パンドラの月(後編)



男が時計を見ながら言った。
「そろそろ予定時間ですね、行きましょうか」
「まあ待つ事だ、グラッツァー大尉?」
「了解・・・しかし・・・あと15分して連絡がなければ」
「分かっている、当初の予定通りコードDで発動する」
周りを見ると、皆同じ考えだと見て取れる。
心配なのと、暴れたいのと、半々と言った所だろう。
「ではそろそろ搭乗し、所定の位置へ移動開始してください」


「ケイ・・・」
目の前の機体は間違いなく彼等の同僚であるケイ少佐の機体だった。
『無駄だよ、そのACのパイロットは我らの新技術によって完全に洗脳されているんだ』
「なんだと・・・」
『そして、君たちはそのための実験材料と言うわけだ、これが完成すれば政府軍など恐れるに足りず』
「へっ・・・言うじゃねえか・・・」
『その為なら・・・こんな都市いくら失おうと構わないのさ、では、始めてくれ給え』
嘲笑が響き、通信が途切れた。
「隊長、相手はあのTDQです・・・ですが同時に攻撃すればあるいは一瞬で・・」
「気にするな、俺一人でやる、お前達はこんな事を画策した連中をどうにかしてこい、あとできればこの都市のデータもな」
「了解、隊長、無理しないでくださいよ」
「分かってるさ、こんなところで血の海で抱かれるくらいなら・・・生きて女でも抱いてたほうがマシだからな」
「あなたらしい言いぐさです」
「じゃあ、いくぜ!」
数百メートルの距離を互いに詰め、ブレードを擦過させる。
その一瞬で、レイヴン成り立ての新米ならば何が起こったか知覚する前に死んでいたことだろう。
「ちっ!」
舌打ちが響いた。



「きゃああああっ!」
ルナのACを上に載せたまま、10体のグレイクラウドが動き出す。
「ルナちゃん!生きてたら回収してあげるからがんばって!」
「そ、そんなああああぁぁぁぁぁぁ!」
「くっ・・・まずいわね、生きている部隊の子達を回収して!火力が高いわ、物陰に隠れて!」
「そ、それが・・・」
「何?忙しいから手短にね」



「では、あれを動かしたというのかね?バレーナの連中が・・・勝手なマネを・・・」
「しかし、あれを動かしたとなると、我々企業連合に政府が何らかの圧力を加えることは目に見えているぞ・・・」
「しかし・・・あれを動かせば政府中枢に一撃与えられるかもしれん・・・全ての機体を中枢へ動かすよう指令を・・・」
「いやもう既に殆どが政府への進路を取ったらしい」
「殆ど、とは?」
「一機はそのまま上空で滞空、恐らくそのまま近くのハエをたたき落とすつもりだろう」
「もう一機はザーム砂漠へ・・・恐らく独占している地下施設の防衛でしょう、あの秘匿施設は政府には知られていないからな」
「そこで問題なのはわれらはどうするか、だ」
「政府に手を貸し、恩を売るか、それとも・・・これを契機に一気に政府を倒壊させるか・・・」
「そう言うときは多数決だろう・・・我ら巨大複合企業体13社伝統のな・・・」
「しかし・・・バレーナはいないのだから12社しか・・・」
「バレーナは必然的に殲滅に賛成だろう」
「そうですな・・・では政府殲滅作戦に賛成の企業は銀のコイン、反対の企業は銅のコインを・・・」

結果は12枚の銀のコインが示していた。



「副隊長、我らの後方に多数の反応、恐らく・・・」
「ジオ社とエム社だな、これは予想の範疇だ、アンネローゼ、ヒルデガルド両部隊・・・」
「こ・・・これは・・・パンドラ沖合に大艦隊!」
「・・・これは予想外・・・他大陸の連中め・・・この時を見越して艦隊を伏せていたのか・・・」
「どうします、少佐?中佐がいない今、あなたが責任者ですが」
「ま、大丈夫だ、『葬儀屋』に繋げ」
「了解」
葬儀屋、とは政府軍中枢の隠語である。
「少佐、繋がりました」
「こちら葬儀屋・・・おっと、リーロス少佐、どうした?」
「ああ・・・パンドラ沖合に他の大陸の物と思われる艦隊を確認した、増援を寄こしてくれ、
 それとやたらでかいMTが5機以上10機以下の数でそっちに向かった、迎撃準備をさせておいた方が良いと思う」
「分かった、でもそこまで増援を寄こすとなるといくら急いでも5時間はかかる、足止めはしてくれ」
「へーへー・・・努力はしてみるよ」
「では通信終わる、グッドラック」
「グッドラック」
「通信、切れました」
「さって・・・では行こうか、新少尉殿?」
「了解了解、弾薬の準備は万全よ」



