カーテンコールは華やかに(後編)




「お兄ちゃん、無駄弾を撃つとすぐ報酬をオーバーしちゃうんだから気を付けてね!」
「分かってるさ、安心しろって」
輸送機から射出される前、兄は妹に笑いかけた。


「そこの2機!獲物の取り合いで喧嘩するなよ!」
「あんたもね!」
ジェネアとエリスが遣り取りを交わす。
その間に三機は輸送機に向かって落下していった。



彼等を輸送してきた輸送機のさらに上空の輸送機。

「レイヴン、敵の部隊だ!迎撃に向かってくれ!」
「了解」
そう言うと彼女達はACを発進させた。



「お兄ちゃん!真上からランカーレイヴンよ!」
「な・・・マジかよ・・・」
「誰だか分かる?」
エリスが通信に割り込んでくる。
「・・・『イリュージョン・アイズ』みたい・・・」
『うっわー・・・』
三人の声が見事にハモった。



現在地球で彼女と彼女のACのことを知らない物は少ない。
レイヴンでは皆無と言ってもいいだろう。
先月行われた地球・火星の交流試合で、何と彼女は火星の上位ランカー『アンタレス』相手にほぼ無傷の勝利を収めたのである。
それだけでなく、最近ではグレグ要塞を彼女と寮機3機とで壊滅させるなど困難な仕事を成功させたという話もあり、
各企業で彼女へ依頼を取り合っていると言う噂まである。
当然の如く、地球のアリーナではトップクラスである。



「フレッド、ミリート!用意は良い?」
「勿論OKですよ」
「こっちもで〜す」
「良い?私達の任務は先頭の1機の指定区域までの安全よ!決して深追いはしないようにね」
先頭の1機、それがジオ社の本命の輸送品、『試作ACパーツ』である。
「は〜い!」
「了解」
「じゃあ出撃!」



「まさか・・・イリュージョン・アイズとはね」
思ったより彼ジェネアは落ち着いていた。
「まず・・・降りてくる前に幾つかやらせてもらおうか!」
グレネードを構え、足場にしている輸送機に一番近い輸送機に狙いを定める。
「ここだ!」
着弾したグレネード弾は尾翼のエンジンに突き刺さり、誘爆を起こし、あっという間に『落下する鉄屑』に変わる。
「まず1つ、だな」
警報が鳴る。
「ロックオンされた?」
上を見上げると、ちょうど真上にミサイルを彼に向けたACが居た。


「6、7、8・・・全弾ロック完了」
瞬間、16発のミサイルが発射される。
イリュージョン・アイズ寮機、『フレッド』の『インフェルノ・イヴ』である。

「追加ミサイルまで付いてるのか?」
言う間に構えを解除しながらデコイを射出し、バックブーストで射線から逃れると、近くの輸送機に飛び移る。

その5秒後、その輸送機はミサイルの爆炎で2つに折れた。




「向こうに行ったのは『インフェルノ・イヴ』のみ・・・と言うことはこっちには二機来るのね」
エリスは独白した。
「・・・『ファントムキッド』と、『クリスタリア』ですね・・・」
スティールハート、茜は平常心だった。
「エリスさん、落ち着いて下さい、あの人達だって護衛対象の輸送機に攻撃してくるなんて事はないはずです」
「そ、そうよね、こういう戦いならまだ勝機はあるわね・・・」

「相手も結構冷静ね・・・」
下から飛んでくるミサイルやロケットを回避しながらセリス、イリュージョン・アイズは呟いた。
「でも・・・足場にしているのは護衛対象じゃないのよ!」
狙いを定めてロケットを発射した。

「嘘っ!」
ロケットが発射された瞬間、2人は驚愕した。
それでも2人ともどうにか回避する。
ロケットが輸送機に突き刺さり、幾つかの箇所が黒煙を上げた。

「ちっ・・・失敗ね・・・」
「じゃあ次は・・・私が行きます!」
回避だけに専念していたミリートの『クリスタリア』が火を噴いた。
2つの機体にそれぞれ12発、計24発のミサイルが飛んでいった。

