「花はどこへいった〜果てしない距離」


2001
826
千葉マリンスタジアム

 

「今日は楽しかったで〜す、どうも有り難う〜!!」

そう言ってMr.Childrenはステージを後にした。

果たして彼らは本当に楽しかったのだろうか? 

少なくとも私にとって、その日のライブは決して楽しいものではなかった。

 

ライブ終了後、大抵は興奮と余韻のためにボーっとしてしまうのだが、
その日は「別の意味」で茫然と立ちつくす自分がいた。
「ああ本当に終わってしまったのか。何だったんだろうこの
2時間半は…。」

隣にいる友人の手前平然を装っていたけれど、私の頭の中はひどく混乱していた。 

完全なる不完全燃焼である。


その日の深夜、家に着いてからもモヤモヤした気持ちは晴れずに朝を迎え、
その疲れた体を引きずる様に仕事へ向かった。
電車の中では無意識のうちにミスチルのMDを聴いている…
これは昨日自分が見た「モノ」と本当に同じ物なのか??? 
必死に繋がりを探そうとするけれど、答えは見つからず違和感だけが残る。

 
こんな状態が長く続くと「私はMr.Childrenから離れていってしまうかも知れない」と言う恐怖さえ感じた。
なんとしてもそれだけは避けたい。

自分の気持ちを確認するためにも、この日の事を思ったまま綴り書き残してみる事にした。

 

826日(日)。12:00
軽いランチを取り私は家を出た。空は曇り空、天気予報が気になる。


実はここ数日あまり体調が思わしくなかった。
単なる疲れではない、なんとなくぼやけた気持ちが身体の何処と言うわけでなく執りついていた。


「洗脳されている
」と友人からからかわれる程愛してやまない「Mr.Children」。
彼らのライブにこれから行こうと言うのに、まるで心臓が高まらない。
それどころか受け付けなくなっているのだ。 
ベストを聴いても新曲を聞いても首を傾げるばかりで、ここ数日はクラッシックばかり聴いていた。
こんな事は初めてである。 
その時は知る由もないこれから起こる事態を、肉体は感じ取っていたのだろうか…。


JRを乗り継いで3:00
am海浜幕張駅に到着する。
周辺はすでにスタジアムへと向かう人々でごった返している。
ダフ屋のおじさまとメガホン片手に大声で叫ぶスタッフを尻目に、なぜか私は
反対方向のカルフールへ向かった。何を隠そうこの私は千葉マリン初体験
(いや正確には先週のサマソニから
2度目)、そして
「カルフール」は魅惑のShopping Spot...
すっかりおのぼりさん気分で遊びほうけてしまった。


気がつくとすでに時計は4時半を回っていた。
慌てて会場へ向かうがさらに凄い人だかり、駅から10分の道のりが
3倍もかかってしまった。


ようやく現地につき、待ち合わせていた友人と合流して軽く腹ごしらえをしてから中へ入る事にした。
彼女は
1月の武道館ライブではじめて一緒になった人。茨城の高校で先生をしているという彼女は
最近ミスチルを好きになったばかりで今回が
2度目らしい、目をきらきら輝かせて熱くその想いを語っている。


静岡と違って、ここは飲み物の持ち込みOKとの事で少し安心した。
あの時は7月だというのにひどい猛暑で、3時間以上の飲まず食わずがかなりしんどかった事を思い出す。
後になって色々と文句が出ていた様だが、その時は私を含め皆な素直に従っていた。
退場規制時のマナー云々についても確かにあったが、諸外国に比べるとまだまだ大人しい方ではないかと思う。あの換気の状態と人の渦の中、よく事故が起きなかったものだ。




これは余談であるが、日本人はとてもおとなしく我慢強い民族である。
もちろんこれが悪いと言っているわけではない、ただ悪いときは悪いと声を出して
不満を言う事が必要なのだ。
tolerate=我慢強い」と言う言葉は日本人の為にある言葉だ
というネイティブアメリカンに言われた言葉を未だに忘れる事が出来ない。
そのとき私には「いや違う!」と否定出来なかった、それは事実であるから。



