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がんと一緒に  flower
  それぞれの物語
         不安や恐れが引きおこすもの
              くすりを探そう
                   がんと「うつ」
                          私たちのセクシュアリティー



*それぞれの物語


ガンのある(あった)ところも、その種類も、進み具合も、治療法も、治療の効果の見え方も、副作用の現れ方も、要するに何もかもが人によって異なります。そうしたことの受け止め方もまた、まちまちなので、当然ですが「ガン患者の気持ちはうんぬん」というような一般論はほとんど通用しません。

「治るかどうかわからない」
私たちにただ一つ共通なのは、その「不確実性」だけでしょうか。
不確実なことを、漠然とした不安と感じる人も、人生を考えるための試練と解釈する人もいます。デリケートすぎて心のケアが難しいと言われる訳も少しは肯けます。


私は友人たち一人一人の「物語」に感動し、彼や彼女の内面が短かい期間で大きな変化を遂げることに驚きます。そして「人間ってすごいな」と感じます。

それぞれが、それぞれのラブストーリーや冒険物語を生きています。
このこともきっと、私たちに共通していると思います。
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*不安や恐れが引きおこすもの



治療を受け始める頃には、たいていの人が、病気だという事実やこれから受ける治療などについて受け入れています。けれど、不安や恐れ、怒りといった感情とは簡単には折り合えません。

そうした気持ちを抱えたまま、ふさぎ込む人がいます。誰にも会いたくない、病院にさえ行きたくないと思います。
( A さんは、手術の後何日も泣き続け、ずっと自殺することばかりを考えていたそう。でも今ではその時のことを笑顔で話してくれます。)

逆に、人と一緒にいないと不安で仕方のない人もいて、常に誰かと会うか電話で話していたいと感じます。

精力的に働く人たちもいます。睡眠時間を減らしてまで仕事や勉強や趣味に没頭します。

買い物や浪費をすることで、晴れやかな気分を得ようとする人もいます。

( B さんは、それまでは手の届かなかった高価な宝石や服も、驚くほどあっさり購入できたと言います。実は私も、ノートや色鉛筆など文具を山のように買って、お店が開けそうなくらいでした。:-)

においや味、音に敏感になることがあります。
かなりの人が一時的にアルコールに依存します。食欲不振や過食なども見られます。

睡眠障害(不眠、過眠)は多くの人が経験します。
頭痛や胃痛 . . . 、体のどこかに痛みを感じることも珍しくありません。



私たちの多くが、いつもとは違った行動をとったり体に違和感を覚えたりします。
傷ついた心と体がバランスを取り戻そうと働いていることの現れで、大概は一過性なので心配はいらないそうです。

ただし、どんな症状も担当医師に報告してください。
治療の副作用や後遺症ということも考えられますし、医師には患者の様子をすべて把握しておくことが必要です。

話したからといって、たとえば胃痛がすぐに治まるとは限らないけれど、先生や薬剤師さんが「知っていてくれる」と思えると、ずっと安心です。

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*くすりを探そう


「薬はなるべく飲まない方がいい」と考えている人が多いようです。

私もそう思います。薬ぎらいではなく、正直に言うと、これ以上治療費や薬代がかさむことは避けたいという理由で . . . 。( ガン細胞って本当にカネクイ虫ですよね。Boo! (笑)

けれど、いろいろな副作用や不眠や不安でつらい時には、我慢をせずに医師に相談してください。吐き気止めや、鎮痛剤、抗不安薬、睡眠薬、下痢止めなどを処方してもらって、とにかくラクになりましょう。

不快な症状を減らしながら、薬以外の「くすり」を探せたら素敵だと思います。

C さんはハーブやアロマテラピーに凝っていて、植物の香りや精油の効果を教えてくれます。紅茶、ハーブ茶、緑茶、中国茶などの中から好きなお茶を見つけて、その日の気分で飲み分けているお洒落な人もいます。(私は静岡生まれなのでやはり緑茶。ウーロン茶もいいな。飲むと吐き気が減るように思います。 香りでは、火をともすと甘い香りのするローソクが好きです。ほのおがチラチラ揺れる様子はほんとうにきれい . . . 。)

整体や鍼灸、マッサージ、温熱療法などの治療院に通っている人たちも。(担当医師に内緒にしているケースもあって少し気になります。遠慮せずに「情報」として伝えておくべきことの一つだと私は思います。)

日記をつけたり、詩や短歌を作ったりしている友人はとても多いです。気持ちを文字や言葉にすることで、心が穏やかになると言います。(比較的静かな雰囲気の人に多いでしょうか。誰かに見せる必要もないそうです。対話のできる最高のパートナーを心の中に持っている人たちですね。)