「茜ちゃん!この輸送機から別の輸送機に飛んでいくわ!付いてきて!」
エリスがすぐに足下の輸送機の影に隠れ、そこから直下の輸送機に飛び降りる。
「ちゃん付けは止めてっていったでしょう!」
それでもすぐに同じように直下の輸送機に飛び移る。

その輸送機はミサイルの直撃で3つに折れて吹き飛んだ。



「くっそ・・・無茶してくれるな」
別の輸送機に飛び移り、撃ってきた相手を探す。
それは同じ輸送機に降りてきた。
「まさか護衛の対象ごと吹き飛ばそうとするとは無茶してくれるな」
「フン、俺もまさかデコイ使って輸送機を破壊する奴なんてのは初めてみたよ」
「攻撃を受け流すってのは、拳法もAC戦でも大事なことさ・・・」
「言うねえ、お前も」
「でもいいのかい?護衛対象を破壊しちまってさ」
「構わないさ、それにこれの殆どがダミーだ、護衛対象なんかじゃないのさ」
「何っ・・・」
「先行する4機の輸送機、そのどれかが正解だよ、3機とも後方の8機のところに降りてくれて助かってるってのが本音だ」
「・・・別にいいんだよ、俺の依頼は、輸送機一機に付き10000COAM・・・本物偽物の話はなかったんだからな」
「ああ、そうかよ!」
瞬間、フルロックされていたミサイルがジェネアに向かって放たれた。
着弾したと思われた瞬間、バックブースターで回避する。
「全弾回避?」
驚愕した瞬間。
「はっ!」
ブレードが飛んできた。
それをACを捻るように何とか回避する。
「・・・ひゅぅ、やるじゃないか」
「抜かせ!」
輸送機の甲板の上で、『アストレーア』と『インフェルノ・イヴ』は戦闘を始めた。



「くっ・・・無事ですか?」
「それはこっちのセリフよ・・・でもさっきの爆発のショックで右間接部の反応が落ちてるみたい・・・」
運が悪い、エリスはそう思った。

そう言えば運が悪くなったのはいつだろう?
ふと思い起こす、不幸になったのは・・・

「上!」
茜の声で思考が戻る。
上も見ないで上を見ている彼女の方へ動く。
次の瞬間、破片が先程まで居た場所に突き刺さる。
「あ、危なかっ・・・」
次の瞬間、ACの背中にロケット弾が突き刺さった。
「うっ!」
衝撃が彼女のコックピットを揺さぶる。
「エリスさん!」
その衝撃は彼女のACを輸送機から叩き落とした。


呆然とした茜の前にACが二機降りてくる。
「彼女なら大丈夫よ、AC備え付けの非常用パラシュートは外して攻撃したし、一撃だけなら十分耐えられるはずよ」
「・・・そう、ですか」
「それで、提案だけど・・・あなたもここから立ち去ってくれない?」
「そうすれば追撃はしないわ」
「助ける・・・と言うことですか?」
「別に、私は護衛しろと言われただけで、相手を殺すように、と言うことは引き受けた覚えがないもの、無駄に人を殺したくもないし・・・
 それと、この下には非常用にジオ社が大型の救命艇を配備してくれているはずだから、ね?」
「そうですか、分かりました・・・」
茜も輸送機から飛び降りた。
「こちらは、仕事を完了したみたいね」
「じゃあ次はフレッドさんのところに行きます?」
「ちらっと見たけど、いい勝負してるみたいだし、今私達が手を出したら、フレッド怒るわよ?」
「でも・・・」
その言葉を放った時、足場にしていた輸送機に衝撃が走った。



