命と命の選択肢



地球歴106年

地上は、人の住めるところではなくなりつつあった。
長期にわたる戦争。
数億の兵士が戦場で散り、それ以上の民間人がそれに巻き込まれ、死んでいった。


地下シェルター都市、ベルナート
ここも戦場が近くなり、民間人の待避が通告される。

しかし、一部の民間人はそこから脱出し、後方へ避難することが出来ずにいた。


そこで、ベルナートに対し、一隻の空中戦艦が派遣されることとなる。
その戦艦は『エクスカリバー』と呼ばれる、当時最新鋭の戦艦だった。


艦長オリビエ・グレンシア中佐は士官学校を優秀な成績で卒業後、
各地を転戦、卒業より5年後、この間の艦長となったいわゆる若きエリートである。
だがエリートの定型であるいわゆる排他的な考えは持ち合わせておらず、情に厚い人物であった。

副艦長ジョゼフ・ヤコフ少佐は一般兵から士官にまでのし上がったいわゆる現場のたたき上げである。


通常、エリートとたたき上げは感情的対立が多いのだが不思議とこの2人の足並みは揃っていた。



6時、士官室
「作戦について問題がある、この付近の最新の地図が我々に貸与されておらず、地理が不案内だと言うことだ」
グレンシア中佐の最初の発言はこうだった。
この時期、大量のミサイルやロケット弾によって地理は一年、半年ごとに変わってゆく。
今現在彼等の手元にあるのは2年ほど前の地図だった。
「その問題は私にお任せ下さい」
そう言ったヤコフ少佐は地図のコピーに書き足していった。


15分後、士官室
「これでほぼ最新の地図になったはずです」
「・・・よく分かるな」
手渡された地図を見て、グレンシア中佐は言った。
「まぁこの船に来る前まで私はこの方面にいましたし・・・それに私はベルナートの出身ですから」
そう言ってヤコフ少佐は笑った。


7時、ミーティングルーム
「この作戦は敵の殲滅ではない、これを各人覚えて置いてくれ」
そう前置きされた作戦は以下のような物だった。

まず現地戦力と合流する。
その後に戦艦の搭載機(この戦艦はMTが約20機搭載できた)と共にベルナートから約50km離れた地点の陣地を攻撃。
その間にベルナートの民間人をエクスカリバーに搭載(この段階で約2000人程度なら乗せることが可能)させる。
ベルナートの残留民間人は約800なので十分に搭乗可能である。

「その後アイザックシティーまでエクスカリバーは後退し、民間人をおろした後、君達を回収する、何か質問は?」

アイザックシティー
過去の偉人、『アイザック・ニュートン』の名を冠した都市。
都市規模、防衛能力、駐屯軍の実力、どれを取ってみても一国の首都たるにふさわしいといえるだろう。

1人のパイロットが手を挙げる。
「我々が攻撃する陣地ですが、その詳しいデータはありませんか?」
「それについては君達のMTに既にインプット済みであるから各人で確認して置いてくれ、他には?」
「我々は何時間敵の攻撃に耐えればいいのですか?」
「約2時間だ、それだけあれば民間人の回収が完了する、あとは各自の判断で脱出してくれ・・・辛いかもしれないがな・・・他には?」
「戦艦の直援は誰が行うのですか?」
「それについては問題ない、多数のMTの他に最新鋭のCoredMT・・・Armored Coreが配備される・・・その上」

言葉の途中でどよめきが起こった。
現在陸上戦力の中心は戦闘用MTが中心である。
(MT、Muscle Tracerの略称で、元は作業用機械だったが三次元機動が取れると言うことで軍事用に改装された、
初期段階では作業機に武器が付いただけだが現在では戦闘用のMTも多数存在する)
そしてMTを重装化し、なおかつ機動性能を向上させた機体がACである。

当然の事ながらコストパフォーマンスは悪いが、戦力はAC一機でMT数十機に上り、
パイロットによっては一機でMT100機以上の性能を発揮できるという。

後に単独のACで戦場を駆り戦うレイヴンと呼ばれる存在も現れるが・・・それはまた別の物語である。

「まだ話は途中だぞ、この戦艦には最新鋭防衛機構・・・平たく言うと全方位型のバリアが展開可能だ」
どよめきはさらに大きくなる。
「・・・それなら単艦で突入して敵を攻撃した方が早いのでは?」
「それも考えたが、このバリアは試作型だ、恐らく多少の攻撃ではびくともしないだろうが・・・
展開可能時間や本当に防御が可能なのかなど問題が山とある、それで突入は私個人としても躊躇したい」


