『釘』
「ざけんなテメー」
と、シリウスばりの罵声を吐き掛けたのは僕の可愛くない恋人だった。
えー、ちょっとわがまま言っただけじゃん。
怒らなくてもさ。
とは思うのだが、ここで怒らなくてはセブルスじゃあないしね。
実は怒ってる顔を見るの、かなり好きだったりするし。
けど、ここは一発思い知らせてやらねばなるまい。
「へーぇ、セブルス。僕のこと嫌いなんだ?」
にこにこと笑いながら、僕は彼に背を向けた。
「じゃ、もう関わらないから」
片手を上げて、お別れの挨拶。
と、伸ばされた腕が僕の上着の袖を掴んで引っ張る。
ほんのちょびっとだけだけど。
「ん?」
期待を込めて振り返ると、彼は怒りを溜めたように俯いていた。
うん、こういうとこは可愛いんだよな。
普段は憎たらしい分、効果倍増。
つーわけで、最後のトドメとして細い体を思いっきり抱きしめた。
あっ、と声を上げたセブルスの耳元でそっと囁く。
…だから僕、性格悪いって言われるんだよね。
「じゃあ、僕のこと好き?」
知っている答えをわざわざ聞き出すことに意義があるのだよ。
* * *
「ざけんなテメー」
あまりにもふざけた物言いに、私はジェームズの頭をはたいた。
「えー、ちょっとわがまま言っただけじゃん」
奴はそう言う。
反省の色が見えん、反省の!
けれど、そーゆーところがジェームズだったりするのだな。頭に来ることに。
すると、奴は何か思いついたらしく、不穏な目つきでこちらを見つめた。
「へーぇ、セブルス。僕のこと嫌いなんだ?」
ニヤニヤと笑いながら、奴は私に背を向ける。
「じゃ、もう関わらないから」
片手を上げて、別れの挨拶。
よくも! と思った。酷いだろうそれは。そんなことを言うのは。
私が引き留めざるを得ないのを分かっていて。
「ん?」
怒りを込めて俯いていると、奴は期待を込めたように浮かれた顔で振り返った。
ちくしょー、この馬鹿者が。
どうしてこう、次から次へと嫌がらせを思い付く?
最後のトドメとしてあの馬鹿力で思いっきり抱きしめられて。
つい声を上げた私の耳元に、ジェームズは息を吹き掛けた。
…だからお前は性格が悪いと言うんだよ。
「じゃあ、僕のこと好き?」
何度言わせたら気が済むんだ! と思いながらも、今日も敗北してしまう自分が恨めしい。