20.殺菌灯

  日光消毒は、太陽光に含まれる紫外線による殺菌方法で、昔から日常生活に定着しています。この紫外線による殺菌作用を人工的に作ったものが殺菌灯です。殺菌灯は、筒の中に紫外線を放出するランプを入れて、その筒に水槽内の飼育水を循環させことで、雑菌を殺して水を綺麗にする機器です。


(1)殺菌灯とは
 殺菌灯は、一般的に海水魚水槽で使われることが多く、淡水魚水槽で使われることは少ないです。これは、海水魚水槽が淡水魚水槽に比べて、人工海水を使用しているために換水頻度が少なく、海水を長期に渡って維持するためには、細菌・ウイルス等を効率的に除去する必要があるからで、主に海水魚の病気予防のためだと思います。

 殺菌灯に使用される紫外線ランプの紫外線は、生体に直接照射すると皮膚が紫外線焼けして、ボロボロになるため、水槽内へ照射せず、筒の中を循環させる飼育水に照射します。紫外線は、空気中では広く拡散しますが、水中では
紫外線ランプから2cmにも満たない範囲しか殺菌効果がありません。(確実な殺菌効果があるのは、数mm程度)このため飼育水全部に紫外線を早く照射できるように効率良く循環させる必要があります。
 紫外線には、UV−A、UV−B、UV−Cなどがありますが、波長のピークはUV−Cの253.7nmにあって、ほとんどのメーカーは、この波長をピークにしたオゾンレスランプを使用しています。このため紫外線の波長には各メーカー大差はないですが、ランプに使っているガラスの質に差があります。大きく別けると以下の2種類になります。

 ・GLランプ(紫外線透過ガラス)
  
 寿命は約3000〜4000時間

 ・石英ランプ(石英ガラス)
  
 寿命は約7000〜8000時間

 上記のようにランプの寿命で差がでますが、ここで言う
寿命とは、ランプが切れる寿命ではなく、紫外線の透過率が新品時の60%以下になった時のことです。「紫外線透過ガラス」「石英ガラス」は、主に「透明度」と「耐久性」に違いがあります。「紫外線透過ガラス」が、種々の成分からできているのに対し、「石英ガラス」はSiO2(二酸化ケイ素)だけからできているので、透明度は「石英ガラス」の方が各段に良いです。「紫外線透過ガラス」は、新品時でも約75%の透過率しかなく、紫外線によるガラスの劣化が早くて、透明率の低下(寿命)が早いです。このことから、GLランプの寿命は、「紫外線透過ガラス」の透明率低下による寿命で、石英ランプの寿命は、ランプそのものの照度低下による寿命になります。
 「石英」とは、二酸化ケイ素の特定の結晶型を指します。「石英ガラス」は、身近なところでは、メタハラ球のガラスに使われています。石英ランプは、GLランプに比べて高価なのがデメリットです。
 殺菌灯には、紫外線ランプに直接飼育水を当てる「石英管なし」のタイプと、紫外線ランプを石英管の中に入れて二重構造にした、「石英管あり」のタイプがあります。違いは、「石英管あり」のタイプは、水が石英管の周りを流れるため、殺菌灯内の水を抜かずに紫外線ランプの交換ができることだと思います。活魚水槽ならともかく、珊瑚水槽の水温は、24,5℃なので石英管による低水温時の殺菌力低下防止効果はさほど望めないと思います。「石英管あり」の場合、紫外線が石英管の周りまで届くため、紫外線の照射範囲が広ろがります。このため飼育水へ広く紫外線を当てることができると思います。(紫外線ランプ周囲2cm < 石英管周囲2cm)

(2)殺菌灯の効果
 殺菌灯を設置することにより、プロテインスキマーで除去されない病原菌、黄ばみ、臭いなどを除去します。殺菌灯には下記のような効果があります。
@病気予防(寄生虫・ウィルス・細菌)
 細菌・ウィルス等は、細胞内の核酸に紫外線を照射されるとDNAが破壊され複製機能を失い、更に照射量が多くなると原形質が破壊されて死滅します。
Aコケ抑制
 水中を浮遊するコケの胞子を分解する事で、コケ発生を抑制することができます。ただし、既に水槽内に発生しているコケを減らすことはできないです。あくまでも殺菌灯内を通過したコケの胞子に対する効果です。
B透明度の維持(有機物の分解・脱色)
 プロティンスキマーでも取り除けない小さな有機物、水を黄ばませる粒子等を紫外線で分解することで、飼育水の透明度が上がります。
C臭い防止(脱臭)
 水中にある臭気の粒子は非常に小さく、プロティンスキマーでも取り除けません。この臭気の粒子を紫外線で分解することで臭いを防止することができます。

 以上のような効果があるようですが、私の場合、殺菌灯の効果をはっきり体感できたのは、BとCでした。@については、殺菌灯の設置後、病気の発生がないので、効果があったのかな?(設置前でも導入直後のキイロハギに白点が1度だけあった程度)Aについては、効果がみられないです。(>_<)コケの種類にもよるのでしょう?

