魔術師の宴
「君、元帥にならないか?」
突然だった。
そしてわけが分からなかった。
「は?」
目の前の彼の説明によるとこうである。
彼がチームを作るからそのチームに入らないか、と。
長くも複雑でもないこの話を理解するのに5分もかかった俺を責めないでくれ。
最初の4分以上が「元帥にならないか」だけだったんだから。
「で、あんたは誰?」
見覚えのない顔だった上に最初の一声がアレである。
身分を確認して置くに越したことはない。
さらに言うなら自分はこの都市のランカーを目前なんだ、ランクの低い奴ならさっさと辞退して・・・
「あ、そうだった、私はこういう者です」
レイヴン証明書を取り出す。
そこにはこう書かれていた。
『アヴァロンアリーナ所属(現在1位)、フェル・レイド』
「マジで?」
「もちろんですよ」
アヴァロンシティー、そこは近年アリーナを大規模に開催して、ランクも高く、相当な腕前の持ち主でひしめき合う事で有名だ。
そこで一位になるというのはすなわち少なくともこの大陸で現在最強を表すというのがもっぱらの評判なのだが・・・
「あ、勘繰られる前に言っておきますが身分証明書も本物ですよ、アリーナに連絡してみます?」
敗北。
思考まで読み取られた。
こういうタイプは腕ではなく先読みの技術が凄く、攻撃を当てられないんだ。
そして大概長期戦重視だ、俺の重量2足と反対のタイプだから攻略方法は・・・
「シミュレーター使ってみます?」
また先読みかい。
目の前に現れた機体は異様だった。
まずアセンブリ。
腕武器レーザーにロケットを・・・中量逆間接に詰め込めるだけ詰め込み、他のは適当って感じだな。
いや、それだけなら世界を探せばいるかもしれない。
でも、でもだ。
全身が派手だ、極限まで。
両腕が金、コアが黒、両足が白、頭部は青と赤に塗装されている。
正直、近寄りたくない。
「まずは距離を取って射撃戦を・・・」
させてもらえなかった。
近距離から計4発のレーザーに直撃される。
一瞬で残AP約4000。
「くっ・・・」
近距離だったのでブレードを振る。
あっさり回避され、今度はロケットを直撃される。
結局、30秒ほどで撃墜されてしまった。
正直、これだけの技術差があるといっそ清々しいほどだ。
「で、チームに入っていただけませんか?」
「あんたなぁ・・・これだけの技術差があってまだ入れようとするんだよ?もっと強い連中がいるだろうが」
「例えば?」
「アンプルールとかペイルホースとかナインボールとかだよ」
もっとも、ナインボールは今年のネスト崩壊の時に行方不明だが。
「だめですね、見たところ彼等の技術は完成されています、つまり、成長が期待できないんですね、
でも貴方は成長の余地があります、多分彼等よりも貴方の方が成長すると見ているんですがね」
「・・・ほう、そうなのか?」
「ええ、で、チームに入ってくれませんか?」
「・・・まあ、そう言うことなら・・・いいか」
「それなら、明日、ACに乗ってこのガレージに来てください」
そう言って彼は一枚の紙を手渡す。
それで、行ってみるとそこには4人の人物がいた。
1人は言うまでもないフェル・レイド氏。
調べてみて分かったが彼は殆ど一撃ももらわずに敵を倒す、そのマジックショーのような光景から『虹色の奇術師』の異名を持つらしい。
他に3人、
黒い軽量機体の『レイ・バーティア』、年齢は10代前半というところか。
蒼い軽量機体の『ジェニス・ラウエル』、年齢は・・・恐らく俺と同じ20代後半だろう。
白い中量機体の『フリッツ・ルーデル』、年齢は多分50代、レイヴンとしては年齢ギリギリだろう
そこに俺こと赤い重量機体の『グレッグ・マイヤー』を加えて5人のチームということらしい。
で、フェル・レード氏の読みはものの見事に命中し、5人はすぐに有名となった。
ただ、最初に言っていた元帥、と呼ばれる事には2年間経っても慣れることがなかった。
ちなみにフェル氏本人は『最高司令官』を名乗っている。
・・・天才は何処かに稚気が残る、という話はどうやら本当らしい。
「大きな仕事を見つけてきたぞ」
フェル氏は言った。
艦隊破壊
依頼主:八都市連合
報酬:150000c
旧大戦での地上戦艦部隊が確認された。
艦隊は恐らく無人の艦隊だろう、こちらの降伏宣言後も攻撃を開始し、我が都市連合に多大な損害を与えている。
ついては攻撃作戦に参加して貰いたい。
目標は無人艦全艦、攻撃機やMTは無視してくれていい。
そのMTや攻撃機はこちらの陸上艦やMTが引き受けよう、君達はあくまで無人艦をねらってくれ。
では戦果を期待する。
と、まあそんな物だった。
「さて、では作戦を開始します、まず我々の陸上艦が砲撃を加えて目くらましをするのでその後突入してください」
「了解了解、では各々方、参りましょうか」
誰のマネだ、誰の。
「レイヴン各機、作戦領域に到達しました、ACを一斉投下した後、離脱します」
「はいはい、ご苦労様、帰りはあんたのトコロの部隊と帰るさ」
最高司令官閣下が返信する。
・・・今更ながら思うのだが・・・最高司令官や元帥って前線に立たないんじゃないかなぁ・・・
そう思うとちょっと笑ってしまった。
高々度から落下してゆく5機のAC、雲を抜けると、そこでは既に戦いが始まっていたようだった。
と、言っても両者距離があるのか互いに攻撃は本格的ではない。
いつもは作戦領域に降下しながら大まかな指示を出す司令官は黙ったままだ。
「どうしました?レイドさん?」
「・・・」
それでも一言も話さない。
「おい、レイド、俺達指示とか無くて好き勝手にやっていいのか?」
「・・・指示は1つだけ」
ようやくと言った感じで声を絞り出す。
「総員、着地と同時に敵艦隊に突入、反転せずにそのまま脱出」
「なっ・・・」
皆、等しく驚く。
バーティアだけ声は出さなかったが当然慌てているのだろう。
「何故だ?」
「着地場所から判断しろ!作戦開始!」
着地する。
場所は両艦隊のちょうど中心部。
・・・そう言うことかよ!