「どうした?俺には一発も当たってないぞ?」
フレッドは余裕の表情で言った。
「・・・まだ、まだだ!」
「ならばやってみるがいい!」
スナイパーライフルの弾を回避しながらフレッドは叫んだ。
「ふっ・・・またはずれだぞ!甘いな!」
ジェネアは、その瞬間、笑った。
「甘いのはお前さ・・・」
「何だと?」
「さっき、この輸送機の周りには他の輸送機はいくつあった?」
「まさか!」
周りにあった2つの輸送機は全て撃墜されていた。
「くっ・・・やるじゃないか、ボーイ」
「ボーイじゃねえ!俺はジェネアだ!」
ACの足関節に蹴りを叩き込み、転ばせる。
「食らえ!」
グレネードを構える。
同時に、輸送機に鈍い衝撃が走った。



「な、何?」
「落ち着いて、下からの砲撃よ、今すぐ上に飛べば大丈夫」
「でもフレッドが」
「大丈夫、彼は運のいい男よ、きっとあのラッキーボーイにも負けない、ね」
「そうですね、あの2人の運の良さはグレグで証明されてましたし」
「そう言うこと、急ぐわよ、そろそろこの無人輸送機は限界だわ」



「これで・・・1つ!」
輸送機の遙か下方からロケット弾が飛んでいた。
「次は・・・25センチ右・・・15センチ上!」
先程までの輸送機の位置と速度を記憶し、自分との相対距離、速度差を計算して、彼女、エリスは攻撃していた。
放たれたロケット弾は目標となった輸送機の左翼に突き刺さり、バランスを崩し、爆発した。
「後幾つか分かる?」
「ジェネアさんが幾つ落としたか分からないですけど・・・1機も墜としていないとするとあと8つです」
「つまり報酬は4万・・・弾薬や修理費を考えても2万はあるわね、それに、もう私は弾切れだし」
「そう言えばさっきイリュージョンさんが言ってました、下には救命艇が配置されてるはずだから、って」
「それはありがたいわ・・・パラシュートを開いて・・・」
茜のAC用パラシュートが開く、しかし一向にエリスのAC用パラシュートは開かない。
「エリスさん?」
「・・・さっきのロケットの破片がパラシュートに刺さったみたい・・・開かないわ」
「えっ?」
「つまり・・・このまま海面落下するって事」
「それってつまり・・・」
「このままだと・・・死ぬわね」
「そ、そんな・・・」
「でもね・・・」
エリスは大きく息を吸った。
「死にたくないわよ!あの男に会って私の運を返してもらうまで!」
背中を下にして、オーバードブーストを噴射する。

「待ってなさい!ウェイン・ワン!」

「ジェネレーター・・・耐えてよ・・・」
ジェネレーターのリミッターをカットした。
オーバードブーストの効果で、落下速度は段々と減りつつあった。



先程の衝撃でACが輸送機から落下した
「くっ、何だ今のは?」
「どうやらこの勝負、お預けのようだな!次に戦えるのを楽しみにしてるぞ!」
「へっ・・・こっちこそな!」
ジェネアとフレッドは、互いにAC用パラシュートを開いて、笑い合った。



オルコット海、ジオ社救命艇
「おい、どうやら仕事のようだぞ」
「レーダーに反応があったのか?」
「ACだ!海面に落下したところを救助するぞ!総員救助配置に付け!」
艦長が命令した。
「了解!」


「ジェネレーターダウン・・・アウトかな?」
「エリスさん!」
再び海面に向かって行くエリスを、茜は何も出来ずに見守っていた。





「お兄ちゃん!どこー!」
通信機に向かってアイシャが叫んでいた。
輸送機のレーダーで捉えられなくなって既に10分ほど経っている。
別に心臓のように見つからなくなったから死んだと言うものではないが、
妹はただ兄のことが心配なのだ。
「ねえ、どこ飛んでるの?」
何度も輸送機のパイロットに聞いている。
「ロストした地点から1キロの地点です」
「何か、もっとこう、パッと見つけられる手段はないの?」
「ありません、もうそろそろ輸送機の燃料が帰投可能ギリギリです、もうそろそろ」
「だめっ!それだけはだめっ!」
パイロットも、見つけようとしているレイヴンが彼女の兄であることを知っている。
しかし、もうそろそろ限界だった。