<補足:紫外線による分解>
 屋外に放置された物質は、太陽光の紫外線によって、時間の経過と供に変色してひび割れてきます。これは、紫外線が放置された物質の表面を破壊して(紫外線焼け)、さらに波長の短い紫外線は、物質の内部まで浸透して破壊するからです。この時、紫外線を吸収している部分では「光化学反応」が起きて物質を分子レベルで分解しています。
 同じように飼育水内の
有機物は、紫外線を吸収すると光化学反応を起こし、無機物(二酸化炭素と水)へ分解され、姿を変えて水槽内外に存在させられることになります。紫外線は、波長が短いほどエネルギーが高くなり、100〜400nmの紫外線では286〜72Kcal/molのエネルギーを持っています。これに対して、分子のほとんどが、約50〜150Kcal/molのエネルギーで結合しています。例えば、83Kcal/molの結合エネルギーを持つ炭素⇔炭素結合は、紫外線のエネルギーの方が炭素⇔炭素結合エネルギーより大きいことになりますから、結合した分子に紫外線が吸収されると、結合の切断を行う光化学反応を起して、結合した分子が分解されます。


(3)殺菌灯を使うに当たって
@性能の目安
・殺菌効果からみると、できるだけ出力W(ワット)数が高く、大量の飼育水を回せる殺菌灯が良いです。(電気代や水温上昇は別)40W以上の殺菌灯を60L/分以上のポンプで循環させないと、充分な殺菌効果が得られないような話しもあるほどです。
・できるだけ長い時間、飼育水へ紫外線を当てた方が殺菌効果があります。このため殺菌灯の筒は、長い方が良い訳ですが、長過ぎると設置場所に困ります。
・殺菌できる範囲は、紫外線ランプ周辺の限られた範囲ですから、殺菌灯の外壁に近い水ほど紫外線が届かず殺菌効果が薄れます。このため、紫外線ランプの周りを水が均一に通過してくれれば良いと思います。この点カミハタのTurbo-Twistなんかは、水が紫外線ランプの周りを、渦巻状に回るので均等に紫外線が当たる工夫がされ、構造的には良い様に思えます。また、水が紫外線ランプを回るように進むことで、水が紫外線を吸収する時間を少しでも長くしているように思えます。50L/分で水も回せる仕様ですから、価格の割には効果があるかも・・・。

Aポンプの流量
 殺菌灯に飼育水を流す適合ポンプの流量には注意が必要です。
流量が少な過ぎると、飼育水に時間を掛けて紫外線を当てられるため、殺菌灯内の殺菌率は上がりますが、水槽内の菌の増殖に追いつかなくなることが考えられます。逆に流量が多過ぎると、殺菌されないままの飼育水が殺菌灯から出ていくため、殺菌灯内の殺菌率が低下して、水槽内の菌の増殖に追いつかなくなります。
 各メーカーは、殺菌灯を効率良く使用するための流量を実験して決めて、取り扱い説明書に載せているはずですから、そこに記載された適合ポンプを使用することを奨めます。

B水温上昇
 殺菌灯は、本体やポンプから熱を出すため水温上昇を招きます。このため、夏場を考えるとクーラーの見直しが必要になることがあります。

C生体の移動
 殺菌能力(W数)が大き過ぎても、生体への影響はないと思います。ただし、殺菌灯を設置していた水槽から、殺菌灯を設置していない水槽へ生体を移する場合、生体自身の病気に対する抵抗力が低下していますから注意が必要です。

Dバクテリアへの影響
 既に立ち上った水槽の濾過バクテリアは、ほとんどライブロック/ライブサンドに繁殖しているため、飼育水内を浮遊しているバクテリアは少ないので、殺菌灯を点灯しても問題ありません。でも水槽を立ち上げ中は、浮遊しているバクテリアが多く、これらを殺菌してしまうと濾過の立ち上がりが遅くなります。このため点灯しない方が良いです。殺菌灯の点灯は、早くてもアンモニア,亜硝酸がゼロになってからでしょうか。


(4)ベルリンシステムにおける殺菌灯
 ベルリンシステムをはじめとするナチュラルシステムでは、植物性プランクトンや動物性プランクトンの存在は重要とされています。殺菌灯は、水槽内に存在するこれらプランクトンを死滅させますから、ベルリンシステムで殺菌灯を使うことは、意に反した邪道な行為のように思えます。しかし、ベルリンシステムの機器構成上、プランクトンは、PHやポンプで死滅させ、さらにはスキマーでほとんど取り除いているのではないでしょうか。
 私も当初、ベルリンシステムに殺菌灯を付けることに躊躇いがあって、構成に組み込みませんでした。しかし、現在私は、上記理由と有効性を認めて、殺菌灯を設置しています。設置当初は、使用して生体に異常があったら、すぐに外そうと思っていましたが、設置後数ヶ月経った今でも、まったく異常はみられません。それより水槽の状態が良くなったように思えるほどです。

 殺菌灯を付けることの一番の効果は、
「病気に対する安心感を得ること」でしょうか。(^^)
水の透明度が上がることは確かですが、殺菌効果が本当にあるのか判らないです。でも今まで病気は起きていません・・・。