17.酸化還元電位(ORP:Oxidation Reduction Potential)
ORPは、簡単に言うと「酸化」と「還元」の度合いを言います。ORP計で測定して、単位はmVで表します。ORPの値が+(プラス)方向にある程、「酸化」傾向にあり、−(マイナス)方向にある程、「還元」傾向にあります。
(1)「酸化」と「還元」とは
「酸化」と「還元」は、以下の反応を言います。
・酸素と化合して酸化物になる反応を「酸化」と呼び、酸化物が酸素を失う反応を「還元」と言います。
・水素を失う反応を「酸化」、水素と化合する反応が「還元」と言います。
・電子を失う反応を「酸化」、電子を受け取る反応を「還元」と言えます。
したがって、酸化還元反応が起こる時には、電子や水素、酸素を受け取る物質があれば、必ず電子や水素、酸素を失う物質があることになります。
身近な例で考えると、「酸化」は、海水で鉄が錆びたり、餌が腐ったりすることです。逆に「還元」は、水道水のカルキ(塩素)をハイポ(チオ硫酸ナトリウム)で中和する反応も「還元」です。またライブロック/ライブサンドの奥深くで行われている硝酸塩を窒素ガスに変える反応も「還元」です。人間の体の中で言うと、有害とされる活性酸素(人間の体を酸化させる悪玉)を中和する酵素の作用も「還元」です。
もう少し水槽環境での「酸化」と「還元」を考えると、バクテリア(アンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌)の呼吸(酸素)によって、アンモニアや亜硝酸を酸化して、硝酸イオン(硝酸塩)にしていく過程が酸化/酸化濾過です。これに対して、脱窒素菌によって硝酸イオンを窒素ガスにしていく過程が還元/脱窒素(還元)濾過です。
<アンモニア酸化菌による酸化>
NH2(アンモニア) + (3/2)O2(酸素)⇒NO2-(亜硝酸イオン)+ H2O + H+
この場合、NH2(アンモニア)がO(酸素)と化合して、NO2-(亜硝酸イオン)になる反応を「酸化」と言います。
<脱窒素菌による還元>
5CH3OH(メタノール) + 6NO3-(硝酸イオン) + 6H+ ⇒ 5CO2 + 3N2↑(窒素ガス) + 7H2O
この場合、6NO3−(硝酸イオン)がO(酸素)を失って、3N2(窒素ガス)になる反応を「還元」と言います。
なお本来なら、還元濾過に使われるのはデニボールですが、デニボールが何者かわからないので、工業用の脱窒素処理が使われているメタノールを例にしてます。
(2)ORPの水槽への影響
水槽内では、海水内に残餌,糞,生物の死骸等の有機物が多いほど、ORPは下がります。これは上記のように、有機物をバクテリアが、アンモニアや亜硝酸を酸化して、硝酸イオン(硝酸塩)にしているからです。逆に、有機物が少なくて酸素(O2)、オゾン(O3)などの酸化剤が多いほどORPは上がります。言い変えると、ORPが低いほど有機物などの有害な成分が多い水で、高いほど清浄された水と言うことになります。ただし、高すぎるORPは、魚の鰓や皮膚を傷つける等生体に影響を与えるようです。
ORPが400mVの水槽とORPが300mVの水槽は、生体にとって何が違うでしょう。私達が飼育している珊瑚や魚には違いはないと思います。安定した水槽内の生体は、これらのORPへ既に適応しており、微生物にとっては酸化されるか、されないかの生死の境かも知れませんが、珊瑚や魚にとっては、影響ない範囲だと思います。これが300mV⇔400mVへ急変したとなると話は別です。
ORPが300mVの水槽内は、有機物を取り除くバクテリアに依存している割合が多く、ORPが400mVの水槽は、有機物を取り除くプロティンスキマーに依存している割合が多いと思います。
どういうことかと言いますと、水槽内で生体が死んだ時のことを考えて下さい。ORPが400mVの水槽は、バクテリアの餌となる有機物の発生によって、バクテリアの活動が活発になってORPが一時的に下がります。それと並行して有機物は、プロテインスキマーよって除去されるので、比較的短時間で元のORPへ戻ると思います。
