MT
戦場を駆ける機体が一機。
恐ろしい速度だった。
その先には部隊があった。
MTが数機、それに大型トレーラーが2つ。
それほど大きな部隊では無さそうだった。
気付かれる前に一機のMTが倒された。
「て、敵?」
「スピードが速い!ACの用意を!早く!」
通信を傍受しながら、彼は笑った。
「無駄だよ」
そう言うとコックピットのボタンを押した。
通常あるはずのない位置にそのボタンはあった。
突如その機体は変形した。
腕が4本に増えていた。
4方向から一度に繰り出されるブレード。
通常兵装のMTでは防ぐことが出来ずにたちまちのうちに倒された。
「ちっ・・・ACがでてきたか、厄介だな」
だが、その男からは笑顔が絶えなかった。
「だからこそ、面白いんだけどな」
「フン・・・こんなところで攻めてくるとは・・・油断があったことは否めないな」
ACの男はそう言った。
この部隊は、ここから3時間ほどのところで、部隊の補充を受けることになっていたのだ。
「だが・・・そんな『MT』で・・・ACに勝てると思うなよ!」
マシンガンが発射された。
だが、MTはそれを難なくかわす。
「おっと・・・ACだからって、油断してると・・・死ぬぜっ!」
MTの膝を折り曲げ、真横にかわすMT。
「くらえっ!」
ミサイルが飛ばされた。
「だから・・・それが甘いといってるんだ!」
折り曲げられた膝から覗くのは、戦車砲だった。
「なっ!折り曲げ式だと!」
直撃を受けた。
「だが・・・まだだ!」
ACが体勢を立て直し、正面を向いたとき、そこにMTはいなかった。
レーダー表示では、真後ろ。
「くっ!」
無茶な体勢で4本のブレードを回避する。
「おやまぁ・・・頑張るねぇ」
「ふっ・・・私とてネスト崩壊後にただぬくぬくとしていたわけではないのでな」
「だが・・・機体はそう言ってはないようだが?」
足からは、黒煙が上がっていた。
「くっ・・・無茶な動きをしてしまったか・・・」
「いやいや・・・十分なものだったよ、だが・・・」
4本の手のうち、一本が動いた。
「ジ・エンド」
瞬間、何が起こったか、ACのパイロットには分からなかっただろう。
まばゆい光を感じた瞬間、ACが消滅したのだから。
「さて・・・今度の物資は何かな・・・っと」
MTの男はトレーラーに向かっていった。
同じ頃、辞表を提出する会社員が1人。
「辞めるのかね?」
「はい、予算や時間の都合などもありますし、それならば自分で好きなだけ研究がしたいので・・・」
「フン、さすがツェルネンコフ財団の四男坊だな」
「あの人達とはこの会社に入った時点で無関係のはずですが」
毅然とした口調で男は言った。
「そうかね・・・ならば君の持つ私設ガレージは誰の金で買ったのかね?」
「無論あなた方に貰った給料で、ですよ」
「良く建てられたな・・・」
社長は驚きの声で言った。
「自分は酒がエナジーですから」
酒代以外は全てガレージに注ぎ込んだと言わんばかりの口調で男は言った。
そして笑顔で男は振り返り、社長室を出ていく。
「待ち給え」
男は振り返らず、立ち止まりもしない。
「キーシン・ラート・ツェルネンコフ!」
名前を呼ばれて男は振り返る。
「何でしょう?」
「この会社を出てどうする気かね?」
「そうですね・・・」
暫く考え込んだ後、言った。
「オーソドックスに世界征服なんてどうでしょう?」
最近、名を上げる二人の男。
1人はクイシュト、レイヴンネーム『ヴイントシュートス』
恐ろしい速度のMTを駆り、ACさえも翻弄するという凄腕である。
もう1人はキーシン・ラート・ツェルネンコフ。
改造の名手で、最初はブースターのみであったが、最近では他のパーツも改造を始めた。
両者が出会うのに数ヶ月の時間が必要だった。
「ここ・・・だな」
クイシュトはガレージに入っていった。
「何かご用ですか?」
男が出迎えた。
「Mrツェルネンコフ?」
「そうです・・・ではあなたはヴイントシュートス?」
それが両者の出会いだった。
「で、どこを改造するんですか?しかもMTの」
「MTだからと馬鹿にしない方がいいぞ・・・」
そう言うとMTをトレーラーに乗せてガレージに入れた。
「こいつだ」
そう言ってMTを降ろす。
一時間後。
「驚いたな・・・こりゃぁ凄い・・・」
「そうだろぅ?」
「外見上はただの有明なのに・・・」
ツェルネンコフは興奮したように全ての改造部分について語った。
「まずはブレードが四本ついてる事に驚いたね」
彼のMTは通常二本の腕を四本に増やし、その全てのブレードを装備している。
