~epirog is 「CURTAIN CALL」~



「お兄ちゃんおまたせ〜!」
既に日の沈んだ夜の繁華街の一角で壁にもたれかかりながら待つジェネアに向かって
いつもの私服に着替えたアイシャが大手ぶりで走り寄ってきた。
それを見ながらジェネアもやや小さめに手を振った、向こうから見えない反対の手に持っていたタバコとライターをそそくさと
ポケットにしまいつつ…。

あの後二人はガレージに帰還後、それぞれで自分のやる事を果たしたあとにここで落ち合う事にしていた。
目前にあるジオ社のエンブレムをあしらった銅像がこれでもかと目印に付くところである。

「少し遅かったな。」
「うん、まぁ…色々とね。
 それよりもお金はた〜んと入ったんでしょ、今日はご馳走だって約束だよ!」
「ああ…解ってるさ、母さんにはもう連絡したのか?」
「もちろんだよっ、もうこっちに来てるって。」
「そうか、それじゃ行こうか。
 今日はお前の好きなトコでたらふく食わしてやるからな。」
「うわ〜いっ!」
周りを気にせず無邪気にはしゃぐ様子にコラッといった感じでジェネアは頭を軽く叩く。
反省の証かテヘッと可愛い子ぶるアイシャ、それを見てジェネアも笑みを浮かべる。

やがて二人は自然と同じ方向へ足を運びだしていった…。


色々といざこざはあったものの、クライアントからの目的は無事に果たした。
のっけに一機、その後誘爆で一機、敵ACとの戦闘中に二機…計四機で40000COAM、十分すぎる報酬である。
だが、ジェネアの心は何処か満たされない部分があった。
あの輸送機の上で戦った赤い逆間接AC「インフェルノ・イヴ」との決着がつけられなかったことである。

だが、アイツとはまた戦う時が来る…そんな気がした。
理由など無い、あくまで直感だが…今まで直感で感じたことは大抵現実に起こっている。
よく第六感などと呼ばれている一種の特殊能力なのかもしれないと昔からまわりに言われてきた事なのだが
そんなことはどうでもいい、今はただ…いつか来る再戦を待つだけだった。


「ねぇねぇ、私の初めてのオペレートどうだった!?」
歩き始めてからそれなりの時間が経ってからであろうか…いきなりアイシャがジェネアの袖を掴みながら喋りかけてきた。
本人の言うとおり、初めてのオペレーターとしての仕事、まだ研修生だから今後の参考にしたいと踏んでの事だろう。
もっとも、それだけでは無さそうだが…。
「そうだな、初めてにしては上出来だったよ。」
「ホント!?」
「あぁ、本当さ。
 それに…海に落ちた俺のこと、懸命になって探してくれてたみたいだからな。」
「エヘヘ、当然だよ。…もし居なくなっちゃったりしたら、私…お兄ちゃんの事ずっと恨んじゃうからねっ!」
「ハハハ…怖い怖い。
 …でも、通信機の向こうではもう泣いてたみたいだけどな。」
ジェネアの皮肉っぽい言葉に反応して思わずアイシャは頬を赤らめた。
「う…う〜。そ…それはお兄ちゃんがあんなに勿体ぶって通信入れるから、…と言うより見計らってたんでしょ!」
反撃とばかりに鋭いところをつかれ思わずジェネアは一歩引く、どうやら図星だったようだ。
「…もしかして、気付いてた!?」
「当たり前だよ、あの位置からならそっちからはずっと見えてた癖に!」
「…ハ…ハハ、そ…それはだな…アイシャを驚かそうと…思ってだな…」
視線を合わさずにその場しのぎの苦しい言い訳で誤魔化そうとするジェネア、その途中にアイシャが袖を
握る方の手の甲にふと冷たいものを感じる。
雨…いや…
ハッとした顔でジェネアはアイシャの方に振り返る。