「罠だっ!」
誰かの声が響く、それは自分だったのかもしれない。
ACの状態をチェックする前から5機とも全速で回避する。
先程まで立っていた場所を砲弾が吹き飛ばす。
あれを食らったらACだろうが一瞬で吹き飛ぶだろう。
その直後に各艦からMTや航空機が飛んでくる。
「分かってるか?多い方が目標の船だぞ?速攻で潰して離脱だ!」
「そんなこと言っても・・・あの物量だぞ?」
「・・・じゃあ決まりだ、味方だった方は俺が引き受けるから、お前らは敵艦隊を破壊して離脱しろ!」
「しかし・・・」
俺が反論しかける、その瞬間ACの腕を捕まれる。
黒い機体、バーティアの『ブラック・ドミニオン』だ。
「了解」
捕まれていた腕が解放される、その瞬間接近していた航空機を火器を持たないバーティアがブレードで切り裂く。
完全に爆発しきれない航空機はそのまま慣性で動き続け、近くにいた五体満足なMTに激突し、互いに爆発した。
その行動で目が覚めた。
司令官、いや、レイドは死ぬつもりだ。
それを分かっていたから俺は反論した。
しかしそのままでは全員が死ぬ。
だったら1人の方がいいと言うことだろうか?
だったら、その意志を無駄にしないために・・・
「生き残ってやるぜぇ!」
そう言うと俺はバズーカを艦橋に向かって撃った。
「生きろよ・・・元帥達・・・私が見込んだ者達よ・・・いや、1人だけ違うな・・・彼奴だけは死なないな」
そう言って、少しだけの間、レイドはある機体を見ていた。
「さあ!きなよ!奇術師の大脱出ショーの始まりだ!」
彼の腕武器は特別だ。
改造が施されている。
彼の腕武器は・・・ブレードになるのだ。
それも・・・後に制式化されるとなる腕武器よりも高性能な・・・
伸縮自在という特殊機能まで付いた。
2日後の深夜、ガレージ
満身創痍で、歩くことさえ不思議なACが入ってきた。
「奇跡の大脱出ショー・・・如何だったでしょうか?・・・ってね・・・」
あの後、彼は部隊を全滅させた。
そして彼のガレージに戻ってきたのだ。
他の4人の固定箇所には4機のACが取り付けられている。
「あの連中も生き残ったか・・・やっぱり俺の予想通り、本物だったな」
そう言いながら彼の固定場所にACを固定しようとする。
「ん・・・?」
一瞬だけ、足下に何かが光った気がした。
それが何かを確認しようと、下を向く。
「あれは・・・」
翌朝、ガレージ
いつもと同じ点検整備のはずだった。
「お、おい!みんな!来てくれ!」
一番最初に入ったジェニスが大声で叫んだ
「どうした?」
目の前にあるのは、ボロボロになって倒れたAC、奇術師、我らの最高司令官の物だ。
「こいつは・・・直下からコアに何か・・・パンツァーファウスト(対戦車ロケット)を食らったみたいだな・・・」
「フリッツ!そんな分析してる場合か!早くコアを開けてやらなきゃ・・・」
最初に俺がコアに飛び移り、ACと同じくボロボロになったハッチを開ける。
「あ!おい!待て!」
その言葉が届く前にハッチは開いた。
「うっ・・・」
そこにあるのは、やはり死体だった。
衝撃でどこか骨が折れたのだろうか?
全身が奇妙にねじ曲がっているようだった。
しかしそれは、紛れもない・・・彼だった。
地球歴156年、レイヴンズ・ネスト崩壊の年。
その年の年末。
数年前から活躍していた彼等は・・・
‐了‐
後書き
はい、終了です。
このお話、思い切り本編と絡まります(50話目くらいで)。
ですから妙に中途半端です。
ガンダムで言うF91です。
ああ、そうそうちなみに登場キャラの中にやたら無口なのがいるでしょう?
それが「ラストマシン」さんの投稿キャラ「レイ・バーティア」です。
中途半端な部分は本編で補うので忘れないで読んでね〜(宣伝)
ではっ!
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