『餞』
「恥を知れ!」
ハリーは叫んだ。
「学生のとき、からかわれたというだけで話も聞かないなんて―−」
その言葉。
その台詞に、あまりにも言いたいことが多すぎて。
頭が沸騰した。
腹が立つ。
何故お前はそんなに似ていないのかと。
奴と同じ器で、全く別のことを言う。
いっそ外見まで全て別人であれば、こんなとき惑わされることもなかったのに。
日頃は似ても似つかないくせに、或る一瞬だけ過去に引き戻される。
質が悪いことこの上ない。
もういない男の顔を思い出してしまう。
そして、もういないということを思い出してしまうではないか。
からかわれただけ?
ああそうだろうよ。
そうに違いない。
だが我輩は忘れない。
「この借りは必ず返す」といった私に、
「これのどこが借りなの?」と尋ね返したあいつのことを。
逆恨みだとは分かっている。
けれど、私にとって非常に重かった事実を、羽毛のように軽く扱われては腹も立つではないか。
「私には借りなんだ」
とそう言っても、あの何でも持っている恵まれすぎた男は、その重さに気付いてはくれなかった。
多分、理解の範疇外なのだ。
どんなに説明しても、私の抱えるこの重さは、奴には伝わらないのだ。
それがジェームズという男だと思う。
そして、それが奴が腹立たしい理由だ。
いなくなっても怒りが消えるわけがない。
分かってもらえないことを知っていた。
けれど、それでも、仕方ないと諦められない。
だから、あの男が嫌いなのだ。
いなくなってからもずっと。
忘れたりはしない。できない。
それが手向けだと信じてきた。
「黙れ!」
自分の中の大切な事実を貶されて、しかもそれが誓った相手と同じ顔で。
「我輩に向かってそんな口の利き方は許さん!」
絶対に許せない。