『ヒモジラ』
シナリオセンター本科 課題作品
課題:ヒモ
人 物
カナ子(18)(22)OL
ゴジラ(?)ヒモ怪獣
女子社員A
女子社員B
女子社員C
喫茶店・店員
モスラバーガー店長
現場監督
面接官
刑事A
刑事B
○喫茶店・店内
客たちの視線が一方に集中している。
あちこちから聞こえるヒソヒソ話の声。
客たちの視線の先には、窓際の席に座ったカナ子(22)とゴジラ(?)の姿。
一人の店員が、恐る恐るカナ子とゴジラの席に近づいてくる。
店員「あ、あのー、恐れ入りますが……」
カナ子・ゴジラ「?」
店員「あいにく当店では、放射能を帯びたお客様は……」
○同・入口前
カナ子とゴジラが出てくる
カナ子「追い出されちゃったね……」
ゴジラ「(俯いて)ガオ……ガオガオ……」
カナ子「気にしないで、ごっちゃんのせいじゃないわよ」
優しくゴジラの頬を撫でるカナ子。
○東宝製紙・オフィス・中
OLの制服姿のカナ子がパソコンに向い、仕事をしている。
その後ろでカナ子を見ながらヒソヒソ話をしている数人の女子社員。
女子社員A「知ってる?カナ子ってゴジラと同棲してるって噂よ」
女子社員B「うっそー!まじぃ?やだー」
女子社員C「前から変な子だと思ってたのよねー、経歴とかさあ、謎じゃん。自分のこととか殆ど喋らないし」
女子社員A「これも噂なんだけど、なんでもお父さんがイカれた科学者で、究極の生体兵器を研究してたって……」
女子社員B「えー、なんかこわーい」
黙々と仕事を続けるカナ子。
○円谷荘・外観
二階建ての小さなアパート。
○同・カナ子の部屋・中
六畳くらいのこじんまりとした部屋。
カナ子とゴジラがテレビを見ながら食事している。
卓袱台に並ぶ質素な料理。
カナ子「こんなものしかなくてご免ね……」
首を振るゴジラ。
テレビでは、原子力潜水艦が沈没したというニュースが報じられている。
思わずテレビを向くゴジラの顔。
眼がキラキラ輝いている。
口からはヨダレが垂れそうになる。
カナ子「(見て)やっぱり、プルトニウムとか、ウランの方がいいよね……」
慌ててヨダレを拭い、否定するように手をぶんぶん振るゴジラ。
カナ子「いいのよ、無理しなくても……」
ゴジラ「ガオッ、ガオガオ、アンギャオ」
カナ子「そんな……穀潰しなんて言い方はやめて。そりゃあ、仕事が見つかればそれに越したことはないけど……でもあなたがいたければ、ずっとここにいてもいいのよ」
ゴジラの眼から涙がこぼれそうになる。カナ子、涙を拭いてやりながら、
カナ子「ホラ、泣かない泣かない。怪獣王でしょ」
○モスラバーガー・前
自分の顔写真を添付した履歴書を手にして立っているゴジラ。
ひと吠えして、意を決したように店の中に入っていく。
○同・店内
片隅の席に、制服を着た店長とゴジラが向い合っている。
テーブルの上の履歴書。
店長「意欲は買うけど、ホラ、ウチは食物扱ってるから、放射能はちょっとねえ……」
肩を落すゴジラ。
○ビル建設現場
現場監督に追いすがり、力こぶを見せつけるゴジラ。
現場監督「(手で追い払い)いくら力があっても、そんな長い尻尾引きずって歩かれたんじゃ危なくてしょうがねえや。仕事なら他をあたりな」
○某事務所・中
ゴジラと面接官が向い合う背後で、テレフォンアポインターたちが忙しく電話に出ている。
面接官「(難しい顔で)電話に出ていきなりガオーじゃ、引くでしょ、お客が」
○路上(夕)
沈む夕陽を背に、トボトボと歩いていくゴジラ。
寂しそうな後ろ姿。
○円谷荘・カナ子の部屋・中(夕)
ドアを開けて、カナ子が入ってくる。
カナ子「(明るく)ただいま!ごっちゃん、おなかすいたでしょ?」
ゴジラ、鞄に自分の荷物を詰めている。
カナ子「……ごっちゃん?」
ゆっくり振り向き、思い詰めた表情でカナ子を見るゴジラ。
ゴジラ「ガオ、ガオガオ、グオ……」
