パンドラの月(中編)
パンドラ内部で、争乱が起こっていた。
騒ぎの中心には、地球政府のデビル隊が居た。
「だー!もう!」
ルク中佐が叫んだ。
「邪魔なんだよ!」
レヴィン中尉が敵を切り倒した。
「敵も数が多いですね、一体どれだけMTを作ったんでしょうか?」
フェイ少尉が遠くにいたMT部隊に向けてロケットを撃ち込みながら聞いた。
「さてな、とりあえず言えることはジオもエムロードもバレーナも・・・この企業群にいるってことだな!」
MTに紛れて突入してきたACをピンポイント射撃で無力化したケリー大尉が言う。
「そうですね・・・それよりも気になるのが」
マシンガンを乱射し、敵の前進速度をコントロールしながら西堂少尉は続ける。
「間違いなく、インディーズを支援している企業もいますよ、敵MTにインディーズの物があります」
「そうか、わかった・・・西堂少尉、天使達は無事だと思うか?」
「どうでしょうね?彼女が幸を呼ぶか不幸を呼ぶかによるかもしれませんね」
一方、天使達ことエンジェル隊。
「うぅ〜・・・」
「ルナちゃん、どうしたの?」
メイ少尉が聞いた。
「さっきはごめんなさい・・・」
ルナが頭を下げた。
「いいのよ、あれも作戦の一部だったと思いなさい」
ミント中尉が軽く慰める。
「でも・・・でもぉ・・・」
「・・・反省してるのなら次からミスをしないように気をつけて、なおかつ役に立つように努力しなさい」
唯大尉が言った。
「・・・はい」
「ところで、今度の作戦目標ってどこにあるんですか?」
アーヴィー中尉が言った。
「・・・それがわからないからこうして探してるんでしょ・・・」
唯大尉が呆れつつ言った。
時を遡ること約1時間前。
「まず最初にやることは企業群がここで何をやっているかの確認、場合によっては戦闘もあり得る」
「・・・それは秘密兵器、って事ですか?」
「そうとは限らない、連中が何をやってるかなんてのは連中にしかわからんよ」
「隊長・・・右前方10メートルの曲がり角、約400メートル先の地点に防御装置・・・侵入者警戒用の迎撃装置があるようです」
西堂少尉が言った。
「・・・分かった、ここで見つかるのは得策ではない、だから妨害波を・・・」
ルク中佐がそう言った瞬間に防御装置が爆発した。
「出してごまかす・・・って・・・ルナちゃ〜ん、何をしたのかなぁ?」
引きつった笑顔でルク中佐が言った。
「えっと・・・撃ち抜いちゃいましたっ」
元気にそう言った。
その瞬間、けたたましい警報音が鳴り響き、赤い光が壁いっぱいに広がった。
「侵入者確認。侵入者確認、各戦闘員は兵器に搭乗、迎撃してください、繰り返します・・・」
「侵入者位置特定、エリア4−5、都市外縁部です、内部に進入される前に・・・」
10人は笑顔のまま静止していた。
「あ〜・・・進入に気付かれてしまった訳なので作戦を変更する」
ルク中佐が重々しくそう言った。
「デビル隊は迎撃に来る連中を迎え撃ち、中央部に突入を仕掛ける・・・」
「エンジェル隊は?」
「そうだな・・・唯大尉とミント中尉、指揮をそっちに任せる、妨害波を出して予定コースを通って進入してくれ」
「了解」
「作戦開始!デビル隊は中央部に突入かける!」
「う〜・・・潜入は静かにって心がけてたのに・・・どうしていつもこうなんだろ・・・」
は〜っとため息を一つしてルナはエンジェル隊の真ん中にいた。
「だから・・・気にしないの、そう言うことは」
「あ・・・隊長、大型機の反応です、熱反応から見て未稼働状態のようですが・・・」
「場所は?」
「えっと・・・この壁の向こうみたいですね、直線距離で200メートルもありません」
「分かったわ、アーヴィー」
「・・・了解」
寡黙な少女、アーヴィーは、次の瞬間ブレードを三回振り壁を蹴った。
するとその壁は脆くも崩れた。
「よし、先に進むわよ、メイ、敵の反応があったらすぐに知らせて」
「分かりました」
「隊長、もうそろそろ良いんじゃないですか?」
「なんだディッケル?もうへばったか?」
こんな時でも彼は平然と部下を小馬鹿にする。
「そうじゃないでしょう?もう十分敵を釘付けにしました、正面きって足止めする必要もないでしょう」
西堂少尉が攻撃を回避しつつ言う。
「正論だな・・・よし敵にばればれな方向に撤退する、方向は真上だ」
「真上?あのエアクリーナーの入り口ですか?」
「あんな所をACが動き回れるんですか?」
「多分大丈夫だ、さっき画像処理をしてみたが十分ACが歩き回れる、多分中で働く重器のためだろうが・・・この際アレを利用させて貰うさ」
「分かりました、それじゃ・・・カウント、どうぞ」
「オッケー・・・5秒前」
接近しようとするMTの足を狙い、その足を止めた。
「モニターの電源をカット・・・完了」
「ゼロ!」
一機のACから光が放たれた。
その光はMTのあたりを囲んでいたパイロットたちの目を潰すには十分な光だった。
思わず、パイロットたちが目を覆った。
そのきっかり5秒後、真上から死と名付けられた弾幕が降り注いだ。
「うああああぁぁ・・・」
幸運なパイロットは僚機が破壊されゆく中、天使の姿をした悪魔が空へ空へと舞い上がってゆくのを見た。
「逃げられたのか?」
「そのようです・・・」
「で、何処へ向かったんだ?」
「はい、作業用の通風口に逃げ込んだようです」
「なに・・・まずいじゃないか、それは・・・」
「はい、防衛部隊に移動を命じましたが・・・いかんせん戦うには狭すぎますからな・・・各個撃破されるのがオチかと」
「だがそれは敵も同じだろう?何故倒せないのだ?」
「正面からの火力、装甲、移動力、全てが劣っているからです」
「ダリオ君・・・君は率直な意見の持ち主だな、で、それに対する手段は考えてあるのだろうね?