…泣いていた。

一滴…また一滴とか細い水滴がジェネアの手にしたたり落ちる。

「酷いよお兄ちゃん…、私…あんなにお兄ちゃんの事心配してたのに…。」
俯いているせいで目は見えなかったが頬にしたたり落ちる涙はしっかりと確認できた。
「酷いよ…、酷いよ…」
呟くように何度も同じ言葉を繰り返すアイシャ。
とてつもない罪悪感がジェネアにのし掛かる、同時に周辺に集まってきているギャラリーに気付く。
男がいきなり少女を泣かしているのだ、考えれば当然のことだ。
「お…おいアイシャ、俺が悪かった…だから泣くな、な、な。」
必死に周りを気にしながら泣きじゃくるアイシャを止めようとするが涙なぞ早々止まるものでもない。
ギャラリーは集まる、アイシャは泣きやまない…事態はどんどん深刻になっていく。
「…あ〜、もう仕方ねぇ!!」
吹っ切れたようにジェネアはでかい声を張り上げると裾を掴むアイシャの手をそのままギュッと握ると
一目散にその場を切り抜けようと駆け出す。
突然働いた慣性にアイシャも我に返るが、何も解らないままただジェネアに引っ張られるまま
ギャラリーの波を抜けて走り出していった。


「はぁ…はぁ…ここまで来れば…大丈夫だろ…はぁ…。」
メインストリートから大きく外れた裏路地に身を潜めるように逃げ込んだ所でジェネアはその足を止めていた。
二人とも大きく息切れしており、ろくに喋ることもできない状態だ。
「はぁ…はぁ…い…いきなり何するのお兄ちゃん…。」
しばらく時間をおいてからして事態を把握できないアイシャが涙目のまま問いかける。
「はぁ…仕方ないだろ、いきなりあんな所で泣き出すんだぜ…はぁ…とりあえず逃げなきゃいけないだろ。」
中腰の姿勢で何度も息を吐きながらジェネアが答える。
拳法をやっているおかげで体力には自信があったが、人ひとり引っ張りながらは少々酷だった。
アイシャも良くついて来れたものだ。

「だってだって…通信できたのにワザと遅らせるなんて…酷いよ、私…どれだけお兄ちゃんのこと心配したか…。」
再びアイシャの目に大粒の涙が流れる。
「だ…だから俺が悪かったって…反省してるから泣かないでくれ…な。」
それを必死に宥めようと慌てふためくジェネア。
「…本当に…反省してる?」
「ホントだホント、ほらこの通り!」
深々と頭を下げ、それより高いところで手のひらを合わせて懇願するようなポーズをする。
それを見ながら人差し指を口につけて「どうしようか?」とアイシャ。
「…いいよ。今回だけは許してあげる。」
「本当か!?」
「でも…次からは絶対ワザと行方不明なフリしちゃダメだよ。」
「もちろんだ、もう二度とそんなことはしない!」
「…それじゃ、指きりしよっ!」
そう言いながらアイシャはさっと小指を立てた握り拳を出す。
「…ゆ、指きりか?」
「そうだよ、お兄ちゃん火星に行く前にちゃんと帰ってくるって指きりした約束は果たしてくれたじゃない。
 だから今度は、私やお母さんを残して先に死んじゃダメって約束してっ!」
目に涙を残しながら真剣な目でアイシャが見つめる…はっきり言うとジェネアはこれに弱い。
「…解った、約束する。」
観念したかのように同様に小指をさしだし、アイシャのそれと交差させる。