「ずいぶん冷たいねえ、輸送機のパイロットさん」
通信が、入った。
「輸送機を目視で確認したんだが・・・レーダーに映ってないのか?」
「あ・・・レーダーが最小範囲になってる」
1つ上の探査レベルにするともうアストレーアがレーダーに映った。
「待ってて、すぐに回収するから!」

「オッケー・・・ありがとな、アイシャ」
出来るだけ優しい声で、ジェネアは言った。
「うん、お兄ちゃんのためだもん!」
アイシャは、嬉しさのあまり、満面の笑顔で泣いていた。





2日後、ジオ社救命艇
「いたた・・・」
エリスは全身を走る痛みに目を覚ます。
「お、起きたな」
「誰?それにここはどこ?」
「俺は救命艇の医療チームのひとりだ、それとここはジオ社の救命艇、悪運が強いね、アレだけの怪我で生きてるんだから」
「どうなったの?」
「いや〜、アレは凄かった・・・」

そう言って始まった話はまさに壮絶だった。


まず海面に全身落下して、頭部と脚部が完全にもげた。
吹き飛ばされた頭部は救命艇の近くに落下したという。
次に救助しようとしたところに『無人輸送機』の破片の大きいのが落下し、コアに突き刺さったという。
それはコックピットへの直撃だったらしい。

「あんた運がいいよ、直撃してもあんたには破片1つ刺さってないんだから」
そう船員は話してくれた。
「それにあなたの姪っ子さんか?茜って言うのかい?あの子もいい子だよ」
「どうしたの?」
「あんたの治療費肩代わりしたんだぜ?それに、今も多分外で待ってるはずだ・・・行ってみるかい?」
「あ、あの子は私の姪っ子じゃないわよ、もう26歳の立派な大人よ」
船員の動きがぴくりと止まった。



「あ、生きてましたね?」
「第一声がそれ?思ったよりも嫌みね」
「ふふっ・・・これで文句はないですよね?」
「何がよ?」
「馬鹿にした、とか恨み辛みその他諸々のこと」
「あ・・・」
ちなみにエリスの方はその事はすっかり抜け落ちていた。
「ええ・・・もういいわよ」
「何ですか?今の間は?」
「うっ」
「まぁ何にせよ元気そうで何よりです、それじゃ私は帰りますね」
「ええ・・・それじゃまた」
「また?」
「ええ、また次の仕事もね」
そう言ってエリスは満面の笑顔で笑い。
茜はその場で笑顔のまま凍り付いた。


‐了‐


後書き

はい、どうにか終了しました番外編第9弾後編。

いや〜、実のところ期待してたんですよ。
高々度強襲でランカーACがでてくるの。

でも出てこなかったのでやってしまおうということでこのSSの戦闘部分ができました。
ちなみにこの後AC2AAの世界上では「高々度強襲」のミッションがある、と言うことになってます。

で、投稿キャラの方ですが前編と同じく、
「神牙」さんの「ジェネア・ネルスリーブ」と「アイシャ・ネルスリーブ」の2人。
「くろさわ」さんの「エリス・ジュオ」と、名前だけですが「ウェイン・ワン」です。


あと余計な設定かもしれませんがグレグ要塞は壊滅させられました。
よくSSに出てくる「イリュージョンアイズ」と「ウェイン・ワン」
それと初登場である2人の友人であり仲間である「フレッド」と「ミリート」の四人によって。



ちなみに自分はオルコット海よりも先にグレグ要塞のところをやってしまったので、
オルコット海が先だと話が矛盾してしまいますがそれは気にしないでください(^^)



そういえば知らない人のために言っておくと、
「カーテンコール」は「高々度強襲」時の作戦名です。



で戦闘シーンは書いててかなり楽しかったです。
やっぱりこういうシチュエーションがオイラは好きです。


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