『Ground Zero』
裏合宿(※) 課題作品
課題:よろこび
主要登場人物の年齢・性別:12歳・女性
小道具:ユーミンの曲(1曲)
人 物
西ノ宮希(12)白血病患者
桐生利継(14)白血病患者
西ノ宮志穂(40)希の母
利継の両親
看護婦A
看護婦B
○××病院・廊下
エレベーターのドアが開き、ストレッチャーに乗せられた西ノ宮希(12)が西ノ宮志穂(40)と二人の看護婦に付き添われて運ばれていく。
看護婦A「腰椎穿刺の後で頭痛がするかもしれませんが、安静にしていれば問題ありませんから」
志穂「ありがとうございます」
○同・病室・中
室内には二つのベッドがある。
入ってくる希たち。
志穂、窓の外の景色を見て、
志穂「うわー、いい眺めねー」
希「え、うそ、見たい」
起き上がろうとする希を看護婦Aが制し、
看護婦A「コラコラ」
希「(渋々)はーい」
希、大人しく看護婦A、Bの手で空いているベッドに移される。
志穂、時計をチラリと見て、
志穂「すみません。私は仕事があるので――」
看護婦B「後は任せて下さい」
志穂「(頭を下げ)よろしくお願いします」
希にウィンクをして病室を出ていく志穂。
希、ウィンクを返しながら、ふともう一方のベッドを見やる。
桐生利継(14)と見舞いに来た両親がいる。
利継は上半身を起こし、窓の外を見ている。
その耳にはヘッドホン。
父「欲しい物があれば、何でも言うんだぞ」
反応しない利継。
母「(促すように)お父さん……」
父「ああ。(利継に)お父さんたち、もう行くからな」
と、利継の肩を叩くが、やはり無反応。
見ていた希、看護婦Aに、
希「(小声で)ねぇ、彼って……」
看護婦A「ちょっと変わってるの。話し相手になってあげて」
希「(頷き)うん、やってみる」
× × ×
希と利継、二人きりになった病室。
希「ねえ……ねえ!」
ヘッドホンを外し、希を見る利継。
希「私、今日からこの部屋に移った西ノ宮希。あなたは?」
利継「……桐生利継」
希「(ヘッドホンを指し)何聴いてたの?」
利継「(無愛想)ひこうき雲」
希「へえ、知らないな。どんな曲」
利継「(無愛想)かなしい曲」
言いながら、窓の外へ目を戻す。
少しの間。
希「……窓の外に何かあるの?」
利継「何もないよ。だからいいんだ。……ねェ、空飛びたいって思った事ある?」
希「うん、あるよ。空、好きなんだ?」
利継「(頷き)一度、飛んでみたいんだ。……死ぬ前に」
希「(不審)……?」
× × ×
深夜の病室。
眠っていた希、フト目を覚ますと、利継がベッドにいない。
○同・屋上(深夜)
星空を見上げている利継。
耳にはやはりヘッドホン。
希がやって来る。
希「こんな所に出られるなんて知らなかった」
ヘッドホンを外し、振り返る利継。
希、空を見上げて、
希「うわー、雲が低いね。なんか怖い」
利継「まるで飛行船みたいだろ。僕はもうすぐあれに乗るんだ。そうすれば、誰にも邪魔されず空を飛べる」
一瞬、不審そうに利継の顔を見る希。
希「……ねえ、昼間言ってた事って……」
利継「(遮り)やっぱり、君も白血病なんでしょ?診断されてから何年目?」
希「……2年目、くらい」
利継「僕は5年目なんだ。だからもうじき死ぬ。でも、早くそうなったらいいんだ。そうすれば空を飛べるから」
思案顔で聞いている希。
○同・病室・中
ベッドで本を読んでいる希。
チラリと利継の方を気にする。
両親が見舞いに来ている。
相変わらずヘッドホンで音楽を聴きながら、黙っている利継。
母「(利継に)もうすぐ、誕生日ね」
父「そうだな。利継、プレゼントは何がいい?……そうだ、お前の好きなユーミンのコンサートチケットはどうだ?一日くらいの外出なら……利継?」
無反応の利継。
母「ヘッドホン外しなさい、みっともないでしょ」
言いながら、バツが悪そうに希を振り返り、一礼する。
希「(礼を返し)……」
