『デート』


週末、ホグズミードで。


通りすがりに耳元で囁いていった男の言葉は、間違いなくそーゆーお誘いに違いないくせに。
だというのに、今に至るまで何の委細も知らせてこないとはどーゆーわけだ!?



ルシウスは眉を顰めてみせることで、不快を表現した。
現在は金曜、夜10時を回っている。
しかし、天窓に梟が舞い降りる様子はないし、まして木製の古い扉が叩かれることもない。
非常に不愉快な話である。

まさか、忘れているんじゃあるまいな。

ありえない、と思った。
惚れた弱みを握っているのはこちらだ。
あのアーサーが、自分との約束を‘忘れる’なんてあろうはずがない。

ならわざとか。

いい度胸じゃないか、と思う。 「週末、ホグズミードで」と、交わした言葉はそれだけで、ルシウスはイエスともノーとも答えていない。
すっぽかすことも可能だし、今までも時々やってきた。

しかし、いつどこで…ということがわからなければ、約束を破りようがない。
そもそもそれは約束なのだろうか。

まったく腹立たしい。
顔には出さないが、心の中は正にそれである。
今頃あの男が、やきもきしつつも平静を装っている自分のことを想像してにやけているかと思うと、顔も引きつろうというもの。
畜生、見直したぞアーサー。


………それとも、本当に忘れているのだろうか。
それはそれで、なんというか、利き手に力がこもる。
ああもう、今すぐ手紙が来ればいいんだ。それで全ては片づくのに。






けれど、その日の日付が変わるまでエロールの訪問はなかった。
ルシウスは舌打ちを押さえて12時の鐘の音を合図に、古書に栞を挟み、就寝する。




そして翌朝。
昼の10時を回っても、連絡は来なかった。

「…やるじゃないかアーサー」

これが戦略じゃなかったら半殺しだ。(勿論戦略でも半殺しだ)
さてどう出るべきか。
いっそ、そんな言葉など忘れた振りをして月曜まで知らぬ存ぜぬを貫くか。

だがそれも腹が立つ。
こちらは約束を覚えているというのに。月曜に奴にからかわれるなど御免だ。


だとしたら、とルシウスは思い立ってマントを羽織って寮を出た。
行ってやろうじゃないかホグズミードに。
そして言ってやるのだ。「私が待っていたのにどうして来なかったんだね?」




叫びの屋敷の前まで来て足を止める。
さてどうしよう。
ただ適当な場所で立ちつくしているというのも芸がない。
てきとうに物見遊山をして、てきとうに買い物をして帰るのが一番有意義だ。

そう考えて一歩集落の方向へと歩き出す。
突然後ろから肩を掴まれた。

ああ。

待っていたという安堵と、今更何の用だという怒りと、結局自分も惚れているのだという悔しさが、一度に去来した。

「やぁルシウス」

微笑を形成する。それは造作もなく出来た。格段にうまく。
自分で言うのも何だが、魅力的に造形したそれ。

「あれ? 怒ってない? 意外だったなーちょっとはやきもきしてくれるかと思ったのに」

にかっと笑って肩を竦めるアーサーの、その首筋にそっと手を這わせ、耳に吹きかける。

「機嫌がいい? ウィーズリー、もちろん私はね」














「怒っているんだよ」


顎の下に捻りの入った裏拳を喰らったアーサー・ウィーズリーの、その後の運命は定かではない。