『間隙』
「いいかげんリリーとくっつけ!」
「えー、だって〜」
「だってとかぬかすな!」
もはや学生を卒業してしまった二人は、喧嘩する場所を見つけられず、仕方がないのでどちらかの部屋が被災地となるのが通例だった。
月に何度か近所迷惑な騒動(+α)を起こす、アパートの住人にとっては迷惑きわまりない連中である。
「だけどねぇ、セブルス」
彼はお気に入りのソファーに沈みながら、二人分の紅茶を煎れているセブルスに話しかける。
「二人の人間は同時に愛せないよ」
「安心しろ。我々の間にあるものは愛じゃないから」
「ええ!? そうだったの!?」
「口にするのは止めておけ。そんな言葉、臆面無く言っていいの子供と母親だけだと私は思うぞ」
言いながら、彼は戸棚から菓子を取り出した。
目を合わせずにさらりと言ってしまっていい話題だろうか、これは。
「じゃあ僕が今まで言ってた分は…」
「うむ、右から左へ素通り」
「鬼ー」
素早く、山積みされたチョコレートに手を伸ばしつつ、ジェームズが呟く。
どんな時でも食い意地を忘れないのはむしろ立派かもしれない。
「じゃあ、何? 何なわけ、僕らの関係は」
「我々の関係は“ジェームズ・ポッターとセブルス・スネイプの関係”だ」
「………固有名詞っすか……。(汎用性ゼロだね)」
目から鱗、という風にジェームズは肩を竦めた。
愛だとか友情だとか憎しみとか、そんな言葉でくくりたくなくて。
言葉で表現などしたくないのだ。
「セブルス。僕は君を「セブルス・スネイプ」だと思うよ」
「ああ、私はお前を「ジェームズ・ポッター」だと思うさ」
「…誓う?」
「別に構わんがね。お前も誓うのなら」
「よっし、じゃあ決まりね」
「何が決まったのか知らんがな」
「そんなの僕だって知らないよ」
でも誓いは成立、と弾む声で歌い上げるジェームズ。
「で、これはお前の結婚式の招待状」
「…は?」
手渡された羊皮紙に、ジェームズは目を丸くした。
「僕の?」
「お前とリリーのね」
「何で君が?」
「お前が決めないから我々で決めておいた。覚悟しておけ。来月は忙しいぞ」
「我々って――」
「花嫁と、友人一同でね。言って置くがキャンセルは不可能だそうだよ」
そんなのアリですか? と、恐る恐る尋ねてくるジェームズに、セブルスは一度茶をすすった。
「いいじゃないか。結局、お前はどこまでいってもジェームズ・ポッターなんだ。それ以外にはなれないんだから、結婚くらいしておけ」
「これが君の僕への仕打ちか!?」
「その通り」
思いを伝え合ったりなどしない。
どうせ言葉で真実など伝わらない。
提示する事実が全て。
君に捧げるこの攻撃。
突きつける刃の感触。切れ味いかが?