『母親殺し』
シナリオセンター本科 課題作品
課題:親子


人 物

美作一馬(10)小学生
美作遼子(36)一馬の母

"りら荘"指導員
"りら荘"上級生A
"りら荘"上級生B
"りら荘"上級生C

男A/B
アナウンサー
刑事


○美作家・玄関前
  美作一馬(10)が二人の男に抱えられるようにしてミニバンに乗せられる。
  嫌がり、泣き叫ぶ一馬。
一馬「母さん!母さん!なんで僕だけ……」
  玄関前で、二人の男に深々と頭を下げている美作遼子(36)。
  玄関の扉の陰に隠れるように様子を見ている3人の兄妹たち。
  ドアが閉められ、ミニバンが発車する。

○ミニバン・車内
  後部座席で泣き寝入りしている一馬。前の座席から聞こえる男たちの会話。
男A「旦那に逃げられて、残ったのが手のかかるガキ共と多額の借金か」
男B「あの歳でこの不況じゃ、ロクな働き口もないだろうさ。こいつもまだママが恋しい年頃だろうに、苦労するよな」

○児童養護施設"りら荘"外観
  "りら荘"の看板がかかっている。
  メルヘンチックなデザイン。

○同・学習室(夕)
  片隅に膝を抱えてうずくまっている一馬を取り囲む3人の上級生。
  その中で最も背の高いリーダーらしき上級生が一馬に、
上級生A「(威圧的に)ここに来たら、まずすることがあんだよ。俺に忠誠を誓う。なんでも俺の言う通りにする。お前からは何も要求しない。わかったか?」
  黙ったまま俯いている一馬。
上級生B「聞こえてんのかよ」
上級生C「何とか言えよコラ」
  一馬、身じろぎ一つせず蹲っている。
上級生B「こいつ、クソでも我慢してんじゃねえのか?」
  笑う上級生たち。
上級生A「そうか、トイレに行きたいのか。だったら、俺らが連れてってやるよ」
上級生B「ホラ、立てよ」
  一馬を強引に立たせ、無理矢理引っ張って行く上級生たち。

○同・トイレ・個室・中
  ドアが勢いよく開けられる。
  一馬を中に連れ込む上級生A、B、C。
上級生B「ここがトイレだぜ」
上級生A「案内してやったんだ、感謝しろよ」
  唇を噛み締めて黙っている一馬。
上級生A「礼の仕方も知らねえのか?(上級生B、Cに)教えてやれ」
  一馬の頭を掴み、水洗トイレの便器の中に無理矢理押し込む上級生B、C。抵抗してもがく一馬。
  上級生たちの残酷な笑い声が響く。
  一馬、震える手で自分のポケットを探り、一本の鉛筆を握り締める。
  突然、鉛筆を振り上げ、上級生Bの顔に突き立てる一馬。
  血が飛び散り、笑い声が悲鳴に変わる。

○同・職員室・中
  ジャージ姿で体格のいい指導員が、一馬と向い合って座っている。
  俯いている一馬。
指導員「なあ、一馬よ。別にお前を責めようってんじゃないんだ。だから、正直に言ってみろ。なんで、あんな事したんだ?」
  黙っている一馬。
  指導員、頬杖を突いて一馬を見ていたが、段々落ち着かない様子になり、突然、手を激しく机の上に叩きつける。ビクッとする一馬。
指導員「どうせ最初からやるつもりで鉛筆隠し持ってたんだろ!え?!」
  唇を噛み締めて耐えている一馬。
指導員「ホラ、『はい』って言ってみろよ」
  一馬、黙っている。
  指導員、やおら立ち上がり、一馬の顎を掴んで無理矢理口をこじ開けようとする。
指導員「口開いてモノ言ってみろっつってんだよ!」
  一馬の顔を掴んだまま部屋中を引きずりまわす指導員。

○同敷地内・プールサイド(夜)
  先程の指導員がやってくる。
  手紙のようなものを手にしている。
指導員「一馬の奴、何の用だ?こんな時間に」
  指導員、ふとプールの中に何かが浮いているのに気付いて目を凝らし――ギョッとなる。
  上級生A、B、Cが、死体となってプール浮いている。
指導員「(言葉が出てこない)……?!」
  突然、後ろから現れた一馬が指導員に体当たりする。
指導員「!」
  一馬の手には包丁が握られており、それが指導員の背中に深々と突き刺さっている。
指導員「て……てめえっ」
一馬「うわあああっ」
  叫び声を上げて手に力を込め、包丁を捻る一馬。
  指導員、呻き声を上げて身体をぐらつかせ、プールに落ちる。
  血に濡れた包丁を手にしたまま、荒く肩で息をする一馬。