既に熟練のレイヴンでさえ、何度死者の門を潜り抜けたか分からないほど激しい戦いが展開されていた。
ブレードをギリギリで回避し、至近距離で射撃をし、間合いを外すために体当たりをする。

すさまじい速度でデータが流れていく。
単純なシミュレートでは見えてこなかった欠点も、だんだんを見えてくる。
「おお・・・素晴らしい、素晴らしい戦闘データが手に入るぞ・・・もっと戦ってくれ給え、そして我らにデータを・・・」
口笛が、通信で入ってくる。
「な、なんだ?」
最初は一人だった口笛が、やがて二人になる。
「・・・まさか・・・」
研究員の一人は、この研究所に泊まり込みになる前に聞いた、ある曲を思い出していた。
「ワ・・・ワルキューレの騎行」
「ピンポーン」
やけに楽しそうな声が聞こえた。


「隊長・・・大丈夫かな?あの人妙にフェミニストだし・・・」
「死んだりゃしないよ、絶対に」
「言い切れるんですか?大尉」
「言い切れるね、ありゃ擬態だからな」
「擬態?」
「そうだ・・・完成すれば、と奴は言っていた、つまりまだ完成していない」
「確かに理屈はそうですけど・・・最終段階、残すは実戦テストのみと言うことも考えられます」
「恐らく、手に負えない状態だったんじゃないかな?」
「どういうことです?」
「つまりだ・・・今みたいに説明したんじゃないか?それが何を意味する物か」
「あっ・・・」
理解の色に顔が包まれる。
「つまり・・・あいつの目的は」


それに気付いたのは末端の研究員だった。
「所長、このデータですがおかしくありませんか?」
「何がかね?今現在戦闘中だ、分析は後にしてありとあらゆる角度からデータを取り給え」
「はぁ・・・」
だが、その意見が受け容れられることはなかった。



「さて・・・今回のミッションだが、楽勝だぞ、たった50機ほどのACが相手だ。
 こっちはAC300、MT1200だ、いくら精鋭とは言え・・・」
「敵部隊発砲!」
重AC『ハッピー・トリガー』
通常市販されているACパーツから組み上げられた機体のコンセプトそのままに政府特殊軍用に作られた機体。
パイロットはレイヴンとして幾つかの地域で有名な『アンモコレクターZ』
本名『ヴォルン・シュトーレン』、エンジェル隊の新隊員である。

「何だありゃぁ?対空砲台か?」
その対空砲は地上に向けられていた、一瞬で大量の機体を行動不能に仕上げていった。
「くっ・・・怯むな!撃て!撃ちまくれ!」
互いに砲弾を撃ち続ける。
だが、火力差がありすぎた。
重砲の連射を思わせる数門からの同時射撃にACもMTも数秒で装甲を貫かれ倒されてゆく。
そして4脚とフロート両方の特性を生かし高速で移動しながら撃ち続ける機体に砲弾は殆ど当たらなかった。

「ふっふっふ〜、気持ちイイ・・・」
マシンガンとチェインガンを同時に撃ち続ける感触に酔いしれ、彼女は感動していた。
いつしか彼女は荒い息、欲情した獣の目をしながら800機以上の機体を葬っていった。

「よし・・・グスタフ、カールの両隊は少尉の援護に向かってくれ、他の部隊は敵機動艦隊攻撃に向かう」
「しかし少佐・・・あの機体・・・我々の機体よりも強い感じがしませんか?」
「当然だろう、お前の機体も私の機体も3年も前に製造された物だ、
 そして彼女の機体は一昨日完成したばかりのパリパリの新型だ、機体性能に差があるのは当然だ」
「いいなぁ・・・そろそろ新しい機体が欲しい所ですね・・・」
「帰ったら開発部に申請しておけ」