もし用意していなければ・・・分かっているね?」
机から何かを取り出すのが彼の目には見えた。
それは恐らく、彼を殺すのに十分な物だろう。
机の影で見えないが、持ち上げた感じからして・・・やはり小型の暗殺用拳銃―デリンジャー―だ。
「もちろんありますよ」
それに怯む様子もなく笑顔で言った。
「『バイオ−3』の出撃を要請します」
「・・・『アレ』をかね?」
「ええ、そうです」
「我々でさえコントロールできていないのだぞ?しかもあの被検体は・・・」
「分かっています、『だからこそ』ですよ」
「そうかね・・・分かった、詳細は君に任せよう・・・私は・・・もう一つの部隊の相手を試してみようか・・・」
「・・・あちらはまだ試作段階ですよ?しかもあの2社の認可もとれていませんし・・・」
「事後承諾と言う手もあるだろう、全機稼働させるように命じておけ・・・」
「分かりました」
迷いなく言った。
「うわぁ・・・おっきいですね・・・」
ルナがそう言った機体は、本当に大きかった。
ACの住む部屋、人間でない機械が家に住むはずがないが、まるでそのような大きさだった。
「グレイクラウド・・・?」
ミント中尉が言った。
バレーナ社の所持していたザーム砂漠地下の研究施設で発見された超巨大MT。
機体名グレイクラウド。
比較的穏健だったバレーナ社が監督局の部隊を全滅させてまで隠匿しようとした機体。
そしてその試作一号機は、完成前に破壊されている。
それが目の前に・・・10機存在した。
「・・・調査を始めるわよ」
唯大尉が言う。
メンバーは黙々と機体を調査し始めた。
「え〜っと・・・私、腕がないんですけど・・・」
武器腕のACに乗ったルナが困った声で言った。
「えっと・・・確かそのコアってジオ社のコアだったわよね?」
「はい、そうですけど?」
「えっと、その場合は・・・ルナちゃん、ベルト外して」
「あ、はい」
カチャカチャという音がして、ベルトがはずれる。
「そうしたら座席の上に取っ手があるの分かるかしら?」
「あ・・・見えます、はじめてみました」
「その取っ手を引っ張ってちょうだい」
立ち上がってそれを引っ張った瞬間、それがカクンと沈んだ。
「きゃっ」
「大丈夫、落ち着いて、開いたパネルの裏側にボタンとかあるの分かるわね?」
「・・・いっぱいありすぎてよく分かりません・・・」
「その一番上の列の右から3番目のボタンを押して」
「これですか?」
「それを押したら次は操作レバーの発射キーを押しながら回して」
「えっと・・・こうですか?」
レバーが回転するのか半信半疑のまま力を加えると、それはいともあっさり回った。
音がして、武器腕が奇妙に折れ曲がりだした。
「え?何々?」
彼女は座った状態でもなく、立った状態でもない不安定な状態のままでコアの振動を感じていた。
「よし、できたわね」
「唯さん・・・なんなんですか?これ・・・」
「武器腕用の作業腕よ、細かい作業とかもこれでできるわ、戻すときは回したレバーを元に戻すだけだから・・・」
「はい、一つ賢くなりました」
ルナは本当に嬉しそうに答えた。
「で、これから何処へ行くんですか?」
ケリー大尉が言った。
「決まってるだろ?中枢部だよ」
「中枢部って・・・道は分かってるんですか?」
「分からないから逆に分かる」
「どういうことですか?」
西堂少尉が言った。
「この都市・・・パンドラの落成式典、覚えてるか?」
「ええ、まあ、派手に宣伝してましたからね、政府と企業の友好化への第一歩って」
「その通り、そのとき我らが上官、防衛庁長官殿は殆どの場所に案内して貰ったんだが・・・」
「あ・・・」
フェイ少尉は理解したようだった。
「幾つかある不明区画、多分その一番大きな所に目標・・・企業が隠したがってる何かがある!」
それがフェイクだ、という不安を押し隠し、ルクウェンドゥ中佐は断言した。
「隊長・・・」
「何か分かった?」
200メートルほど離れた地点から唯大尉が返事をする。
「何かありましたぁ?」
グレイクラウドの上からルナが声をかける。
「いえ・・・アレを・・・」
メイ少尉のACが指さす先には、ACの残骸があった。
「あれは?」
「分かりません・・・でも多分・・・」
「多分?」
「エンブレムとカラーリングから見て・・・『シスターズ』の物かと」
