『視線』
ふと目が合うことがある。
授業中、食事中、移動中…。
そういうとき、奴は少しだけ口の端を持ち上げウインクしてみせる。
そして私が顔をしかめて目をそらすのだ。
それはずっと前からの約束事だった。
いつ決まったのか覚えていないほど古くからの慣習。
では、私が視線を外した後、あいつはどんな顔をしているのだろう。
不意にそう思って、
挑発を交えたウインクを受けた後、じっとそのまま相手の顔を見つめ続けた。
すると向こうも気付いたらしく、きょとんとした顔で一度瞬きした。
ニヤリと口元がつり上がって、音もなく唇だけが動く。
…読唇しろと?
こちらが読みとれるようにゆっくりと動く唇に、教授にばれないように視線を送り続けて。
そして、
――やっと気付いてくれたね。
読みとれた科白の意味を理解するのに数瞬かかって。
「―――っ」
授業中だというのに、口元を押さえて突然俯くなどという不自然な動作を取らざるを得なかった。
嘘だ、と口の中で呟く。
まさか、ずっと見ていたなんて。
真っ赤になって俯いたセブルスを、ジェームズは満足そうに眺めていた。