『夜』
泣きたくなる。
こんなことがあるだろうか?
ジェームズが私を見ている。
触れている。
耳元で、「セブルス」と囁かれる。
間違いなく、いま私のことを考えているだろう?
私のつまらない空想なんかじゃない。
確かにお前がいる。
少し不満げな顔をして「まーた何かくだらないこと考えてない?」と笑い、
押し倒すような形で首の後ろに手を回す。
「くだらなくなんかない」
「じゃあ何? 言ってみせてよ」
「…お前のことだ」
「そんな遠い目をして?」
一度瞬く。
「不満か?」
「わりと」
「…どうしろと言うんだ」
「呼んでよ」
「?」
「僕の名前呼んで。そしたら嘘じゃないってわかるもの」
「信用ないな」
「そんなの最初からないじゃん。君も僕も大嘘吐きだしさー」
「まぁ…言われてみれば、な」
しばらくして、ためらいがちに口を開く。
「…ジェームズ」
「ん」
唇が触れる。
「いやそうな顔して言わない」
「これが地顔だ」
「うっそー。眉間のしわ取れてないよ。もっとこうさぁ…たまには笑ったら?」
「私だって可笑しい時には笑うさ」
「うんうん。僕のいたずらを見事にひっくり返した時とか、なかなか素敵に陰険な笑顔を見せてくれるよね」
「文句あるか」
「大ありだけど、ないよ」
「なんだそれは」
「なんでもいいじゃない」
また何か誤魔化されるんじゃないかと思って目を開けると、ジェームズが笑っていたので。
私だけを見て笑っていたので。
まぁ、いいか、と思って目を閉じた。