「…指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ますっ!」


交差させた子指を小降りに上下に動かし、約束の契りをかわした。

その姿勢のままやがてどちらかとも言わずにクスクスと笑う二人。
「…6年ぶりだよね、お兄ちゃんとの指きり。」
「そうだな。」
「もうお互いそれなりの歳なのに…なんだか今改めてやってみると、少し恥ずかしいね。」
崩れ落ちるようにお互いの指が離れた。
「でも…正直嬉しかったよ。
 何か今までよりもずっとお兄ちゃんが身近にいるって感じがした。」
何とも返事がしづらく、頬を指でぽりぽりとかくジェネア。
「それに…今まではお兄ちゃんがひとりで私たちのために頑張ってくれてたけど、もう…違うよ。
 これからは私が付いてるから!」
「アイシャ…。」
「二人で頑張ろ、それで…お母さんと幸せに暮らそっ!」
「…そうだな、頑張ろうな。
 けど…それじゃ俺は一生未婚ってことか!?」
ジェネアの細かい捕捉がつく。
「あ…、そうだね…それじゃいつか来るお兄ちゃんのお嫁さんのためにもっ!」
「ああ。でも俺が誰かと付き合ってるってわかってもヤキモチ焼くなよ。」
「う〜、わ…解ってるモン!」
満面の笑顔で笑う二人、アイシャの目にもう涙は無かった…。


二人の笑いに被さるように凄まじい鐘の音が聞こえる、街の中心にある大時計に取り付けられた鐘のしわざである。
時計の音に気付き、ジェネアはハッとした顔で左腕の袖をめくり時計を見る。
「げっ、ヤバ…もうこんな時間だ! 母さんかなり待たせてるぞ!」
「そ…それはまずいよっ!」
「急ぐぞ、走れるか!」
「当たり前だよ、だってお兄ちゃんの妹だモン!」
「オッケー、なら母さんの待ってるところまで競争だ!」
「りょーかいっ!」
と、いいながら一足先に走り出すアイシャ。
「あっ…てコラ、フライングなんて反則だぞ!」
「へへーんだ、ハンデだよ〜!」
ジェネアも急いで後を追うように走り出した、満月の輝く夜の街を…。

二人の新たな旅は…今始まったのだ。



(後書き)

ども、「AREA of EDEN」の管理人、神牙です。
この度はgeo氏の運営する「Battle Field」にて投稿したキャラを使ったショートストーリーを書いていただいたので
その後日談を書かせていただきました。
本人もまだ書いてなかったようなのでちょうど良かったと思います。

と、言うわけで後日談は二人がガレージから帰った直後のお話です。
本編で墜落後に回収されたジェネア君ですが、実はそれが本人によってワザと少し遅らされた
といった感じで解釈してみました。
ジェネアにとっては軽いジョークのつもりだったのですが、かなり裏目に出てます。

で、当の話もかなりぶっ飛んでます。
バカ兄妹ッぷりが更に激しくなったり妹泣かせてギャラリー集まったり指きりしたり…本当に22歳と15歳でしょうか?
それでも今まで書いたこと無いパターンだったので少しは俺自身勉強になったかも。

一応舞台がアイレットシティーなのでジオ社の銅像なんか建てたりしてますが
あんまり意味無いかな…目印にはいいけど。 個人的に「指きり」のシーンは好きなんですが…やはり話の構図が解りにくいですね。
自分の力不足を感じます…。
ただ、セリフがハツラツとしていて何か書きやすかったよ…俺のメインとはえらい違いだ。(汗)



(さらに後書き)

ども、geoです。

神牙さんにまだ書いてなかったこの2人の後日談を書いていただきました。
正直なところ書いたとしてもまともなのが書けたがどうか自信がないですが<おい


感想です。

2人とも若々しいですね。
いや、22歳と15歳なので若いのは分かってるんですけど。


そしてアイシャちゃんがカワイイのなんの。
「う…う〜」とか「指切り」とかその辺の情景が目に浮かんだりして。


このままだと「感想」じゃないので真面目に真面目に・・・
文全体が綺麗に纏まってますね。
そして起承転結もきっちりしてますし。


そして本文が終わっても先が期待できる(尚かつ未知数)ところが嬉しいです、書いた者として。


と、言うわけで神牙さんの「インフェルノ・イヴ」との戦いの方、期待してます。