『残骸』


ふと思った。
お前の中にどのくらいジェームズが残っているのか。
あいつ無しでは生きられないほど、お前はひどくジェームズに依存していただろう?


だから部屋で手を伸ばした。
相も変わらず細い体をローブの上から抱きしめると、奴はびくっと身を竦める。
慣れていないという風に。


体を束縛されたまま振り返り、こちらを睨め付ける。


『あいつだから許したんだ』

その表情が無言で語っていた。


ジェームズだから、触れることを許した。
ジェームズだから、口付けを受け入れた。
ジェームズだから。あいつが望んだから、全部をくれてやったんだ。

ブラック。お前などに渡せるものか。



そんな告白が見たかったわけじゃないのに。
いや、見たかったのか。
彼が確かに生きていたという証が、奴には刻みつけられている。
彼自身の手によって。
痛々しいほど鮮明に。





「お前も不憫だよな」

耳元で囁くと、奴は不快さを前面に押し出した顔で言う。

「貴様に憐れまれる理由はない」

「だって、辛くないか? あんなに側にあったものが消えちまって」

「…それはそれでいい」



誓ったから。
お前の全てを認められない。憎いし、納得が出来ない。
存在そのものに苛立ちを感じる。
だが、
それでも想っているのだと。
それを伝えるために誓ったから。

全てお前にくれてやる、と。



だから、あいつは死ぬときに私を持って行ってしまったので。

「今ここにいる私が苦しもうと、それはどうだっていいんだ」




「…マジで好きだったのか?」

「死ぬほど嫌いだったよ」

「―――ここにいるお前が抜け殻だとしたら、俺がもらってもいい?」

「貴様にやるものなど髪一筋ほどもないな」

「あ、そ。まぁ、俺だってお前に許可を求める気はないけどね」



ぐさぐさと言葉を相手に刺しながら。
過去の残骸と自らを嘲りながら。

それでも体温だけは伝わる不思議。