その上二本は隠し腕である。
「そして『足武器』の戦車砲・・・」
MTの脚部を折り曲げると88ミリの戦車砲が両足から発射できるようになっている。
しかも姿勢制御プログラムを改造してあるためか横に動いているときでも正面発射が出来るような動きになっている。
「背中の全方位レーザー砲・・・」
MTの全電力を消費し、全方向にレーザーを放つことが可能、ただし、数秒間は動けない。
「肩装備のチェインガンと小型ビーム砲・・・」
肩は二層に分かれていて左右にそれぞれチェインガンとビーム砲が取り付けられている。
しかもそれぞれ後方にも撃てるように回転式だ。
「後は・・・」
「胸部には対艦ミサイルもついてるぞ」
胸部が開閉式になっていてそこから対艦ミサイルが撃ち出されるようになっているのだ。
「装甲なんか無いに等しいが・・・」
そう前置きした後。
「どっちにしろ恐ろしいな、これであの噂通りの風のような動きが出来るのだから」
「そう、それだ」
クイシュトは言った。
「確かに、こいつは最高速度は早い」
「何が不満なんだ?」
「加速だ」
「とにかく加速を良くしてくれ、できれば最高速度も上げてくれると嬉しい」
それが彼の注文だった。
期間は1ヶ月と言うことだった。
次のミッションがその時らしい。
「さて・・・慣らしの期間を含めると3週間ってところか・・・」
とりあえず3日間かけてMTの図面を作った。
「余剰部分は・・・もう無いな」
カリカリとメモ帳に書き込んでいく。
2日後。
「そうだ・・・内部に拘る必要は無いんだよな・・・だとしたら外装で・・・」
さらに2日後。
徹夜で図面は完成した。
「で・・・できた」
それから丸1日の休息があった。
さすがに1週間不眠不休では彼も限界が来た。
「あと1週間と6日、だな」
その道に詳しい友人達を呼んだ。
そして2週間かけ、それは完成した。
その間は全員徹夜だった。
「ご苦労さん・・・」
全員が倒れ込むように寝込み、回復するのに2日かかった。
そして、テストが行われた。
「零からの加速試験を行うのでとりあえず全開してください」
ちなみにここはザーム砂漠近郊の荒野である。
凄まじい砂煙と共にMTが吹っ飛んでいく。
「ぐっ・・・」
クイシュトが呻き声を上げ、制作者の全員が歓声を上げた。
「成功だ!ゼロから15秒で亜音速に達したぞ!」
「それはそうと最高速度は大丈夫なのか?衝撃波の心配とか・・・」
「安心しろ、亜音速が最高速の設計だ、衝撃波はないだろう」
「そうなのか?」
「ヘリなど加速で振り切ってしまうだろう」
「確かに音速のヘリなんてのは聞いたことがないな・・・」
「停止はどうするんだ?」
「大丈夫だ、クイシュト君、ブースターレベルをマイナスまで下げてくれ、一気に下げると多分死ぬぞ、気をつけろ」
「言われなくても・・・」
腕どころか全身が痺れているので力が入らないのだ。
テスト終了後。
「どうだた、調子は?」
「並のもんじゃないのはよく分かったよ、大仰なブースターだけのことはあるね」
「そう言ってくれると嬉しいよ、苦労した甲斐があるってものだ」
「ところで報酬のことだが」
「ああ、そうだな・・・新型パーツの設計までやったんだ、10万は貰わないとな」
「オッケー、じゃあ12万ってところでどうだ?」
「分かった、それでいい」
そして、彼は次の仕事にて、最高速度、マッハ0.6で走る列車に追走し、その列車から新型のパーツを奪取することに成功した。
こうして彼等の名声は飛躍的に上がっていった。
時に・・・ネスト崩壊から5年後のことである。
‐了‐
後書き
はい、後書きです。
何でしょうね?我ながらとんでも無い設定です。
MTが強く設定しすぎですね。
多分機体性能はファンタズマ並に火力が高く(全方位レーザーはファンタズマと同じ物)
ナインボールより早いです。
でも装甲はビショップくらいしかありません(^^)
一回完全に詰まったのに新規に書き出したら一日で書き上がりました(^^)
え〜っと・・・
ああ、そうだ。
今回のゲストキャラは「くろさわ」さんの「キーシン・ラート・ツェルネンコフ」です。
今回の彼、時間的に本編とリンクさせようと思ったため時間軸が本編と一致してます。
どういう風に関わらせるかは本編の方をお楽しみに。
でも本編にヒントがでてますのでそれを楽しみながらってのも良いかもしれませんね(^^)
本編も読んでいただければ幸いです。
では
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