「ピンポーン」
その声が響くと同時に戦闘が止まった。
「どうした?やられたのか?」
「いえ、違います、何か別のデータが・・・これは・・・ハッキングです、強制ハッキングされています!」
「なんだと?誰からだ!?」
「内部から・・・探知成功!・・・まさか!これは実験体からです、実験体からハッキングされています!」
「なんだと!強制ロックしろ!急げ!」
「無理です!データを得るために速度を重視しているため、チェック機能は何もありません!構築はできません!」
「ならば切断だ!回線を切れ!」
「切断防止装置が作動しています!無理です!」
「くっ・・・仕方ない、物理的に回路を切断しろ!急げ!」
「・・・了解」
机の下に潜り込み、通してあった太い回路をナイフで切り裂いた。

「ちっ・・・回線を物理的に切断したようね、これ以上送信できないわ」
「そうか、まあもう最低限送る物は送ったんだろ?」
「もちろんよ、早すぎてローカルでの情報が間に合わないかと思ったわ」
「そりゃあ良かった、先に進んで奴らと合流、作戦を続行するぞ」
「分かったわ」
「ところで・・・お前達の部下のことだが・・・」
「大丈夫よ、ACを機能停止にして眠らせておいたわ、どうせエンジェル隊も一緒でしょ?回収してくれるはずよ、
 連中、何でもそこら辺に放置してたから回収される心配もないし」
「そうか、OK・・・そこまでしてあれば大丈夫だな」
「あとは・・・中枢部を攻撃すれば終わりね」
「そう言うこと・・・これが終われば後は休暇だ」
そう言ってACが走り出す。
研究員の混乱をそこに残して。



時は少々遡る。
「くっ・・・空へ・・・?」
「空中から攻撃されたら我々は不利です、とにかく物陰に隠れましょう」
「そうね・・・シスターズを回収したらとりあえずACの余剰座席に座らせて!さっさと脱出するわよ!」
「了解!」
「あの・・・ルナちゃんは?」
「その話は後よ!彼女は運がいいから大丈夫!」
彼女たちが物陰に隠れた後、その場所にグレネード弾が炸裂した。


「う〜・・・怖いよぉ・・・」
彼女は必死でMTの首部分に作業腕を固定して耐えていた。
「ここを攻撃する兵器はないんだから・・・気を付けて立ち上がって・・・立ち上がって・・・」
バタバタともがいてみるが全く立ち上がれなかった。
逆に振り落とされそうになる。
「にゃあぁっ!?」
たまたま足が機体の出っ張りに引っかかり、落下は免れた。
「ふぅ・・・」
出っ張りを支点に飛び上がる、ようやくMTの上に出た。
まだACを腹這いにさせたままであったが。
下ではグレネードの炸裂音も聞こえたが、彼女にはそれを気にする余裕もない。
もちろん、周りにいた同じ形をしたMTが居なくなっていることにも気付かなかった。
「えっと・・・これからどうしよう・・・」
上にいて振り落とされないようにしよう、それだけしか考えていなかった事にようやく思い当たる。



「んふふふふ・・・」
淫靡な声が響く、彼女シュトーレン少尉はまさに興奮の絶頂にあった。
「隊長・・・彼女はいったい何者なんですか?」
「正直俺もよく分からない・・・が・・・」
グスタフ隊隊長ハルバード・ヴォルケナー大尉は答えた。
「エンジェル隊の出した条件、優秀で裏切らない人物、と言うことでレイヴンからスカウトしてきたらしい、
 人格には問題が多々あるようだが」
「エンジェル隊も苦労するなぁ・・・これじゃあ・・・」
「そうだな、まあそれはさしあたって朝霧大尉に任せよう」
「隊長、残存敵機!上空から攻撃!」
「全員散開しろ!」
散開した後には、少尉のACが残っていた。
「少尉!?逃げろ!」
逃げなかった、上空の機体目掛け残った弾を乱射した。
射線上のグレネード弾は四散した。
「す・・・凄い」
腕武器のマシンガンが弾切れになったようだった、ひっきりなしに吐き出された弾が全く吐き出されなくなった。
「ああもう!なんだいなんだい!景気悪いねぇ!」
彼女の機体は作業腕を取り出し、脚部に取り付けたマシンガンを握った。
「隊長!敵の増援です!」