父「何とか言いなさい、利継。(語気を強め)お父さん達は、お前の事を心配して……」
利継、突如キレたように傍らのフルーツバスケットをひっくり返し、
置いてあった果物ナイフを両親に向ける。
利継「うるさい!うるさいうるさい!!」
希「!」
父「利継、や、やめなさい!」
言いつつも、恐怖したように後退りする両親。
利継、ナイフを床に放り捨てて、病室を飛び出していく。
父の胸で泣き崩れる母。
希「(両親を見て)……何で、追いかけないのよ!」
ベッドから跳ね起きて利継の後を追う。
○同・廊下
廊下に飛び出し、周囲を見回す希。
利継の姿はない。
希「(ハッとして)もしかして……」
○同・屋上
ヘッドホンをしたまま、屋上の縁に足をかけようとしている利継。
後ろから希が、利継に抱きつくように引き倒す。
利継「飛ばせてよ!」
希「バカ!」
希、利継の腕を掴み、引っ張っていく。
希「来なさい!」
利継「なんで!」
希「いいから!」
利継「(気圧される)……」
○同・廊下
利継を強引に引っ張っていく希。
驚いている周囲の人々。
利継「どこまで行くの」
希「黙ってなさい!」
○同・正面出入口・前
出てくる希と利継。
希、立ち止まり、その場にしゃがんでアスファルトの地面をバンと手で叩く。
希「見なさい」
利継「(泣きそう)何を……」
希「地面をよ!」
利継「!」
希「空ばかり見てても、何も変わらないの!私たちはこの地面の上で生きているのよ!?飛び降りたら落ちるだけなの!地面の上で踏んばらなきゃ、空には上がれないのよ!」
遂に泣き出す利継。
希「子供みたいにぴーぴー泣いて……」
泣きながら、フッと笑みを漏らす利継。
希「(怪訝)……今、笑った?」
利継「(泣き笑いで)ありがとう」
希「は?」
利継「……そんな風に、本気で僕を叱ってくれた人、初めてだったから。他人なのに」
希「(安堵の微笑)他人じゃないよ。私も経験あるもん。実はさっきの、殆どお母さんの受け売りなの。ゴメン」
利継「僕も謝らなきゃ。5年目っていうの、ウソなんだ。本当はまだ一年」
希「じゃあ、まだ全然望みあるじゃん。少なくとも私の2倍は」
笑顔で頷く利継。
そこへ、利継の両親が駆けつける。
利継を抱きしめる両親。
母「ごめんね、お母さん達、何もわかってなかった……」
様子を見ていた希の肩に手が掛かる。
志穂「ハイ、あんたはお払い箱」
希「(嬉しそうに)お母さん」
二人、利継達の方を見やると、連れだって病院の中へ戻って行く。
○同・廊下
希と志穂が話しながら歩く。
志穂「見てたぞ。あんたカッコ良すぎ」
希、ちょっとフクれて、
希「大人がだらしなさすぎるの」
志穂「(胸を押さえて)あいたたたた」
希「(笑って)ゴメン。お母さんは別よ」
志穂「嬉しい事言うねえ。一年前、偉そうに怒鳴った甲斐があったワ」
希「ねえお母さん、『ひこうき雲』って歌、知ってる?」
志穂「おー。ユーミンのデビュー曲」
希「そうなの?どんな歌?」
志穂「うーん、悲しい歌だけど……でも、どこか諦めてなくて、希望に溢れてて……そ、希みたいな歌」
希「うまい事言う」
笑い合いながら歩いていく二人。
(終)
※裏合宿:
2002年夏、シナリオセンターIクラスの有志10名により、三浦海岸にて3日間に渡って行われた自主的な創作合宿。
シナリオの実習では、各自で持ち寄った課題(人物の年齢、小道具等)をシャッフルしてくじ引きで決定。
1日弱で20枚シナリオを書き上げ、ゼミ形式で発表するという無茶な(でもない?)試みを敢行した。
本作がどーしよーもなくベタなのは、その辺の執筆時間のタイトさに原因がある。ということにしといて下さい。
また、Sさんから頂いた「小道具:ユーミンの曲」という課題には困った。小道具じゃないし、それ。
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