中に入ると、静岡と同じステージセットが私たちを待ち構えていた。ほんの少し気持ちが高まる。
今回の席はアリーナ
E。席に座ってみると、かなり後ろではあるが何とか見えない事はなさそうだ。
(と言う期待感は後にもろくも崩れ去ったのだが…
(-_-;)


例の
Jenのおサル芸が始まる頃、突然雨が降り出した!凄い降りだ、客席がざわめきだす。
私は幸いかっぱと傘の両方持っていたのだがその横殴りの雨は容赦ない、
荷物から下着までずぶ濡れになってしまった。「ああ遂に、ツアー始まって以来初の雨の中ライブか!?」
と思いきや開演間際、嘘のように雨は去っていった…。

 

 6時20分、ポップザウルスは幕を開けた。

趣向を凝らしたスクリーン映像で始まり、浦さん、続いて桜井さん登場。
すごい歓声だ。そして、さあ聴くぞ!!と意気込んでいた私の耳に飛び込んできたのは…。

 
「花」
が始まってすぐに、私はその異変に気がついた…「音が変だ
前からも後ろからも四方八方から桜井さんの声が鳴り響く、しかも
ゆがんでいる


まるで
山彦でも聞いているかのようだ、幾つもの音が重なって聞こえる。
「え?何、何、何??」私はしばらくの間その異常事態が理解できずにいた。
当然である、そんな経験始めてであったから。
確か東京ドームの時も音が悪かった記憶があるけれど、これ程ではなかったと思う。


状況が飲み込めないままライブは進み、I’ll be」〜「ラララ」へ。


音響はそのまま変わらず、あっという間に
「星になれたら」が始まった。
客席は初期の頃の楽曲のせいか大盛り上がりである、しかも皆な気持ち良さそうに歌っている。


この
不協和音に誰も気づかないのだろうか??? 
後ろのスピーカーを見たり機材の辺りを必死で見てみるが、特にスタッフが慌てている様子は無い。
私は控えめに体を動かしながらも
ひどく頭の中は混乱していった

 
その日の座席も悪かった。何とか肉眼で見える位置であったにもかかわらず、
前方の人の頭にさえぎられ全くステージが見えない状態であった。

せめてスタンド席であったなら状況は変わっていたかもしれない。
時々見えるわずかな隙間から豆粒大のメンバーの姿、
そして必死に背伸びをする無理な体勢で私の体はボロボロとなってゆく。

 
こうなるとスクリーンだけが頼りなのだが、さすがにジャニーズのコンサートとは違う、
そこに全てを期待する事は不可能だ。
メンバーの姿が映し出されたのがやっと4曲目の
「君がいた夏」から。
中にはステンドグラスの映像のみ!という曲もあり…。それは仕方が無い事だけれど、
悲しいかなステージの様子は全くつかめない。
そして聞こえてくるのはこのゆがんだ音響…私の
フラストレーションはたまる一方だ。


すっかり空は暗くなり、曲は「車の中でキスしよう」〜「抱きしめたい」
しっとりと初期の頃の名曲が流れる。気のせいかバラード系は少し落ち着いて聞こえる、
しばらくそれに耳を預ける。そして嵐のような
Dance×3」へ。
ふとスクリーンに映し出される桜井さんの表情を見ると相変わらず目をむき出してほえている。
この異常事態をまるで気づいていないかのように…いや、知っていながら平然を装っているのだ、
と勝手に解釈した。彼にはどうする事も出来ないのだから。


ライブがすでに中盤に入ってくる頃、さすがの私も段々冷静になってきた。
そしてハタとある事を思い出した、「ミスチルの
PAは超一流だ」という言葉を。
そうだ、今頃きっと彼らは必死になって何とかしようとがんばっているに違いない!
ゆがんだ音と異様な熱気にうなされながら、私は密かに願った。
「どうか立ち直ってくれ、千葉マリン!」このまま終わってしまうのはあまりに悲しい。



「シーラカンス」〜「手紙」
いつ聞いてもこの2曲は私の本能を刺激してくれる。
それはまさしく「深海の世界」だった。 そして山場である
「マシンガン」〜「ニシエヒガシエ」
へとなだれ込む、これにはさすがの私もぶっ飛んだ!
この時桜井さんは間違いなく「恐竜」ならぬ「野獣」と化していた。
そして気がつくと私は音を無視して踊り狂っていた…何かに捕りつかれた様に。
本能がそうさせたのか、このまま終わりたくないという気持ちが目覚めたのか
自分でもよく分らなかった。