「にゃああぁっ!」
上空に浮かんでいる機体が被弾して揺れ出す。
「わっわっ・・・な、何とかしないと」
とりあえずと手元のレバーを握った、そして回転させた。
作業腕が格納されていった。
彼女のACを安定させていた作業腕が。
「わわわっ・・・にゃああ!」
巨大MTが急旋回した。
眼下の獲物目指して。
「にゃああああっ!」
叫ぶと同時に目をつぶってレバーのボタンを押す。
武器発射ボタンを。



「中枢部撃破に成功、長居は無用だ」
「殆ど抵抗がありませんでしたね、どうしたんでしょう?」
「そんなことはしらん、とりあえずエンジェル隊と合流して脱出だ」
「了解」
「エンジェル隊聞こえるか、中枢部の撃破に成功、何かあったか?」
『こちらエンジェル隊、シスターズ回収、及び敵の新兵器を確認』
「その新兵器はどうした?」
『天井を突き破って空に、調査中だったルナ・樫月が事故のため敵とともに上空へ行ってしまい行方不明です』
「わかった、脱出しろ、上空へ舞い上がったとすれば回収は困難だ」
『・・・了解』
少しだけ間があった。


「隊長・・・」
「ああ、一杯食わされたな・・・この機動艦隊にはAC・・・機動兵器の類が積まれていない・・・囮だな」
「せいぜい戦闘ヘリくらいですからね」
「かといって後ろを見せれば旧世紀の異物・・・戦艦主砲計60門が撃ち抜く、か・・・」
「そもそも数が尋常じゃないだろ・・・これだけ居ればそれこそ七つの海を制覇できるぜ」
「・・・それに・・・これだけ居れば普通この程度の規模のAC部隊なんて潰されてしまいますよ」
「ああ、包囲作戦にはまったな、とりあえず艦の上にいれば味方ごと吹き飛ばす気がない以上安全だがな・・・」
「つまり空中に飛び上がれば対空砲火と主砲の餌食ってわけですね・・・」
「ああ、遠距離・・・この艦から戦艦を撃破する以外に方法はないわけだ」
「くそっ・・・ええい!じれったい!」
「ローア中尉!足を止めるな!ねらい打ちされるぞ!」
足を止め、マシンガンを両手で構える、そのまま狙撃体制を取った。
「ローア中尉!無理だ!」
「ここでやらなきゃ地上迎撃の連中が危ないでしょ!」
戦闘ヘリがロケットを放つ、直後にそのヘリは火球と化した。
「くっ!」
ここで動いたり攻撃を食らえば照準がずれる、そう考えた時。
一丁のハンドガンが飛び、ロケット弾の行く道を遮った。
「霧島少尉・・・」
「栞と呼んでください、あなたの方が年上なんですから・・・信じますよ」
「オッケー・・・」

「曲射弾道だが・・・これでどうだ!」
マシンガンを撃った、その一撃は一門の主砲を破壊し、その艦の視界を遮った。
「東海林大尉!」
「言われなくても・・・行くわよ!」
「気を付けろ・・・光」
「翼お兄ちゃん・・・いえ、大尉もね」

視界が晴れる直前東海林大尉率いるフロート部隊『ヒルデガルド』が戦艦に到達し、艦橋を一撃で破壊する。
「よっしゃあ!」
リーロス少佐は自分でも知らないうちにガッツポーズを取っていた。
「ヒルデガルド隊!現在位置で攻撃可能な艦艇を攻撃せよ!相手は大きく混乱しているはずだ!」
「了解!」

「ローア中尉!この中で狙撃が一番優れているのは貴官のようだ、狙撃を続けてくれ、今度は右方向!」
「了解、続行します!」
「翼大尉!次の艦までは距離がかなりある、今度の突撃は貴官のメッサーシュミット隊に任せようと思うが」
「大丈夫です、先ほど光の突撃した左の艦群が一番主砲門数が多かったので敵の砲火は激減しているはずです、やれます!」
「・・・そう言った以上任務は果たせよ・・・全員無事にな」
「了解!」



