パンドラの月・エピローグ



「ふぅ・・・」
一人の男が町を歩いていた。
そこは政府中枢部、セントラルオブアースと呼ばれる都市だった。
その第5行政区に向かって歩いていた。
目指しているのは、ハンター・オフィスと呼ばれる場所である。


彼は賞金首だった。
二ヶ月前に起きた強盗事件の実行犯の一人。
彼の容疑はシステムハッキングである。

被害額は約100000コーム。
そして彼にかけられた賞金は50000コーム、ただの人間にかけられる金額としてはかなりの高額だ。
ちなみに最高金額は5年前、火星で起きたクーデターの首領、レオス・クラインにかけられた150000コームである。

そして間抜けなことに、先週、せっかく仲間からだまし取った金を持ち逃げされたところだ。


目指す人物は一人だった。
政府でもっとも冗談の分かる男と評判のハンターオフィス副長。
彼の目の前で自分の襟首をつかみ。
「連れてきたから賞金よこせ」
と言ってやるつもりなのだ。

もし捕まっても、政府に彼の持つ手製の対ハッキングシステムを提供すれば減刑されるだろうとの見通しもあった。
彼は政府へのハッキングも行ったことがあったからだ。



空が黒く染まった。
ふと見上げると、そこには巨大な兵器があった。
空を飛ぶ巨大な兵器、グレイクラウドの姿があった。
グレイクラウドは都市の中でもっとも巨大な建造物、ハンター・オフィスを攻撃した。
余談だが、そこは年に一度の休業日だった。



第2防御指令区
「敵は第5行政区、いえ、第3防衛ラインにまで進入!」
「第4防衛ラインに部隊は展開できるか?」
「無理です!現在殆どが出払っている上に敵が素早すぎます、第7防衛ラインまで展開は不可能です」
「わかった、火葬場に通達、第7防衛ラインまで部隊の展開は不能なり」
「了解・・・えっ?分かりました、伝えます」
「どうした?」
「たった今火葬場・・・いえ、軍部中枢より通達です、一時的に全権を預かるだそうです」
「どういうつもりだ・・・軍部中枢とはいえ中央都市の部隊は持っていなかったはずだ・・・」
「データによると・・・AC小隊が二部隊だけ存在します」
「二部隊?たったそれだけで第1第2の防衛ラインを合計6分24秒で突破した連中を相手にするというのか?」
「いえ・・・」
「ではどうするというのだ?黙ってやられるわけでもないだろう?」
「ですから・・・1部隊だけで出撃するようです」
「なんだと・・・」



第4防衛ライン
「対空砲座、まるで効果無し」
「当たっていても効果無し・・・か、当たらないより屈辱やな・・・」
「核使用でも許可もらいますか?」
「あほか、空中で使用したら都市も吹っ飛んでまうやろが」
「指令、最終防衛ライン所属部隊から通達です、総員退避命令です、付近のエリアに残っている非戦闘員の誘導を行い、脱出せよと」
「で、誰があの化け物を止めるんだ?神様でもいるのかい?」
「分かりませんが砲座も破棄して脱出しろとのことですから何かあるんでしょう、とにかく急ぎましょう」
2分後、この施設は砲撃を受け破壊された。


グレイクラウド有人指令室
「政府も形無しだな・・・これで政府中枢をたたければ・・・バレーナは企業連合の主導権を握れる・・・」
「そうなればこれに登場して陣頭指揮した我々はバレーナの英雄ですな」
「そういうことだ・・・ん?正面の砲座群に敵AC1・・・第5防衛ラインには砲座とそのACだけか」
「反応無しです、どうやらまだこいつの火力を分かっていないようです」
「思い知らせてやれ」
8機のグレイクラウドから一斉にグレネードが発射された。
その砲弾はそこに存在した砲座を破壊した。
砲座だけを破壊した。


「AC反応消失?バラバラになるにしても破片のいくつかは見えてもいいはずだが・・・」
「気にするな、攻撃がきてから反撃すればこいつは十分だ」
現に今までの砲座もそうだった、とは男は言わなかった。
光が8機の中の1機を貫いたのはそんな時だった。


「こちら『バスター』、目標群に命中、一機を撃破、次弾用意完了次第続けて狙撃に入る」
「こちら『コマンダー』了解、『ナイト』及び『ウォッチャー』突入せよ」
「了解、突入し攪乱する、援護頼む」
「こちら『サンクチュアリ』、射程圏内に目標群接近」
「射程圏に捕捉次第攻撃せよ」
「了解」