無理のない散歩を日課にしている人は一様に、「食欲も増すし、季節の移り変わりを感じたりして優しい気持ちになる」と言います。

私は体調が悪くて起きられない時も、窓際に寄って少しでも陽の光を浴びるようにしています。体のリズムが調整できるそうなので。

遠くに小鳥の声を聴いたり、天井をプラネタリウムに見たてたり、ベッドの中でできることも、かなり見つけました。

映画や音楽も私にはなくてはならない「くすり」です。ビデオやCDの時代に生まれて良かった . . . 。ステキな映画を観ている時は何もかも(忘れてはいけないことまで! )忘れてしまって。:-)

アメリカやカナダの友人たちの間でも、ヨガや気功が常に話題になっています。
最近では日本茶や日本式の入浴(湯船にゆっくりつかる)も人気があり、アジア人として、日本人として、鼻が高いです。

私たちに古くから受け継がれてきたものを、再認識し、誇りにする時が来ているようです。互いの良いところを学び合って、ガンの治療もはやく和洋(東西)が融合することを願います。漢方薬や気功にも保険が適用されたらいいですね。


*あなたに心地よい「くすり」を見つけてください。
   あなたのことは、あなたが一番よく知っているはずです。
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*ガンと「うつ」


ガン患者には、長い間落ち込んだり、「うつ病」を発症する人も少なくありません。

私の仲間も7割ほどが「うつ状態」を経験していて、うち4割ほどがカウンセリングや投薬などの治療を受けました。現在治療中の友人も数名います。

病気が見つかったこと自体が嵐のようで、それに伴う自身や周囲の変化にも適応は難しく、治療もつらいし、ふさぐ材料に不足はありません。

友人のDさんは落ち込むのが上手で、「どうせだから底の底まで落ちて何か拾ってこようかな? 久しぶりに自分と向き合ってみるのもいいしね。」と思うそうです。

その時は電話にも出ないし、きっとつらいに違いないのですが、「落ち込む時には、落ち込む必要があるのよ」と言い切っています。あっぱれ、達人の称号をあげたい。(笑)


ただし、治療の副作用や疲労が原因で体調を崩した時には、脳内の神経伝達物質も活動が乱れるかもしれません。その場合の落ち込みは「気分的なこと」ではなく「うつ病」です。本人の意志や精神力とはまったく関係のない問題です。

でも安心してくださいね。「うつ病」は適切な治療を受ければ軽減します。
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それにしても、世の中の「病は気から」攻撃、もう少し穏やかにならないものでしょうか。

真実だろうとは思います。私も、心と体は深く結びついていると思うし、人間が、身体だけでなく、その人が体験したこと感じたことなどのすべてを含めた全体的(ホリスティック)な存在だという考え方が好きです。
ストレスはためない方がいいし、前向きに楽しく暮らせば病気も吹っ飛ぶ、かもね!?

だけど、「ストレスをためるな」という、ストレスの素もあると思います。
気持ちを明るく保ち、免疫力、自然治癒力を高めて病気を治そうという優しい考えも、うつ状態の友人たちには責め苦になっています。

「ダメよね、ふさいでたら。こない性格やから、ガンになったんかなぁ、私。」
「しっかりと思うけど、頑張れないの。それで再発してしまったのね。」
「もう、疲れちゃった。睡眠薬ってどれだけ飲んだら死ねるのかな。」

何もできない。
お願いだから今日は死なないでね、と頼む。翌日また同じことを頼む。ほんとうに哀しい。

落ち込んだっていい、しっかりしなくていい、頑張らなくていい、と思う。
もっと「いい加減」でいいよ、自分のこといたわろうよ。

        (ゴメンなさい、泣けて来ちゃいました。 . . . ちょっと深呼吸。ふう。)



もちろん、「がんばれ、がんばれ」と自身にハッパをかけながら、一生懸命に頑張っている友人もたくさんいます。
人から「がんばれ」と言われる度に「これ以上 何を頑張ればいいのよ 」と怒鳴っている頑張り屋さんもいます。
私はちっとも頑張れないので、「がんばれ」と応援してもらうことが好きです。
病気を理由に「わがまま放題」(に見える)ちゃっかり屋さんもいます。
頑張り屋は「がんばる」ところも含めてステキだし、頑張らない屋は「がんばらない」ところも含めてステキです。ちゃっかり屋さんは「ちゃっかり」加減がそれなりに魅力だと思います。
それぞれ違っていいですよね。

何が良いとか悪いとか、どうあるべきだとか、決めてしまうのは勿体ないです。
たとえば、世間の風潮や誰かの期待には添えなくても、普段どおりの自分でいられたらそれで十分です。

時には、感情の流れ、そして時間の流れに身をまかせてみることだって、大事かもしれないもの。




あなたが、もしも長い間落ち込んでいるようなら、すぐに担当医師に話しましょう。カウンセリングや抗不安薬・抗うつ薬などで、(もしかしたら先生に話すだけで)、随分ラクになるはずです。

