病気の友人たちは、おしなべて聡明でチャーミングです。
その知性やひらめきや語り口に、私はしばしば見とれ、聞き惚れます。
一緒にいたいのは、それぞれが人として魅力的だから。
同じ病気を持ったことは、ただ出逢いの「きっかけ」に過ぎなかったように思います。
このコーナーでは、友人たちの「ちょっといい話」を少しずつ紹介します。
H さんからの電子メール
また明日から二週間の予定で旅に出ます
宿泊先はホテル国立A病院
食事のまずさは五つ星
だよなぁ、ホントに(笑)
お見舞い無用、メール歓迎!
(但し旅行中は携帯ゆえ250文字まで)
君も元気でね!
こんな入院の案内が来ると、お見舞いにも行きたくなります。
がんばれ、がんばれ!
I さんのお話
そうなの。生理も止まって、めまいと頭痛がひどくて...。もう、うんざりよ。
この歳で更年期障害なんてやーよね、まったく。ああ、やだやだ!
そういえば、ナプキンの在庫がいっぱいあるの。五年の治療が済んだらまた使えるかしら。
でも、あの毎月のフルマラソンが戻ってくるのも面倒くさいわね。うーん、どっちもどっちだなぁ。
ホントに、ガンが見つかる一週間前なのよ。近所の薬屋でセールがあってすごく安かったの。それでどーっさり買っちゃったわけ。
え、あなたも同じなの? 信じらんなーい!
そうだ、今度、全部まとめてフリマで売っちゃおう!
I さんの愚痴は、しっかり愚痴なのだけれど、どこか可愛らしくて、聞くのが楽しみです。それにしても、フリーマーケットにユニチャームやロリエやターンパックスがずらりと並んでいるなんて、想像するだけで可笑しい。きゃあ!
J さんのお話
聞いて! いいことがあったの。
先週のこと。うちのバカ息子が、友達を五人も連れてきてね、家中走り回って、うるさいのなんの。こっちは抗ガン剤の後で頭がガンガンしてるのに、何度言ったって全然聞きやしないの。
もう、あったまにきて、「静かにしなさーい! 」って、ついにカツラを取って怒鳴っちゃった。それはもう効いたわよ。(笑) みんな一瞬にして固まったわ。鳩が豆鉄砲食らったって、あの子達の顔のことよね。それから病気のことを詳しく説明したのね。その後はみんな静かに遊んでた。
「やった! 」って感じだったわ。もう隠さなくてもいいんだって思ったら、私自身もすっきりして . . . 。
それがね、続きがあるの。
翌日また来たのよ、五人とも。「今日はおばさんに会いに来たんだ」なんて言っちゃてさ、お花なんか持って。お小遣い出し合って買ってくれたのよ。ホント参ったわよ。「やられた」って感じ。
ほんとうに嬉しかったわ。息子のことも心配いらないって思えて . . . 。 こんなにいい子達が一緒なら、大丈夫だなって思ったの。・・・(涙)
私もすっかり「やられて」もらい泣き。 そして、大きな声で、
おーい、少年たち、どうもありがとう!
欧米の人たちのユーモアの感覚にも脱帽です。
思わずうなってしまったお話を二つ。
V さんからのメール
まあ、ヤミィ、写真を撮られたなんて! オーマイ!
そんなに放射線障害がひどかったのね。可哀想に。今からでもモデル代を請求しなさい! (笑)
でも、そうした研究の積み重ねが次に続く人の痛みを減らしていくのよね。今私たちが受けられる安全な治療の背後にはたくさんの人たちがいるんだわ。薬の一粒にだってね。
実は私も、放射線のケロイドはひどかったのよ。
それでね、最終日にスタッフの皆にクッキーを焼いて持っていったの。真っ黒に焼いて!
「6週間、毎日本当にお世話になりました」ってカードをつけてね。
でもね、皆が「おいしい」「こうばしい」なんて言って食べてくれたの。もう、がっかり。誰一人、私がわざと焦がしたことに気づかないんだもの。
まあ、彼らだってわざと焦がしたワケじゃないから、それ以上はつっこまなかったわ。
苦いクッキーを食べさせただけで十分よね。(笑)
それからね、ヤケドの跡は時とともに薄れていくから心配いらないわよ!
うーん、V さんの話を放射線治療の時に聞けなくて、ホントに残念! (笑)
私は今、卵料理を焦がしても、チョコレートクッキーを見ても、ちょっと楽しい気分です。
W さんの手紙
先日、以前入院していた病院に久しぶりに行きました。
お世話になったドクターやスタッフに会えて、最高に楽しかったわ。
みんなの表情が一瞬止まるの。信じられないって顔 ! それから、「ああW さん、お元気そうで何よりです . . . 」って、取り繕うように言うの。お気の毒にね !
4年前の感謝祭までに死んでたはずの人間に会ったんだから、しどろもどろになるのも仕方がないわね。(笑)
「ええ、ありがとう。お化けじゃないわよ。」って、会う人ごとに言って歩いて、まるでハロウィーンで悪戯してる子どもの気分だったわ。もう最高の最高 !
それで調子に乗ってプラカードを作って首から提げたの。車椅子にも貼って、病院中をパレードして廻ったの。
このパレードから一年経ちますが、W さんは相変わらずとても元気です。
骨にもガンがあるので時々骨折しては車椅子に乗っていて、それでも毎週のように、地域のホスピスへボランティアとして出掛けています。
本物のゴーストか天使かもしれない! 疑いたくなるほど、素敵な女性です。