噂のラッキーボーイ
「おはようございま〜す!」
レイヴンとなった次の日の朝、突然少女が家に現れた。
「ウェイン・ワンさんですね〜?」
「そう、だけど・・・」
目の前の少女は精々10歳か、もしかしたらもっと若いかもしれない。
でも何でそんなガキが俺の家に?
「私、メルティ!これから姉共々ご厄介になるのでお願いしま〜す!」
「え〜っと・・・」
俺は子供の頃、将来責任をとらされるような女性問題を引き起こしただろうか?
「で、家に置いてくれと?」
「そういうことです」
さっきの少女の姉、リディアの話を聞いてやっと分かった。
19歳の彼女はコンコード社の社員らしい。
で、以前までは社宅で暮らしていたらしいのだが上司から。
「社宅がもうボロボロになったので暫くは今度担当するレイヴンの家に住むように」
とのお達しを受けたらしい。
「あ、当然のことですが食費とかは出しますのでご心配なく、お掃除とかも私がやりますので」
「う〜ん・・・ま、良いか」
家事が楽になるならそれに越したことはないし。
「ありがとうございます」
「ありがとね!おじちゃん!」
「はっはっは・・・お兄ちゃんとでも呼んでくれるといいんだけどなぁ・・・」
危うく家の中で発砲するところだったぞ。
5ヶ月後
「は?スウェイン河にいけって?」
朝、トーストを囓っていた俺にリディアが話しかけてきた
「そうです、バレーナからの依頼で、今度運び出す物資の護衛をして欲しいそうです」
「でもスウェイン河って北の方だろ?寒いしなぁ・・・」
「報酬は75000」
「よっしゃ、引き受けた」
あまりの変わり身の早さに我ながらびっくりだ。
「って・・・滅茶苦茶寒いぞ・・・」
コア後付けのヒーターを全開にする、当然の如くラジエターは停止させてある。
残念ながらこのエムロード社製のコアにはエアコンという文明の利器はついていない。
まあ元々つけてあるコア自体が少ないのだが。
「我慢してください、あ、もうすぐ指定されたバレーナの基地ですよ」
「まぁ・・・リディアがついてくるのは分かる、でも何でお前がいるんだ?メルティ」
「だってさ〜家は退屈だし・・・それに輸送機の免許持ってるの私だけだし」
そう、この輸送機は10歳くらいのガキが操縦しているのだ、驚くことに。
コンコード社の特例もあるがこのガキの才能は凄いらしい。
今の段階で既に支援リグ、乗用車、輸送用船舶、それにこの輸送機の免許を持っているらしい。
ついでに言うとMTやACの操縦も多少出来るというのだから恐れ入る。
「でも、そういうこと言ってると・・・落としちゃうぞ、寒い海に」
満面の笑みを浮かべて怖いことを言うメルティ。
でも実際出発してすぐに口喧嘩になって・・・落とされたのだ、輸送機から。
まさかACを暖気起動させる前、乗り込んですぐにハッチを開放するとは思わなかったぞ。
偶然だとガキは言うが間違いなくわざとだと思うぞ。
どうにかブースター噴かして落下は免れたが下手すれば俺の「ハードラック」が大破しているところだ。
ブツブツと愚痴っていると、吹雪の向こうに基地が見えてきた。
「よう、インテリガールズとラッキーボーイじゃないか」
一応地方では俺達は有名人である。
それも当然だろう。
メルティは若干10歳で色んな免許持ってるし、
リディアはコンコード社きっての有能なマネージャーである。
ちなみに俺はというと・・・
驚く無かれ、初陣でランカーAC『ソウルアーミー』の足止めをしたのである。
とある物資の輸送中にあいつが現れたんだが、物の見事に足場のビルが崩れて埋まって動けない。
そこを頭の上に乗っかっておいたらどうなるか?