何が起こったかはすぐ分かった。
だが『何故』それが起こったかは分からなかった。
彼らの誇る大型兵器が光に引き裂かれた。
そして胴体の半ばまで切断され、地面に落下していった。
「ど・・・どうなっているんだ?」
「強力な砲が設置されて・・・」
「さっき破壊したはずだ・・・まさか、さっきロストしたACか?」
「まさか・・・て、敵接近、急速機動でこちらに突入してきます、ACないしMTが2機」
「撃墜しろ!どっちか1機に照準絞って確実に撃破だ」
「し・・・しかし」
「どうした?」
「敵はこいつの倍近い速度で動いています、それも・・・直線的な機動ではなく・・・ちょこまかと動き回っています」
「嘘だろ・・・こいつだって出力はほぼ最大で出ているのに・・・」
「敵機・・・こちらの攻撃を全弾回避・・・」
「撃ち続けさせろ、まぐれでもかまわん・・・撃破だ」
「了解・・・です」


「回避に成功、この程度の奴なら問題はない」
「『ナイト』、油断大敵」
「分かってるさ」
二人は予定通り『システム』を起動させる。
機体が激しく光る。
遠くからは、そう見えた。
「崩壊劇の始まり始まり」
とても優しい声で言った。


「敵が速度をさらにアップ・・・」
「な・・・どんな奴だ?」
「見た目は普通の機体のようです・・・速すぎてブレるんで詳細はよく分かりません、それにACが発光してますし」
それはただのブースターの光なのだが、そうと感じさせないほど光っていた。
「まあいい・・・あれだけの速度だ、火器なんかないも同然だろうしな・・・」


「やはりマシンガンでは効果無しか・・・」
「やはりここは・・・直接叩かせてもらいましょうか」
そう言ってACはブレードを取り出した。
それは一番輝いて見えた。


「攪乱部隊は敵と接触したようです、敵編隊は依然として速度、高度ともに変化無し」
「分かった、こちらもシステム起動、撃破する」
そう言った直後、3本の光が走り、3機を貫き、四散させた。



「一瞬で3機?」
彼は戦慄を覚えた。
地球政府の中枢。
そこを攻める以上機体が破壊されることはある程度覚悟していた。
しかし、それも濃密な弾幕の中、数十門の砲の直撃を受けながら散ることを想像していた。
今のように、一撃であっさり破壊されることなど、想像の外だった。
「今のは・・・?」
「・・・一体何故あれだけの兵力を対企業用に使用せず・・・中枢の守りだけに」
一つの可能性を思いついた。
だが、その考えは、彼の乗る機体とともに、空中に四散し、誰にも届くことはなかった。



彼らとの接触から僅か3分54秒でグレイクラウド隊は全滅した。


「作戦終了・・・やはりこの程度か」
「いや・・・そうでなければならないのさ」
「封印された技術ですか・・・しかし、ここまで一般技術と差があるとは思いませんでした・・・」
「仕方がないさ、こんな技術、誰もが持っていて良い物じゃない・・・そして、誰もが扱える物じゃあない」
「そうですね」



都市部に突入したグレイクラウドが全滅した。
その報告が届くことはなかったが、破壊成功の報告がない以上、破壊されたと見るべきだろう。
それは、撃破から数時間が経過した時のことだった。
「それで、どうするのかね?今回の事件」
「全てをバレーナの責として処理するしかあるまい・・・」
「我らも追認せざるを得ない状況だった訳だしな・・・」
「では、よろしいか?」
議長が言った。
「バレーナは切り捨てる」
重々しく言った。
「そしてその後釜として一つ下のランクからブレイズ・アイをこの最高企業会議に昇格させる」
異議なし、と言う声が一つあり、そのあとは重々しい沈黙が響いた。
「よろしいか?議長」
「何か?」
「パンドラは如何しますか?」
「被害状況を確認して、酷ければ廃棄するしかあるまい、上空に待機していたあれも撃破されたようだしな」
「そういえば・・・ザームに向かったあれはどうなったのかね?」
「撃破されたようです、たった一機に」
「・・・改造の余地があるようですね」
「その通りだ、我々は変革をもたらさねばならない」
議長が言う。
「政府が存在する前の時代、レイヴンズ・ネストの時代への回帰だ、さもなくば我々は政府によって消失するであろう」
そうだ、という声が聞こえる。
それは覇気とも、狂気ともつかない声であった。
‐了‐
後書き

如何でしたか? パンドラの箱、ようやく完了です。 バレーナの衰退、そして部隊とならなかった他の大陸の企業。 そして企業の陰謀に地球政府の隠された部隊と、設定にないこと全開で趣味に走らせて頂きました。 すげぇ悪い趣味ですが(^^) さて、本編もかなり止まってますが番外の方も止まってます。 また、名前は出てませんがこの番外に投稿されたキャラが使われています。 あの地球政府の五人中の一人で、全員似たり寄ったりの設定なんですが。 オーファウス・パフィシオ、みとさんのキャラです。 だいぶ昔ですし、こっちからリンクしてないので知らない人多いと思います(^^) またリンク更新したらその時にでも追加しよ〜と思います。 では次の番外編もご期待下さ〜い 戻る