私はことし、乳がん五年生になりました。もう5年. . . まだ5年. . . それとも、あと5年 ? ──さまざまな想いが交錯します。
この「がんの戸棚」は、術後一年と少しのころに作りはじめたものです。この数年で、「医学」は格段に進み、がんという病気の治療法も変わってきました。人々の「医療」に対する考え方にも、大きな変化が見られます。そして、私自身の患者としての気持ちも、少しずつ変化してきました。
「書き換えたほうがいいかな?」
かつて書いたものを読み返して、何度か「直そうか?」と迷い. . . でも、やはり作ったときのまま置くことにしました。
わたしという個人のほんの小さな歴史だとしても、書き換えてはならない気がしたのです。たとえ現在の気持ちとはそぐわない部分があるとしても. . . 。
訂正する場合には、訂正したことがわかるように、新たな文章を加えよう。
ある瞬間にしか感じられないこと、そのとき、そのときにしか言えないこともあるはず. . . 。
そんなふうに考えることにしました。
そして、これからも、そうした「今」を大切にしながら日々をすごしていけたら、と思っています。
Carpe diem, memento mori.
2005年 早春 ──やみぃ
はじめまして やみぃです。
一年半前のこと、右の胸に悪性腫瘍が見つかりました。乳ガンと呼ばれるものです。それからずっと、私は多くの人々に支えられて、暮らしています。すべてが束の間の出来事みたいで、けれど同時に長すぎる歳月が流れたようで、まだ半分夢ごこちといった感じです。私の中の時計か磁石が 少しおかしくなっているのかもしれません。
もっとも、生まれつき 「ぼんやり・オフビート」なので、「竜宮城」にいることを 病気のせいにばかりはできませんけれど。(笑)
手術、放射線療法、化学療法など . . . 、忙しく病院に通い詰めている間に、廊下や待合室でたくさんの患者さんと知り合いました。体調が悪くて仕方なくタクシーに乗ると、運転手さんが 「妹が肺ガンでホスピスにいてね 」と話してくれました。喫茶店で偶然に隣り合わせた男性は、肝臓ガンが見つかったばかりでした。不思議です。初めて会う人たちなのに、お互いになぜか気になって、どちらからともなく声をかけ、そして 重い心の内が話し合えたりするなんて。まるで、親戚のおじさんやおばさんや、古くからの友人みたいに。
薬のことをインターネットで調べた時には、検索に失敗して、米国テキサス州の乳ガンの女性と出逢いました。(「失敗の神様」にも、お礼を言わなくちゃ! )奇跡のような巡り合わせが 幾つも重なって、今ではガンや白血病の友人が 世界にできました。「日本」という私達の国の 「良いところ」や「足りない部分」にも 気づきます。
ウェブの世界(web=蜘蛛の巣、網)でも、いつの間にか 目に見えない糸に絡まってしまったみたい。そしてその糸を伝って 気持ちを分かち合える相手のいる仕合わせを 感じています。
私もこの糸を揺らしたら、どこかの誰かに かすかな音が届くかもしれない . . . 。そんな風に考えて、まだ知らないあなたに お手紙を書くことにしました。
病気の方はもちろん、とっても元気なあなたにも . . . 。
2001年 6月 やみぃ