13時、敵軍陣地近郊
「作戦開始まであと・・・5、4、3、2、1、0!」
合図と同時に、砲撃が開始された。

「敵襲か?各個に迎撃体勢を取れ!参謀、例の部隊は?」
「既に作戦領域に入っています、呼び戻すのは無理かと・・・」
「ちぃ・・・こんな時に限って動きが良いなうちの軍は!」

戦力の少なくなっている陣地の軍は次々と破壊されていった。


同時刻、ベルナートシティー直上
「敵部隊確認・・・反応多数!」
「何・・・どういうことだ?まさか・・・作戦が看破された?」
「そんなはずは・・・恐らく以前からここの攻撃は予定されていたのでは?」
「くそっ!民間人の収容は中止!上空にあがって迎撃する!AC、MT部隊は甲板の上で射撃してくれ!」
「了解!」
「あと民間人は都市内部にて待機してくれるように告知を出せ!」


「こちらダス・ライヒ、攻撃開始」
「こちらトーテンコップ、了解、呼応して攻撃を開始する」


「左舷に被弾!空中機動のためのスラスターがやられました!」
「火災を消化しろ!スラスターの修理も併せて行え!」
「右舷に敵を確認、航空部隊です!」
「第5から第8までの火砲はそっちを狙え!他の火砲は敵地上部隊への攻撃を続けろ!」

「左舷被弾!第3エンジンルームに火災!」
「消化急げ!くそっ!バリアを・・・」

バリア
過去から名前だけは存在していた絶対領域。
バリアに触れた物体はダメージを受ける。
それこそ、守るべき人達さえも。
守るために戦う兵士達も。


バリアを発生させれば戦艦は助かる、でも人は死ぬ。
戦艦と、その下にいる人々を守るべく戦う人々も。
守るべき人々も。



命と命。
どちらかを選ぶ選択肢。
どちらも命、等質量の命。
消える命。
残る命。



「あっ・・・!AC多数被弾、爆発光確認」
これまで、20分以上戦い、40発以上の直撃弾を受け、ACは爆発した。
「甲板上のMT、被害多数・・・残存MT3」

命と命・・・ 選択権は彼にある。
このまま黙って殺されるか。
それとも・・・バリアを展開して下にいる人々を殺すか。

それは、あまりに辛い選択。
彼等は下にいる人々を守るためにここにいるのだから。


「艦長、バリアだ」
声が艦橋に響く。
その声はヤコフ副艦長。
・・・下の都市の出身者だ。


その一言が全てを決した。
「防御フィールド、オン」
その声と共に、蒼い光があたりを包んだ。

艦橋の上にいるMT達が吹き飛ばされてゆく。

そして戦艦に接近攻撃していた戦闘機群も地上から攻撃しているMT部隊も、


そして下にいる人々も、全てが吹き飛ばされた。




全てが消えた。

艦橋にいる者は誰1人として何も語らずにいた。


「スラスター修理完了」
声が聞こえた。

「エクスカリバー、発進」
事務的な声が響く、艦長のものだ。
「これより、我々は突入攻撃を行う、目標は敵軍首都『アルバート・シティー』


アルバート・シティー
過去の偉人『アルバート・アインシュタイン』の名を冠した都市。
アイザックシティーと同様、国の首都でもある。


「機関全速、同時に主砲発射用意を」
誰1人逆らうことはなかった。
責任の重さ、それからただひたすら逃げたいがために、彼等は『死にに行った』のだった。


アルバートシティー壊滅の報。
エクスカリバーの消息消失の報。
その他多くの報告は、歴史の闇の中へと消えていった。


そう、『正義』の名を冠する・・・


『大破壊の引き金』によって・・・





―了―
後書き

番外編第4弾、今回は大破壊をテーマにしてみました。
国という概念、国家間戦闘、国防という指名、民間人という概念はACシリーズの時代にはありませんでしたからね。

それにしても・・・ACが活躍してません。
MTも同様ですね。


アイザックシティーがニュートンの名を冠すというのは自分の想像ですしアルバートシティーも同様です。


バリアは・・・まぁ想像上のことです。
シューティングのバリアって敵を薙ぎ倒せますからね。


では次回作も期待してください。


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