職員室事情-1.5 『心』
組分け帽子は、彼が有している四つの意志について、詳しくは語らない。
けれど、彼はホグワーツの組分けという任務に誇りを持っていたし、その役目を果たさせてくれる四人の創始者に敬愛を注いでいた。
とはいえ、組分け帽子は組分け帽子。
本人達ではないのだから。
それを決して忘れてはならない。
「校章は出来たし、校訓も決めた。他に必要なものは?」
ゴドリック・グリフィンドールは晴れやかに、居並ぶ顔ぶれを見渡した。
薄い笑みを湛える才媛がロウェナ・レイブンクロー、満面の笑顔で見つめ返してくるのがヘルガ・ハッフルパフ、それから常に不機嫌そうに口を一文字に結んでいる男がサラザール・スリザリン。
共に理想を唱えた仲間である。
「校歌はどうします?」
「…歌、ねぇ?」
「取り立てて必要な感はないようだけど」
「何でも用意して置くのがよろしい。後々になって必要になったときに揉めかねない。最初から決まっていたというのであれば、問題の発生を事前に防げるというもの」
「では、誰が作詞を?」
「皆で考えるべきじゃないかしら? この学校の校歌なのだから」
「いや、共作の校歌など聞いたことがない」
「感性に統一感があったほうがよいのでは?」
「では、彼に頼もうか」
言って、ゴドリックはひょいと帽子を頭から下ろした。
彼らの死後、ホグワーツに入る生徒達の選定を託されている帽子だった。
四人の意志を封じ込めてある、彼らにとっての融和の印。
それに作詞を依頼することは、とても自然なことであるように思われた。
何より彼は退屈している。
四人の創始者の誰かが欠けるまで、組分け帽子に出番はないからだ。
「おまかせください」
帽子は言った。
それから十年間ほど、彼らはその件について綺麗さっぱり忘れていた。
「……………………」
「……」
「…………」
「……………………」
無言の応酬である。
四名は、組分け帽子の歌い上げた歌を、じっと反芻した。
「十年かけてこれですか」とロウェナは思ったし、ゴドリックは「俺の耳がおかしいのかな〜」と耳をほじった。「私たちのセンスって混ぜるとこうなるわけ…?」と青ざめていたのはヘルガである。サラザールなどは、黙って帽子を燃やそうとした。(けれど流石に思い直したらしく、彼は杖腕を下げた)。
伏せられた目が交わり、四人の視線がぶつかったとき、高低様々な声が一つに重なった。
『よろしいのではないでしょうか』
事なかれ主義と笑うなら笑うがいい。
けれど彼らは組分け帽子が好きだった。
四つの意志の融和。
彼らの友情の象徴。
…彼を否定したくなかったのである。
一つの帽子に四つの心。
いいえ、一つの帽子には一つの心。
溶け合い混じり合って形成された一つの意志。
彼らは仲間だった。
帽子は誇らしく言う。
「私はホグワーツの組分け帽子。この学校を、創始の意志の気高さを、永久に讃えることでしょう」
組分け帽子は組分け帽子。
良くも悪くも変化がない。
本人達ではないのだから。
それを決して忘れてはならない。