『温度差』
図書館で、黙々とレポートを書いているセブルスを、向かいの席でじっと見ていた。
「ねぇ」
「君、好きって言ってみない?」
告白して、あっさりと無視られてから数ヶ月。結局、僕らの関係に大した変化はない。
それでも時々、なんとか、緩やかで穏やかな会話がランダムに発生するようになった。
「言って欲しいのか?」
「いいの?」
ぴん、と尻尾があったら立っていたところだ。
「言ってもいいが」
「やぁ、嬉しいなぁ」
「本当にいいのか?」
セブルスは問う。疑わしげに。
「ええっと?」
「本心でなくても言って欲しいのか?」
………それ、痛いよ。セブルス…。
「―――」
はい、僕の負けです。
つごう三十秒ほど悩んでしまったけど。
でもやぱり、アレじゃん。
嘘でもいいから形を見たいのだ。
「本心じゃなくても言って欲しい」
「潔いな」
セブルスはくしゃっとジェームズの髪を手で梳いて、そのまま歩み去ろうとする。
こら待て!
慌ててローブの端を掴むと、セブルスはその手をふりほどいて、座ったままのジェームズを呆れた表情で見下ろした。
「プライドがないのか、お前は」
「ひどいな」
でもこの件に関しては、
「プライドなんて捨ててもいいから欲しいものがある」
「何故だ。私は到底お前の望む者にはなれない」
「……とりつく島もないね」
溜息。冷たいよ。いつものことだけどさ。
「せいぜい無駄に努力することだ。まぁ、」
「?」
いま、セブルスなんて言った!?
『まぁ、「してみせる」と言うのならば、私は止めないぞ』
ローブを翻して去ってゆく背中を呆然と見送った。