ところがORPが300mVの水槽は、生体が死んだことで有機物が発生してORPが下がります。するとプロテインスキマーでも有機物を除去しますが、通常でも除去仕切れずに有機物が残っている状態ですから、さらに除去できない有機物が増加することになります。このため益々ORPは下降します。また、この有機物を酸化(濾過)するために、バクテリアの活動が活発になります。休止中のバクテリアを投入したり、増殖したりして有機物を酸化します。その結果、アンモニア,亜硝酸が大量発生して、水槽の水質が悪化することになります。この水質の悪化は、生体の命を怯えさせることになります。特に弱い生体程、水質の悪化は致命的で、その生体までもが死滅して、さらに水質を悪化させることになります。
水槽内で何も問題が起きなければ、ORPは低くても良いですが、何か問題が起きた時のことを考慮すると、ORPが高い方が良いと思います。これも、問題発生の要因が小さければ良いですが、大きい場合は、その原因その物を排除しないと、いくらORPが高くても対処できません。
具体的には、どのくらいのORPが良いのかは、水槽環境によって、違いますから断定はできないものです。私は、400mV〜450mVを保つようにしています。
(3)ORPの変動
ORPは、水槽内の環境変化に応じて変動します。主な変動を下表に載せます。
注)変動1・・・「事象」発生数分後のORP値,変動2・・・変動2から数時間後のORP値
上表で、最も気を付けなければならない事象が、「生体死亡A」です。何らかの原因で☆になった生体が腐敗して、アンモニア→亜硝酸へと水質を悪くさせている状態です。プロテインスキマー,濾過の能力を超えてしまっているため、水質は悪くなる一方でORPが下降を続けます。水質悪化の原因を一刻も早く取除き換水しないと、水槽崩壊へ繋がる恐い状態です。
生体追加など環境変化はないのに、ORP値は徐々に下がる傾向にあります。これは、水槽内の生体の成長に伴い、給餌量や排出物が増えたことと、消費されなかった栄養塩が蓄積されることによって、ORPは下がるのだと思います。このORPの変化から、大量換水の目安にもなり、その大量換水でも改善できない場合、生体の成長に見合ったプロテインスキマーの能力UP時期の目安にもなると思います。
(4)高ORPの維持には
ORPを上げるには、どのようにすれば良いのでしょう。「有機物が少なくて酸素、オゾンなどの酸化剤が多い」と上記した通り、有機物が少なくて酸素が多い飼育水へすることだと思います。
@プロテインスキマー
プロテインスキマーで有機物を取り除き爆気することで、有機物の少ない酸素を多く含んだ飼育水にすることができると思います。プロテインスキマーは、大量の水・酸素を送り込める大きいポンプに対応した高性能タイプ程、ORPを上げやすいようです。またプロテインスキマーで発生させる泡は、細かい方が効率良く有機物を除去できるようです。
A殺菌灯
殺菌灯を使用して、紫外線で有機物を分解することで、高いORPを維持することができます。
Bオゾナイザー
オゾナイザーを使用して、オゾンの強力な酸化力で有機物を分解することで、高いORPを維持することができます。
C換水
大量換水(私の場合40L/日×3日間)を連続して行うことで、水槽内に蓄積された栄養塩が排水され、ORPを上げることができると思います。
D水流の見直し
水の流れない領域、そこは腐敗物(有機物)の発生源となっています。パワーヘッドを工夫して淀みのない水流を作ることで、ORPを上げることができます。
(5)ORP計の有効性
ORPは、水質が安定すると、その水槽の環境に合った値で、ほぼ安定するはずですから、水槽内の生体も、そのORPで飼育できるはずです。そして、順調に飼育していた環境で、水槽内に何か変化があると、ORPが変動します。この時飼育者は、ORPの低下によって、水槽内の異常を早く察知することが出来るはずです。ORPは、水質悪化の原因をできるだけ早く取り除くためのツールとして使えば良いと思います。
ベテランのアクアリストになると水槽が安定して、何かあっても水槽の状態を観ただけで、「何かおかしい」とわかるようになるそうです。私を含め初心者のアクアリストは、まだまだ難しい領域だと思います。でも、おかしいと判断できる状態(水質)になるまで、時間が経過していると思います。その時でもORPの低下はもっと前から始まっているはずです・・・。