○美作家・居間・中
  はたきで部屋を掃除している遼子。
  点けっぱなしのテレビからニュースが流れている。
アナウンサー「昨夜午前零時30分頃、埼玉県浦和市内にある児童養護施設の敷地内で、入所している児童や指導員等、併せて4人が刃物のようなもので刺され、死んでいるのが見つかりました」
  遼子、ハッとして手を止め、テレビに注目する。
アナウンサー「最近この児童養護施設に入所した児童が一人、昨夜から行方をくらましており、警察では……」
  はたきを取り落とす遼子。

○廃工場の裏路地(夜)
  雨が激しく降っている。
  びしょ濡れになりながら走る一馬。
  必死の様子で付近の建物の陰に隠れる。
  遠くから、レインコートを来た刑事らしき男と、制服警官が声を上げながら走ってくる。
  物陰からその様子を見ている一馬。
刑事「(警官に)おい、そっちまわれ!」
  警官と道を別れ、一馬のいる方へ歩いてくる刑事。
  一馬、辺りをまさぐり、落ちていた鉄パイプを手にする。
  × × ×
  一馬のいた辺りまで来る刑事。一馬の姿は消えている。
刑事「(周囲を見回し)何処へ行きやがった、あのガキ……?」
  刑事の後ろから飛び出した一馬、鉄パイプで刑事の両膝の辺りを思い切り強打する。もんどりうって倒れる刑事。
  刑事の上にのしかかるようにして包丁を振り上げる一馬。
  叫び声を上げながら、数回に渡って包丁を刑事に突き立てる。
  返り血を浴びる一馬。
  動かなくなる刑事。
  一馬、刑事のコートをまさぐり、拳銃を取出す。
  肩で息をしながら、銃をじっと見つめている一馬。

○教会・外観
  海岸縁に立つ白亜の建物。
  その前に一人の少年が立つ。
  フードを深く被り、顔は見えない。

○同・礼拝堂・中
  人気のない堂内。
  中央付近の席に一人で座り、静かに祈りをささげている遼子の姿。
  入り口から入ってくる先程の少年。
  聖書を手にしている。
  ゆっくりと遼子に近づき、隣の席に腰を下ろす。
  遼子、ふと気付いて少年を見る。
  次の瞬間、ハッとして腰を浮かす遼子。少年の手から聖書がバサリと落ち、その下から銃口が現れる。
  フードを下ろし、顔を見せる一馬。
  震える手で銃を遼子に向けている。
遼子「一馬……!」
一馬「くそ!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」
  遼子、身動きもできず、一馬の顔をじっと見ている。
  口が開きかけるが、言葉が出てこない。
一馬「なんで……俺だけ捨てたんだ!」
遼子「捨てたんじゃない……お母さんだって辛かった……」
一馬「じゃあ、どうしてこんな所にいるんだ!なんで探しに来てくれなかった!」
遼子「(声を詰まらせ)ごめんない、一馬……ごめんなさい……」
一馬「今さら……」
遼子「(絞り出すような声で)撃って……」
一馬「!」
遼子「あなたの気がそれで済むなら……いいわよ、撃ちなさい」
  目を閉じ、観念したように動かなくなる遼子。
  一馬の息が荒くなる。
  震える指先を銃のトリガーに掛けるが、引けない。
  動かない遼子。
  一馬、腕を振り下ろすようにして銃を下げ、踵を返して早足に出口へ向う。怒りの表情。

○海岸・断崖の上
  教会に程近い断崖の上に立つ一馬。
  海を見つめ、銃を自分のこめかみに押し当てる。
  トリガーを引こうとした時、遼子の手が銃を掴む。
  もみ合う一馬と遼子。
  その拍子に、海に落ちる銃。
  銃を追うようにして断崖へ身を乗り出す一馬を、後ろからしっかり抱き留める遼子。泣き崩れる。
遼子「一馬、どうして……」
一馬「(うなだれて)俺が憎いのは俺だ……」
遼子「……」
一馬「俺が憎いのは俺だ、俺が本当に憎いのは俺だったんだ!」
  遼子、一馬に前を向かせ、改めて正面からしっかりと抱き合う。
  遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
(終)

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