『同調』


「―――あの男、絶対僕のこと好きだよ!」


グリフィンドールの談話室。ドアを蹴り開けん勢いで駆け込んできた親友の叫びを聞き、ロン・ウィーズリーは「精神にダメージ。132ポイント」と呟いた。
三人掛けのソファのもう片方の端に一人分間を空けて座っていたハーマイオニーは、迷惑そうに『南半球の禁域』の458ページから目を離した。


「だってそうとしか考えられない! 普通嫌いな生徒を放課後三時間以上居残りさせるか!? もう八時過ぎてるのに! 僕夕飯食べ逃しちゃったよ! しかも、向こうまで飯抜きで僕の罰掃除を1分1秒逃さずに見張ってるし! あれはもう恋だね、恋!」

「ちょっと…ハリーさん?」

思わず丁寧に呼びかけてみる。
しかし、ロンの声は怒りも露わに教科書をばきばきと折り曲げているハリーには全く届いていないようだった。

「まさか狙われてたなんて知らなかった。道理でここ五年間苛めぬいてくれたことだよ。気を引きたかったんだな!? くっそ、こうなったら、早めに抹殺しとかないと!」


「ハリー。空腹で苛立ってるのは分かるけど、あんまりそーゆーことを大声で喋るものじゃないわよ。下級生の情操教育に悪影響だわ」

青い栞をページの隙間に挟み込むと、ハーマイオニーは手元のリンゴをハリーに放った。

「落ち着いて。考えてもみなさいな。あの土気色の教授は、貴方が父親そっくりの顔でしかも出来の悪い生徒だからいびり倒したいだけなのよ?」
「そうだよ。あのドロドロ頭、君が嫌いで見ていて虫唾が走るから、却って目が離せないだけさ」

真っ赤なリンゴに噛みついて、ハリーは一気にそれを咀嚼した。

「そっか…そうだよね。あーでも万が一襲われるくらいならこっちから襲っちゃる!」
「正気に戻ってよハリー」
「君、ホントはスネイプのこと好きなんじゃないの?」

「まさか!」

力一杯否定すると、二人の同級生は「ほらね」と目配せした。

「だろ?」
「でしょ? ―――きっと同じ気持ちよ」

「そっか…そうだよね」


向こうも今頃空腹に苛立ちながら、小賢しいハリー・ポッターについて愚痴っているに違いない。


「同じ気持ちだもんね」