「何ですって!」
「あの・・・シスターズって?」
「あ・・・ああ、そうね、知らないわよね、彼女たちを説明するには・・・
まず行方不明になった『S−6』の隊長の説明、いえ、それよりも先に政府軍の話から始めないといけないわね・・・」
「は、はぁ・・・そんなに複雑なんですか?」
「大丈夫よ、そんなに複雑な話じゃないから」
ミント中尉が計器から目を離さずに言った。
「そうそう、それにそんなに長い話でもないから調査のついでに聞いてるくらいで良いのよ」
アーヴィー中尉が、ゆっくりとあたりを警戒しながらACの残骸に近づいていく。
「政府の軍隊ってね、部下を選ぶ事がある程度可能なの」
「そう、なんですか」
「そうなの、エンジェル隊は候補者の中から私が直接選んだし、A−1大隊所属の小隊や中隊はルク中佐が選んだのよ」
「は、はぁ・・・」
「それでね?S−6偵察隊の隊長はケイ少佐って女の人でね・・・可愛い物に目がないの」
「えっと・・・それとどういう関係が・・・」
ふぅっとため息一つし、左手で頭を押さえる。
「気に入った相手なら男も女もお構いなし、なのよ」
ルナの時間は急停止した。
停止した際の衝撃は通常のレベルではなく、頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
「・・・は?」
たっぷり10秒ほど経って、ようやくでた言葉がそれだった。
「・・・だから、いわゆる両刀使いって人で・・・」
「ちなみにルク中佐も唯大尉もその相手になったことあるのよ」
アーヴィー中尉が悪戯っぽく笑った。
そして唯大尉は両手で頭を左右から押さえた。
1分ほど経ってから。
「と・・・とにかく、そのケイ少佐がね」
唯大尉が声を絞り出す。
心なしか涙声だ。
「部隊を編成するとき、お気に入りの人ばかりを選んで選出したのよ、
それでS−6偵察中隊を作るときにお気に入りの12人を直轄部隊にしたのよ・・・
それが『シスターズ』・・・部隊の実力は平凡・・・
ただし、彼女の実力が部隊としての評価を一流にしているわ・・・」
「そ、それがシスターズ、ですか・・・」
「その通り」
「隊長、生命反応があります・・・彼女たち、生きてます!」
その声に重なるように、グレイクラウドのモニター、人の顔に例えれば目の部分が・・・
鋭く、赤く光った。
「そろそろ中枢部だと思うが・・・」
『その通り、ここが君たちの求めるパンドラ中枢部だよ』
「なんだと?」
声が重低音で響いた。
『君たちが何者だろうと・・・ここで何をしても構わない・・・ただし』
中枢部の広いフィールドの中央から、ACがせり上がってきた。
『この機体に勝利できればね』
その機体は、一度見れば忘れられない機体だった。
虹色の機体だった。
そして文字が至る所に書かれていた。
右肩に威風堂々。
左肩に一撃離脱。
右腕に一発必中。
左腕に一撃必殺。
正面に画竜点睛。
背中に金科玉条。
右足に勇猛果敢。
左足に速戦即決。
右腕に装備したライフルには一網打尽
左腕に装備したブレードには一気呵成
そして頭部にかかれた二つの文字。
『涙落』
機体名『Tear Drop Queen』
パイロット『ケイ・ニシザキ少佐』
―続―
後書き
中編です、ええ、まとめられんかったのです。
ゲストキャラは前回同様、「神牙」さんの「樫月ルナ」です。
後、前回はしっかり考えていなかった地球政府特殊部隊「A−1」の一部を紹介します。
総隊長、レイ・ルクウェンドゥ(中佐)
麾下部隊。
エンジェル隊
隊長、唯・朝霧(大尉)
隊員
ミント・マトリエラ(中尉)
アーヴィー・キューラ(中尉)
メイ・リン(少尉)
欠員1
デビル隊
隊長、ケリー・マキネン(大尉)
隊員
ディッケル・レヴィン(中尉)
葵・西堂(少尉)
フェイ・ハウアー(少尉)
欠員1
他10個隊が所属、以下は部隊名のみ
アダム隊
イヴ隊
ロキ隊
トール隊
グスタフ隊
カール隊
アンネローゼ隊
ヒルデガルド隊
キングタイガー隊
メッサーシュミット隊
と言うか今回も戦闘シーンがありませんでしたね。
次こそ、次こそ完結させますので次回をお待ちください。
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