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パリ

パリは私が幼少時代を過ごした場所である。
思い出はつきない。

日本に帰国後10年以上も経って、一度だけ友人とパリを訪ねたことがある。
1992年の冬ことだ。
ルーブル美術館には大きなガラスのピラミッドのようなものが出来ていたり、
「グラン・ダルシュ」という新しい凱旋門が出来ていたりと、パリの街の近代化を感じ
たものだ。
しかしフランス人の偉大なところは、近代化する地域と、変わらない住居地区とを
徹底的に分け、美観というものを全く損ねずに都市の開発をすることである。

私は昔懐かしい住居を訪ねることにした。
パリ16区、地下鉄イエナ駅とアルママルソー駅の間くらいに、子供のとき住んでいた
アパートがある。
メトロの改札を出て、階段を上る。
ちゃんと家を見つけられるのだろうか・・・ドキドキした。

しかし10年以上経っていたにもかかわらず、街並みは全く変わっていなかった。
日本ならば古くなった建物はすぐに建て替えられるものだが、ヨーロッパの石で
作られた建物は、時が経つほど重厚感を増しその価値は高まる。
私は迷うことなく、住んでいたアパートに着くことができた。

アパルトマン
昔住んでいたアパルトマン1992年12月

懐かしい・・・ただそれだけである。
通りの様子も、周りの風景も、なにも変わっていなかった。

その後、私は通学路を歩いた。
毎日毎日、弟と一緒に通った道。

通学路
学校への道 1992年12月

昔の情景がどんどん湧き上がってくる。
パリの冬は日が大変短く、通学時間は朝8時をとうに過ぎていたのに、まだ真っ暗で
あった。
そして夕方3時過ぎには夕暮れを感じるのだ。

さて、パリの冬と言えばなんといってもクリスマスのイルミネーションである。
シャンゼリゼ通りのクリスマスほど素敵な情景を、私は見たことがない。
お店のイルミネーションを一つ一つ見て歩くだけで、あっという間に時間が経ってしまう。
またその頃に欠かせないのが「焼き栗」である。
無造作に新聞紙にくるまれて渡される屋台の焼き栗は暖かく、冬の寒さを少しだけ
和らげてくれる。

冬が終わり、春になる。
この季節のパリが、私は一番好きだった。
パリの並木道のマロニエの木が一斉に緑に色づき、やがて白い花を咲かせる。
長い間見ることのできなかった青い空と太陽が、その葉の間からちらちらと姿を見せる。
カフェでは暖かな日差しを楽しみながら、カップル達が幸せそうにクロワッサンを片手に
おしゃべりをしている。

本当に、どうしてこんなにも、どこを切り取っても美しい街なのだろう。

夏になると、パリはがらーんとした印象を与える。
そう、皆、長いバカンスに出かけるのだ。
そしてやって来るのはたくさんの日本人などの観光客。
ルイ・ヴィトンやイヴ・サンローランといった有名ブティックの前に列を作っている黒髪の
集団を、私は子供心に

「な、何か事件でもあったのか?!」

と思いながら見つめていた。
ブランド品というものの意味を知ったのは、日本に帰国してからのことである。

秋。
マロニエの葉が枯れ、道路脇にたくさん落ち葉がたまる。
それを「カサッカサッ」と言わせて踏みながら歩くのが何より楽しかった。
しかし道路の脇には、フランス人のこよなく愛するペット、「犬」のフンがそこかしこに
あり、よく踏んづけては泣いたものだ。
あれだけは、本当に勘弁してほしい。
「花の都」のイメージが台無しである。

どの季節にもそれぞれの輝きと魅力を放つ街、パリ。
フランス人と日本人ほど、正反対の人格を持つ民族もないだろうが、私はパリという
街が無条件に好きだ。
なぜがパリを思い出すとき、私はちょっとだけセンチになるのだけど。