攻撃する相手のいない輸送車両は無事作戦領域を通過しましたとさ。
当然その後は全力で逃げたさ、勝てるとは思わないし。
で、ついたあだ名がラッキーボーイということである。
それをただのビギナーズラックだと言い張る連中に俺は言ってやるのさ。
「成功は12.6%の勢いと、87.4%の幸運で手に入る」
ってね。
もちろん数字に意味なんか無いさ。
どれだけ俺がツイてるのかを教えてやるためのはったりでもある。
「あらら、皆有名人で貴方の知り合いばっかりじゃないですか」
「・・・う〜む・・・これはこれは・・・」
正直そのメンツに驚きを隠せないでいる。
例えば目の前の女性、なんと地球のアリーナのトップを目前に控える『イリュージョン・アイズ』
先月、アリーナで戦ったことがある(ランダムカードって言うルールでな)
何というか、ブレード戦挑もうとしてオーバードブーストで接近したら振り遅れで体当たりして・・・
なんとエリアオーバーにして勝利してしまったのだ。
当然の如くその後こっぴどくやられたけど(3回勝利で勝ちって言うルールだったし)
最初に話しかけてきた男。
伝統ある4脚ACチーム『モールニア』の現団長である『トーラ』
俺よりも五年早くレイヴンになった男で以前はいわゆる『ご近所さん』だった男である。
他に5人ほどいるのだが長くなるので割愛することにする。
で、そんなこんなでブリーフィングは始まった。
概要を説明するとこんな感じである。
偶然エムロード社がここ、スウェイン河の下に大破壊以前の遺跡を見つけた。
それをどこからか聞きつけたジオマトリクス社とインディーズがエムロードの部隊と共にバトルロワイヤル。
で、その間に特殊車両を使ってバレーナが遺跡に侵入。
重要技術を持ちだし、同時に幾つかの物資を奪った。
東洋のことわざで言う『漁夫の利』という奴だ。
とまぁこういうことらしい、エムロードは戦力の大半を失い、撤退したらしいがそれはこっちの知ったことではない。
問題は1つ。
その物資の輸送ルートが・・・思い切りインディーズとジオマトリクスが争っている場所を横切るというのだ。
どう考えても正気の沙汰とは思えない。
「それについては考えがあるので問題はありません」
だったらあの異様に高額な報酬は何だと頭の中で思いつつ次の言葉を待つ。
「特殊空挺輸送機を使って輸送します」
その後詳しい説明があったのだがわけが分からないのでその辺は説明しない。
つまりその特殊な輸送機は空中を飛び、なおかつオーバードブースト並の速度を出す。
でも試作器故に攻撃を受けて何処か異常をきたすかもしれないから近づく敵を追い払えとまぁこういうことらしい。
もちろん常にオーバードブーストを噴かしているわけにもいかないから輸送機の甲板に乗ってだ。
「それとついでですので試作兵器の運用テストもしてください」
と、言って手渡された2丁の大型エネルギーライフル。
この輸送艇のジェネレーターに直結し(当然機動性を落とさない程度に)、そのエネルギーを使う物らしい。
威力の方は問題なさそうだが問題は『1発撃つと5分で砲身が爆発する(ただしその間の使用は可能)』ことと、
『何もしなくても暴発する』事らしい。
・・・とんでも無い欠陥兵器のようだが、それは前の型で、それを改造したのがこれらしい。
ちなみに当然実戦データーはない。
・・・すっごく不安だぞ。
「まもなく戦闘領域です、用意してください」
「はいはい、分かってますよ」
一方的なバレーナのオペレーターに、一応返答する。
重量の関係上、両肩につけているロケットと手渡されたライフルでそれ以上の武装は不可能だったのでマシンガンとブレードは外してある。
そして両手でライフルを構え、もう一丁は足下に転がしてある(とはいってもちゃんとジェネレーターに繋いであるので落下する心配はない)
作戦開始から1分。
まだまだ両腕に構えたライフルは撃っていない。
肩のロケット砲で幾つかの航空機を撃ち落としただけである。
ちなみに強気で素敵な味方の方々はライフルではなくACをジェネレーターに直結してオーバードブーストで高機動戦を楽しんでいる。
・・・いいのかそれ?
と、言うより・・・両軍から敵扱いされてるんじゃないのか?この輸送機。
作戦開始より3分経過
「ウェイン・・・いえ、ラッキーラック、貴方の担当領域に敵を確認したわ・・・ランカーACよ」
リディアからの通信だ、普段一緒に暮らしてるからついウェインと・・・って、ランカーAC?