 
ふっと耳をすますとサポートメンバー(特にキーボードの二人)の調子が良さそうに感じる。
リズム隊も決して悪くは無かったけれど、それ以上にキーボードの音色が
疲れた私の心に心地よく響いていた。
サニーさんのハーモニーは相変わらずきれいで伸びがいい、
本当にミスチルは良いサポートメンバーに囲まれて支えられているんだなあと感じる瞬間。



そして桜井さんは…今何を考えているのだろうか?
ある人の言葉を借りると「彼は千葉に住む魔物と戦っているのだ」と。正にその通りかもしれない、
この状況を何とか打破しようと必死だったに違いない。
まるで何かに追われているかのようにテンポが徐々に速くなっていく。
しかし動揺の素振りはみじんも見せない、さすがプロだ。

 
「深海」わたしの愛してやまない曲、最高のコンデションで聴きたかった。


Tomorrow never knowsここでお決まりの間の抜けた手拍子が始まった。
いつもこれには閉口してしまう私なのだが、今日はなぜか笑ってしまった。
曲とずれてワンテンポ遅れてしまうのだ、どちらにしても勘弁してほしい…。



 
そして
「ハレルヤ」〜「花」へ。高揚感が生まれるはずのオーディエンスとの掛け合い。
彼らが練りに練って作り上げたであろうこのコンセプト、感動の演出も不協和音の中では機能していない。
一体化どころかスタンド席とアリーナの声が見事にずれてしまっている。
Oh My God!!

 

無情に時は過ぎ、大歓声とともにアンコールが始まる。
舞台裏へ戻ったわずかな時間、彼らはいったいどんな会話を交わしたのだろう? 
そんな余計な事まで考えてしまう。


もうここまで来てしまったら後戻りは出来ない.
再びステージに現れた彼らはこの悪条件をあざ笑うかのようにさらにテンションが上がっていた。


そして狂ったように
everybody goesを歌い始めた、桜井さんの挑発につい体が動いてしまう。
でも私の心の中は吹っ切れない
「こんなんじゃない、本当のミスチルはこんなんじゃないんだー!」
と必死に自分に言い聞かせていた。

 
Innocent World」〜「独り言」そしてライブは終了した。


規制退場を促すアナウンスが流れる。
とここでハタッと現実に戻る…というのがいつものパターンなのだが、
今日は最初から最後まで
「現実」そのものだった。
ステージとスタッフサイド、そして観客の様子をずーっと冷静に見つめていた。
ステージが見えない分
「耳」「心」で音を感じ取ろうとしたけれど、
その願いは最後まで届いては来なかった。

 

いくら手を伸ばしても遠いところにいるアーティスト。
一見コミュニケーションを取っているかのような
MCも、上辺だけだなあと感じる事が度々ある。
そして今日の
Mr.Childrenは、もっともっと、さらに遠い場所にいた。


同じ大地を踏み同じ空気を吸っているのに、悲しいくらい距離を感じた。

 

その日「花」は私の心の中には咲いてはくれなかった。

 

友人と別れ、家路に向かう電車の中で1/42を聞いた。

突然、眠っていた感情が一気にこみ上げてきた。
吸い込まれるように桜井さんのボーカルは、私の乾いた心に染み渡った。

 

千葉マリン、あの場所でこの「音」を聞きたかった、本当に聞きたかった。
こんな状況の中でも一筋の光を求めて、希望を見つけようとする自分が何とも痛ましい。

 

そう、私はMr.Childrenを愛しているのだ。それだけは間違いない。

それを再確認出来たのが、今夜のライブ会場ではなかっただけの話だ。

そう言い聞かせながら眠りについた。

 

 次の戦地はファイナルの沖縄。自分にとっても初めての土地。
どこそこから聞こえる言葉「Mr.Childrenは進化している」
それが真実となって、いつか私の目の前に現れてくれる事を願って。




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