『良し悪し』
「やほーセブルス。二人きりで夜を明かすなんてロマンチックだね〜」
「どこをどうしたらそのような解釈に結びつくのか教えていただきたいな、ポッター」
蜘蛛の巣だらけの空き教室の掃除を命じられたセブルスは、罰掃除の相方である男に向かって冷たい声を吹きかけた。
やはり、偶然通りかかったとはいえ、校長に水をぶっかけてしまったのはまずかったようだ。
ジェームズとセブルスは二人して不慮の事故を主張したのだが、校長は笑ってこの場所を提供してくれただけで。
「鬼〜」
「やめろポッター。絶対聞かれてる」
「う…ありそうで怖い」
「だろう?」
「つーかあの人も不思議だよな〜。本当に偉大なら水くらい避けてほしかったよ」
「敢えて避けなかったから偉大なんじゃないか?」
「知ってて避けないのは偉大というのかなあ?」
偉大という言葉をいいように解釈している二人組は、喋りながらもしぶしぶ箒を手に取った。
「じゃあ、まあ、景気づけに」
不意に顔を近づけてきたジェームズに、セブルスは反射的に身を反らした。
「ジェームズ…お前な…」
「いいじゃん。サービスしてよ」
「それのどこがサービスに当たるんだ」
「少なくとも僕には」
したり顔で言うジェームズに、セブルスは溜息をつく。
「ったく、男にキスするような物好きはお前くらいだぞ」
「かもねぇ。でもさぁ、君、寝顔可愛いもん。寝てる間に襲われちゃったりしてない?」
同室の奴等とかに、と指を差すジェームズにセブルスは心底げんなりした。
「本当にお前、理解不能な思考回路を持っているのな」
「えー? そっちが自覚ないだけじゃないの?」
「自覚?」
「僕らだって健全な青少年なのですから」
「健全?」
「………いや、話マジ通じてないっしょ、今」
「何の話だ」
「だから、こういう話」
再び近づいてきたジェームズに、セブルスは思わず後退る。
「逃げないでよ」
「無茶言うな!」
セブルスはまた一歩下がりながら叫ぶ。
「なんだセブルス。キス、嫌いなの?」
いやならしないけど、と。
目を細めながらジェームズが言い、セブルスは舌打ちした。
不機嫌に、顔をしかめる。
「――――…」
「聞こえないよ」
「――好きにしろ」
「じゃあ遠慮なく」
顎まで掛かる黒髪をふわりと両手で包み込み、ジェームズはセブルスに覆い被さるように唇を塞いだ。
しばらくして顔を離すと、真っ赤になって目をそらすセブルスがいる。
「慣れないねえ」
「慣れてたまるか」
「ま、どっちも良し悪しだから」
弾むような声でそう言って、ジェームズはさっと背を向ける。
「続きは掃除の後でね」
箒を拾い上げながら、彼は片手を振った。