるのかな?」
洋平「あ、それなら大丈夫です。日本には少年法という便利な法律もあって――」
翔太「シッ!」
  床下から這い出て、奥へ進む一同。

○ペットショップ・ミズシマ・店内(夜)
  忍び足で入ってくる翔太たち一同。
  店内には様々な動物達がいる。
勇実「どれが目的の鳥?」
翔太「(しまったという顔)あ……」
  呆れ顔で翔太を見る勇実と洋平。
翔太「ええ〜と〜たしか〜」
順平「いた!」
  と、片隅の鳥篭を指す順平。
  洋平、鳥篭の中の鳥を見て、
洋平「あれ?ヒスイインコじゃないですか。おかしいな、これって確か――」
翔太「何でもいいから手伝え!」
  鳥篭ごと持ち出そうとする翔太たち。
  と、家の奥から物音がする。
翔太「うわっやばいっ戻せ戻せ」
  鳥篭を元の場所に戻し、一斉に物陰に隠れる翔太たち。
  消える物音。しばしの沈黙。
  翔太たち、物陰から恐る恐る這い出て、再び鳥篭に手を掛けようとする。
  突然店内の灯りが点き、水島が現れる。
水島「こらぁっ!」
翔太たち「うわぁぁぁっ」
  悲鳴を上げて一斉に逃げようとする一同。水島、翔太の腕を掴まえて、
水島「こいつ!警察に突き出してやる!」
園香の声「やめて!」
  一同、振り返ると園香が立っている。
園香「(涙目)その人たちを放して!悪いことしてるのはお父さんの方じゃない!」
水島「園香、何を……」
園香「知ってるもん!私もう子供じゃない! (鳥を指し)この子は故郷へ帰してあげなきゃいけないの!」
洋平「(水島に)それ、ヒスイインコですよね。確か、ワシントン条約で輸入は厳重に禁止されているはずです」
勇実「(小声で)さすが弁護士の息子……」
  水島、何も言えない。
勇実「それが本当なら、おじさんこそ警察に突き出されるべきよ!ねえ、翔太?!」
  と、翔太を見るが、翔太は俯いて唇を噛み締めている。
翔太「できねーよ……」
勇実「翔太?」
翔太「だって、園香ちゃんのお父さんなんだろ?警察に突き出したりしたら、園香ちゃんが……できねーよ、そんなこと!」
勇実「翔太……」
  言葉もなく佇む一同。

○××小学校・屋上
  翔太、順平、勇実、洋平が柵にもたれている。
洋平「園香ちゃんのお父さん、あの後自首したそうですね」
翔太「俺、余計なことしちまったのかな……」
勇実「翔太……」
翔太「後先考えないで一人でカッコつけて……お前らの言う通り、ほんとガキだよな」
園香の声「そうじゃないよ」
  翔太たちが振り返ると、園香が屋上にやって来ている。その手の中には、すっかり怪我の治った白い小鳥。
  ばつが悪そうに園香から目を逸らす翔太。園香、そんな翔太に笑いかけ、
園香「自分を責めないで。大切なもの、あなたは持ってるじゃない」
  勇実たちにつつかれ、ゆっくりと園香を見る翔太。
  × × ×
  翔太と園香が掌を重ねて小鳥を空に放そうとしている。
  ゆっくり掌を開く翔太と園香。
  空に向って、小鳥が勢い良く飛び立つ。
  眩しそうに見上げる翔太たち。
(終)

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