カナ子「ごっちゃん……」
カナ子の脇を通り過ぎ、鞄を持って出ていこうとするゴジラ。
カナ子、振り返り、
カナ子「待って!どうしてそんなに自分を責めるの?あなたは何も悪いことなんかしてないじゃない!」
立ち止まり、ゆっくり振り返るゴジラ。
突然、カナ子の腕が黒光りするカノン砲に変形し、背中から金属製の翼のようなものが突き出す。
カナ子「……お父さんの実験台にされて改造されて以来、みんな私を怖がって近寄らなくなったわ。でもあなただけは違った。あなただけは、こんな風になってしまった私の身体を優しく抱いてくれた」
○商店街・路上(回想)
セーラー服を来た女子高生、カナ子(18)がヤジウマに囲まれている。
背中から突き出た翼と、カノン砲に変形した腕。
カナ子に突き刺さる好奇の視線。
カナ子「いや!来ないで!嫌い!みんな嫌い!」
と、カノン砲をヤジウマに向ける。
途端に、慌てふためいて逃げ出すヤジウマたち。
逃げ惑うヤジウマをかき分けて、ゴジラが現れる。
ゆっくりとカナ子に近づくゴジラ。
カナ子「いや!近寄らないで!」
と、カノン砲を構え直すが、近づいてきたゴジラ、何も言わずにいきなりカナ子を抱き締める。
カナ子「(ハッとなり)……!」
○円谷荘・カナ子の部屋・中(夕)
元の部屋の中。
ゴジラ「……」
カナ子「生活費は私が何とかする!プルトニウムも食べさせてあげる!だから、ここで待ってて!ごっちゃん!」
言い聞かせるようにゴジラに言うと、背中の翼をはためかせ、轟然と部屋の外に飛び出していく。
○原子力発電所・外観・遠景(夜)
建物のそこかしこから火の手が上がっている。
飛び交う原発職員たちの声。
職員の声A「大変だー、原子炉があー」
職員の声B「核燃料が盗まれたあー」
○円谷荘・カナ子の部屋・中(夜)
カナ子が入ってくる。手には一本の透明な筒を大事そうに抱えている。
カナ子「ただいま。見て、おいしそうでしょ」
と、待っていたゴジラに筒の中の液体を見せる。
× × ×
マグロの刺し身をおいしそうにつまむゴジラ。
その傍らに置かれた小皿には、醤油の代りに先程の液体が入れられている。
カナ子「どう?おいしい?放射能マグロ」
突然、ドアを激しく叩く音。
カナ子、席を立ちドアを開くと、二人の刑事が立っている。
刑事A「(逮捕状を示し)日向加奈子。逮捕状が出ている。理由はわかってるよな」
カナ子「?!」
有無を言わさずカナ子を連れて行こうとする刑事たち。
カナ子「ご、ごっちゃん!」
あたふたと戸惑っているゴジラ。
刑事B「(ゴジラを見て)おや?ゴジラじゃないか。――ははあ、それでプルトニウムを盗んだってわけか。たかが怪獣一匹のために原発まで襲撃するたぁ、おじさん泣けてくるぜ」
嘲るように笑いながら、カナ子を連行していく刑事たち。
カナ子「だ、大丈夫よごっちゃん。すぐ戻ってくるから」
ドアがバタンと閉められる。
ゴジラ、暴れるように両腕を振りまわし、吠える。
○同・外観(夜)
建物の前に停められたパトカーに連行されていくカナ子。
刑事A「さっさと歩け!」
その背後、突如アパートの屋根が突き破られ、巨大化したゴジラが現れる。
天を仰ぎ、凄まじい咆哮を上げる。
悲鳴を上げて逃げ出す刑事たち。
カナ子「(驚き)ごっちゃん!」
狂ったように暴れ、口から熱線を吐き散らすゴジラ。
円谷荘周辺の家々が火の手に包まれる。
カナ子「やめて、ごっちゃん、やめて!」
ゴジラ、ふと破壊の手を止め、カナ子を見つめる。
カナ子、何かを言いかけるが、ゴジラ、突然踵を返し、去っていく。
愕然とその場に膝を突くカナ子。
遠ざかるゴジラの姿。
その哀しい咆哮が、炎で赤く染まった空に、いつまでも響き続ける……。
(終)
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