もうすでに治療を受けている人は、先生方といつでも相談しながら、できるだけゆっくり過ごしてくださいね。のんびり、のんびり. . . 。

全然落ち込んでいない人は、ぜひそのまままで。でも、時々はちゃんと休憩してください。

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*私たちのセクシュアリティー


私たちガン患者が「死を恐れている」と考えている人がいます。

もちろん死にたくはないです。けれど、暮らし方が変わること、自分自身が変えられることの方が、ずっと厳しい場合もあります。

診断を受け取る時は「生きること」が最優先され、私たちは「生き残る」ために手術や治療を受けます。しばらくして、「生きる」ために失ったものの大きさに気づきます。

前立腺、睾丸、子宮、乳房などのガンの治療は、私たちのセクシュアリティーに打撃を与えます。性に関係のないところのガンの人でも、化学療法や放射線療法によって、性欲や性の機能に問題を抱えるかもしれません。(私自身、ホルモン療法によって生理は完全に止り、性欲も感じないし . . . 。悲しいなぁ。)

赤ちゃんが欲しい人や、若い人たちには一層つらいことでしょう。


機能的には直接の問題がないとしても、手術によって顔や体の形が変わったり傷ができたりすることは、私たちのセクシュアリティーを揺るがします。

たとえば、女性が乳房を失う。ダンディーな人が人工肛門をつける。美声の持ち主の声が変わる。治療の副作用やストレスで、恰幅の良かった人が痩せる、ナイスバディで皆の憧れの的だった人が20キロ太る。・・・

また一時的にせよ髪を失うことは、多くの人にとって心に長く残る傷になります。
外からは見えなくても、仕事や趣味などができなくなることや、経済的に苦しくなることも大変なことですよね。

女性として男性として、もしかしたら、人間としての自信を喪失するかもしれません。恋人やパートナーとの関係にも不安を覚えるでしょう。



私は以前のように「からだ」を実感することができません。

自分の「からだ」なのに醒めた目で眺めてしまいます。まるで単なる器官や臓器の集合体みたいに。たぶん治療や検査でいちいち傷ついたり恥ずかしいと感じなくて済むように距離を置いているのでしょう。それとも無意識のうちに、ガンを持ったからだを嫌っているのでしょうか。よく分かりません。

それでも、温かい感じを取り戻したくて、自分を抱きしめたり、できるだけお洒落もしています。マニキュアをする時も「私の指は私のもの、私の爪は私のもの」なんて言いきかせたり . . . 。
ヘンな作戦!? ですけれど、呪文が効いたらお知らせしますネ。(笑)




「外見なんか関係ない」と人は言います。そう思います。
「生きるためだから仕方がない」と人は言います。きっとそうなんだと思います。
けれど、かなりの犠牲を払っても、「治る」保証はどこにもなくて、私たちは相変わらず不確実性の中にいます。そのことに気づいて、そして、そこからもう一度歩きはじめます。


「やはり仕事がしたい。自分が自然淘汰される側の人間なのかと思うと正直つらいよね。今まで平気で弱肉強食なんて言ってきたからさ。 男として、というか、人生そのものをリストラされちまった感じ、これって女性に通じるかな? ・・・ たぶん生き方を見直せってことなんだよね。そのチャンスを貰ったんだって考えているし、自分はそうできる、とは思ってるんだけどね。」 (46歳、食道ガンの男性)

「最初は全然平気だったの。気合い入ってたから。治るためだったら何でもしようって思ったし。でもこの頃は、何のためにここまでしてるの? ってギモーン。家族のいる人はいいなぁ。羨ましいよ。子どものためにとか生きられるでしょ。結婚したいなぁ。いつかできるかなぁ。(涙) ・・・ 「生きがい」もコーガンザイと一緒に点滴してくれたらいいのにね。あはは、こんなことで悩むなんて思いもよらんかった。答えが見つかるまでは死ねないってことか! 」 (32歳、乳ガンの女性)


一度揺らいだセクシュアリティーや自尊心を元通りにする(あるいは新しく作り上げる)のは、大変な仕事で、きっと時間もかかると思います。人によっては治療を受け続けることよりも困難かもしれません。今の自分をそのまま受け止めてくれる人々の愛が、そして社会の理解だって必要です。


残念ですが、こうしたことは病院ではなかなか話せません。
患者同士でさえ何となくタブーになっています。かなり親しくならないと話題になりにくいみたい . . . 。もう少し風通しが よくなるといいな って思います。

すべての悩みや願いが 「いのち」という言葉の前では、些細な悩みや、贅沢な願いになってしまいます。でも、優先順位の二番目や三番目だって大切なことに変わりはありません。

そういう気持ちも大事にして、初めて信じられるような気がします。
「生きる」ことが、美しい . . .  と。


あなたの輝きを奪えるものはありません。
どんなことがあっても、あなたは、あなたです。


flower Life is beautiful.

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