「くっ・・・砲門数を生かして攻撃するつもりが・・・旗艦を真っ先に潰され、しかも右方面艦群は連絡がとれんときたか・・・
 一応敵を中央部に包囲することはできたが・・・」
「艦長、旗艦をこのグナイゼナウに移しましょう、独自の判断をするべきです」
「わかった、そうしよう、よし、指揮可能な全艦に通達、主砲全門発射、目標は中央艦群旗艦ヴォルケングラーツオ甲板だ!」
「な・・・友軍ごと撃ち落とすというのですか!?」
「独自の判断をしろと言ったのは参謀長、君だぞ、それにこれ以上被害を拡大するわけにはいかん!」
「敵部隊の火線がこっちに向かってきます!接触まであと10秒!」
「全艦に回避運動を取らせろ!」
火線は回避運動を計算に入れていた。
火線はまっすぐ旗艦主砲を貫き、爆発した。



偶然だった。
武器発射のボタンを押してしまったことも。
そして発射された方向が、ちょうど機体の急所だったことも。
爆発音が響き、爆風でACが吹き飛ばされた。
「きゃああ!」
ACがMTから落下する、ACのモニターには、首がもげ、錐もみ回転をしたままパンドラへ突っ込むMTの姿が映し出されていた。
そしてその先に、脱出したばかりのエンジェル隊達がいたことは、彼女の知るところではなかった。
「わわわっ・・・ブースターを、ブースターをっ!」
ブースターボタンを押しても反応がなかった。
「故障・・・?」
落下の勢いを止めることなく、彼女のACは地面へと落下していった。



「ええぃ・・・重ACが弾切れでブレードもないとは・・・こりゃ厳しい・・・」
「戦闘直後のAC10機と・・・完全整備済みの精鋭部隊30機・・・どっちが勝つよ?」
「こっちが勝つのは厳しいねぇ!」
ようやく一機のACが倒れた。
機体には、エムロードのマークが貼られていた。
「あ・・・おい!二時方向!」
「また増援か?」
「違う!あのデカ物がパンドラに突っ込むぞ!」
「そりゃいかん!」
戦闘中だというのに通信機の周波数をあわせて大尉は言った。
「中佐!そこは危険です!都市から離れてください!」

『中佐!そこは危険です!都市から離れてください!』
通信が舞い込んできた、間違いなく聞き覚えのある声だった。
判断は一瞬。
「散開!」
散開しながら何が危険なのかを探る、そして7時方向に見た、こっちにまっすぐ突っ込んでくる巨大なMTを
「だああああああぁぁぁ!」
全機ともオーバードブーストを作動させる。
これほど作動までの時間が待ち遠しかった事は滅多になかった。

そして、MTが都市に突き刺さる。
そこは、都市外縁部を支える機関室だった。



「翼大尉!」
「分かってますよぉ!行くぜぇ!」
空中に飛び上がり飛んでゆく、まさに鳥のようだった。
対空砲火が飛んでくる、主砲も火を噴く。
だが濃度の薄くなった火線で彼等をとらえるのは不可能だった。
彼の部隊はほぼ真上まで来たところで、急降下して艦橋を破壊していった。



「ちくしょう・・・1機に3人でかかってるのに・・・何で倒せないんだ?」
「強いからだろ!だが、ここまでだ!」
「ぐっ!」
一機の政府機がバズーカの直撃を脚部に受けた。
ACが膝をつく。
「もらったぁぁぁ!」
一機がブレードを突きの構えで飛び込んでくる。
立ち上がるまでの一瞬が長い。
被弾したローレン少尉は自分の死を覚悟した。
そんな時だった。



「少佐!こっちの機動艦隊は全滅させました!」
「こちらも完了です、陸に戻って部隊を支援しましょう」
「賛成だ、戻って支援をするぞ!」
そう言ってACの左腕を上げた瞬間だった。
「少佐!その艦の主砲がまだ動いています!」
そんな声が響いたのは。



「まだ・・・まだあきらめない!」
落下の勢いを殺せないのならせめて足から落ちれば生きているかもしれない、
そう考え、彼女は必死に空中でバランスを取ろうとしていた。
そしてバランスを取り、落下の体勢を取ろうとした。
真下にACが居た。
ローレン少尉にブレードを突き刺そうとしていたACだった。
直撃と同時にルナの機体の足が折れ、地面にうつぶせに落下する。
ACが直撃した機体は頭が割れ、折れた足はコアの一部までめり込んでいた。