「・・・マジか、それ?」
「機体は・・・レイヴン『OVER SPEED』、AC『SPEED STAR』です、彼ならこの高速度についてきます」
「おいおい、よりにもよってあのスピード狂かよ・・・」
あいつの機体は以前アリーナで見たことがある、その時にこのコアは特製だから1000km/hは出るとか言ってたな・・・
「ええい、やったる!」
そう言って腕のライフルを構えた。
「ふっふっふ・・・それぞれの担当領域に夢中で他の連中は援護に来ねえだろ・・・
あの輸送機を潰せば・・・もっと気持ちのイイスピードが出せるブースターが買えるぜぇ・・・」
笑いながら、ACは輸送機に近づいていった。
そして、甲板の上のACが構えるのが見えた。
「ふっ!先に撃つつもりか、当たるものかよ!」
「外した?」
直線距離にして約1km、遠距離型のFCSにとってはまさに絶好の位置である。
普段はマシンガンとロケットのハードラックで遠距離型も何もないと思うが。
「くそっ!もう一度・・・ってマジか?」
もう一度構えなおしたとき、既に『SPEED STAR』は距離約300mまで接近していた。
構えたまま乱射する。
しかし、一発たりとも当たらない。
「おっとと、危ないねえ、そろそろ直線回避じゃ辛いか・・・まあいい、あと10秒で接近できる」
そう言って彼はこの機体唯一の武装、ブレードにエネルギーを込め始めた。
「ちっくしょ・・・このままじゃやられちまう・・・リディア、弱点か何か無いのか?」
「接近戦しかできないということしか・・・危ない!目の前」
一瞬だけ通信機を見ていたため、正面への注意がそがれていた、その一瞬はレイヴンにとっては生と死をわけるに十分な時間だった。
「これで終わりだ!」
刹那
一条のエネルギー弾が『SPEED STAR』を貫いていた。
「なにっ・・・」
互いが互いに驚く。
貫いた光弾の方向には、足下に転がして置いたもう一丁のライフル。
・・・どうやら暴発したらしい。
「今だ!」
ここぞとばかりに至近距離でロケット弾を乱射する。
光弾が貫いた箇所にロケット弾が当たる。
そこはオーバードブーストの噴出口だった。
爆発。
「ぐわああああああああぁぁぁぁ!」
自慢のコアが半ば壊れた段階でも、『SPEED STAR』は生きていた。
「なるほど・・・ラッキーボーイか、お似合いの名前じゃないか・・・次は・・・次こそは覚えていろ」
そう言うと、『SPEED STAR』は反転して去っていく。
「逃がすか!」
逃げてゆく後ろ姿にロケット弾を撃つ。
3発のうち、1発が命中するも、逃げられてしまった。
「ウェイン、お疲れさま、他のみんなは帰還したわ、全員無事で、どうにか激戦区は切り抜けられたみたいよ」
「・・・そうか・・・そりゃあ良かった」
疲労感があった。
「じゃ・・・俺は寝るんであとよろしく・・・」
「ちょっと、ウェイン?ウェイン」
通信機から聞こえてくるのは、気持ちの良さそうな寝息。
「ホント・・・しょうがないわね」
リディアは呆れると共に、安心していた。
半ば恋人のような『共にいる人』が無事だったことに。
そして半年後。
地下遺跡の技術ではなく、特殊輸送艇の高速移動技術を使ってバレーナ社は一機の巨大なMTを作り上げるのだが・・・
それはまた、別のお話。
‐了‐
後書き
はい、番外編第5弾。
『噂のラッキーボーイ』いかがだったでしょうか?
今回は、『くろさわ』さんの『ハードラック』を使用させていただきました。
今回は戦闘パートよりも友人達との掛け合いを重視してみましたが・・・
あ〜、なんかリディアとメルティはホントに姉妹か?とか思ってはいけません。
こういう事って現実であり得るのかな?(普通無いからラッキーなんですけどね)
ラッキーボーイに仕上げるのにちょっと苦労しましたが、楽しく書けました。
では次回作もご期待下さい。
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