『同類たちの墓標』
2002年度シナリオセンター合宿 実習提出作品
課題:酒


人 物

源介(20)浪人
鉄斎(40)浪人
村長
村人A
村人B
玄三(40)源介の父


○村の一角
  村人達が一箇所に集まっている。
  村人たちの輪の中心には大きな穴が掘られ、玄三(40)の遺体が埋められている。
村長「どうしようもない飲んだくれじゃったが、わしらの為に鉄斎と戦ってくれたんじゃからの……」
村人A「でも死んじまっちゃ、どうしようもねェ……」
  村人たちをかき分けて現れる源介(20)。
  手には酒のトックリを持っている。
  源介、玄三の形見らしき長刀と脇差しを穴に埋めようとしていた村人Bに、
源介「親父の刀、くれ」
村人B「え?だどもお前……」
源介「いいから、くれ」
  源介、村人Bから長刀と脇差しを受け取り、長刀を鞘から抜く。
  そして、トックリの酒を長刀の刀身に注ぎ始める。
村長「源介、まさかお前……」
  黙って刀身に酒を注いでいる源介。
  その鋭い眼つき。
村長「やめとけ、玄三ですら敵わなかった相手じゃ。お前に敵うはずがねェ」
  源介、長刀を鞘に納め、脇差しと共に腰に差すと、村長を見すえ、
源介「やってみなきゃわからん」
  言い残して、立ち去っていく。

○鉄斎の家・外観(夜)
  林の中のみすぼらしい一軒家。

○同・中(夜)
  鉄斎(40)が長刀を抱え、壁にもたれて座っている。
  その鼻がピクピク動く。
鉄斎「……酒の匂いがする」
  戸が開き、源介が現れる。
  鉄斎、源介の腰の長刀を見て、
鉄斎「酒の匂い、その刀からする。(ニヤリと笑い)親父の弔い合戦のつもりか」
源介「そんなんじゃねェ。お前が生きてく為に村を襲ってんなら、俺らも生きる為にお前を殺んなきゃならねェ」
  言いながら長刀を抜き、構える源介。
  身じろぎひとつしない鉄斎。
源介「でやあァァァッ」
  源介が彼方を振り上げると同時に、鉄斎の目の前の床板が跳ね上がる。
  床板を真っぷたつに斬り裂く源介の刀。
  だが、鉄斎の姿はこつ然と消えている。
源介「!」
鉄斎の声「まだまだ甘いの」
  源介、ハッとして上を見る。
  天井の梁の上から刀を抜いて襲いかかる鉄斎。
  かろうじて鉄斎の攻撃をかわす源介。
  すかさず鉄斎の第二撃が源介を襲う。
  源介、とっさに床板をつかみ、鉄斎に投げつける。
  一瞬、ひるむ鉄斎。
  源介、そのスキに家の外へ転がり出る。

○同・外観(夜)
  鉄斎が入口から出てくる。
  周囲に源介の姿は見当たらない。
鉄斎「逃げ足だけは速いようだな」
  鉄斎の鼻がピクピク動く。
鉄斎「(ニヤリとして)やはり酒は良いの。玄三もわしも元を辿れば同じ君主に仕えた身。かつては仲良く盃を酌み交わした中であったにのう。それをあやつめ、浪人に身を落としてからというもの、一人で正義漢ぶりおって……。最後まで変わらなかったのはお互い無類の酒好きだという事だけじゃ」
  言いながら、一方の茂みに近づく。
鉄斎「だが、今回はそれが仇となったな!!」
  叫びながら、茂みに向かって刀を突き立てる鉄斎。
  が、手応えがない。
鉄斎「なにッ!?」
  鉄斎が茂みをかき分けると、そこには源介の長刀が一本、落ちているだけ。
  鉄斎の背後に回り込んでいる源介。
源介「お前の鼻が効く事など、承知の上!」
  鉄斎、振り向いて反撃しようとするが一瞬早く源介の脇差しが、鉄斎の体に突き立てられている。
  声もなく倒れる鉄斎。
  返り血を浴びた源介、荒く息をしながらその場に佇んでいる。

○村の一角(早朝)
  二つの長刀が、並んで地面に突き立てられている。
  トックリの酒を両方の刀身に注ぎかけている源介。
  村長がやって来る。
村長「敵を、玄三の隣に埋めたのか」
源介「こいつも生きる為に戦っていただけだ。俺や、親父も同じだった。俺は、正々堂々と戦った相手を無下に扱いたくはない」
村長「……そうか」
  納得したように頷き、立ち去る村長。
  源介、遠い眼で酒を注ぎ続ける。
(終)

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