爆発音が響く。
彼等はACを消し飛ばす衝撃からは脱出できても、ACを吹き飛ばすような衝撃からは逃げ切れなかった。
機関室が燃え、大量の弾薬が誘爆を起こし、それが都市の重要部分の誘爆を誘った。
わずか数分で、パンドラの3分の1が吹き飛んだ。
ただ、これだけの爆発ながら居住区も研究区も巻き込まず、死者が一人も出なかったのは幸いだったと言えよう。



主砲発射の衝撃は甲板の上にいたACを吹き飛ばした。
そこには6機のACが居た。
エディ・リーロス少佐、そしてアダム隊のACである。
「自爆覚悟か・・・やってくれる」
吹き飛ばされた衝撃を逆用して近くにあった艦に飛び移る。
ただ一人、神尾雄大尉を除いて。
「大尉?」
「隊長!」
海に投げ出される、海面下に落下すればACとはいえ長くは持たない。
「隊長!」
「・・・ざけんな」
声が聞こえた。
「え?」
「ふざけるな!」
爆発音にも似たブースター音が聞こえ、機体は垂直に上昇した、まるで慣性をうち消したように。
「くたばれ!」
手にした巨大なプラズマライフルを発射した。
その一撃は、最後の一撃を放ち、その衝撃で沈没を始めた戦艦を文字通り切り裂いた。
そして、あえて沈没を始めた艦に降り立ち、その艦橋を一閃した。
「最後の一撃を撃つ元気があるなら・・・逃げやがれ弱者・・・」
その呟きは誰にも聞こえなかった。
だが、それが無理だと知っていても、言わずにはいわれなかった。



「あいたたた・・・」
暫く気を失っていたのだと気付くのに数十秒かかった。
全身がなんとなく痛い、ACが反応しない、極めつけにパイロット保護用のベルトが切れている。
もうACは全損だろう、と何となく考える。
と、そこに衝撃。
何が起こったか考える前にハッチが開いた。


空には満月が光っていた。


よく考えたらハッチ開けば良いんだ、と気付いたのは満月にみとれた後だった。
「ルナちゃん!無事?」
そう言ったのは朝霧大尉だった。
「ええっと・・・無事です」
「よかったぁ・・・」
「どうしたんですか?」
「賭け事よ」
「賭け事?」
「無事って言うか言わないかの勝負、夕飯は私のおごり、ルナちゃんも来る?」
そう言ったのはケイ少佐だった。
「あ・・・いいんですか?」
「もちろんよ」
一瞬だけ目の奥が光ったのには誰も気付かなかった。

今回のミッションで彼女の命が奪われることはなく、家に帰ること幸せを噛みしめる事ができた。


・・・貞操については分からないが。



ミッションは終了した。
10体のグレイクラウドは全て破壊され、パンドラは破棄されることが企業間で決定した。
エネルギー供給施設がしこたま吹き飛んでしまったからである。

そして、バレーナ社は・・・程なくして衰退を始めた。
再び隆盛するのか、それともこのまま消滅するのかは未だ不明である。
‐了‐
後書き

ようやく終わりました、ルナ編。 後編になると影が異様に薄くなってしまった気がしますが。 でも都市の3分の1を破壊した点から見ると一番ですかね? さて、ゲストキャラですが言わずとしれた「神牙」さんの「樫月ルナ」です。 そして今回結構な量ゲストキャラというか部隊の連中の名前が出たので(即興で)名前を紹介したいと思います。 適当なので「ここに同姓同名が居るぞ」ってのは勘弁してください。 S−6偵察隊 ケイ・ニシザキ少佐 副隊長 エディ・リーロス少佐 A−1大隊所属小隊長 ペーリン・グラッツァー大尉(カール隊) ハルバード・ヴォルケナー大尉(グスタフ隊) 東海林光大尉(ヒルデガルド隊) 東海林翼大尉(メッサーシュミット隊) 神尾雄大尉(アダム隊) 所属隊員 霧島栞少尉(ヒルデガルド隊) ヴォルケンツ・ローア中尉(キングタイガー隊) ヴァンダー・ローレン少尉(グスタフ隊) さて、あと一仕事、後日談を書き上げます。 ルナについては神牙さんに任せて他のキャラ達を(^^) 戻る