16.ミドリイシを飼育する水質について

 私がアクアリウムの世界に飛び込んで、これまでどのくらいの水質のパラメータが出てきたでしょうか。
 熱帯魚を始めた頃と言えば、「水道水に混在しているカルキが、ネオンテトラに悪いから中和するように」と、ショップの店員さんの言うがままに「ハイポ(チオ硫酸ナトリウム)」でカルキ抜きを行っていました。私にとっては、これが始めて水質を意識した行為だったと思います。
 そして、ネオンテトラを飼育しながら、アンモニア,亜硝酸,硝酸塩のパラメータを知るまで、何匹のネオンテトラを犠牲にしてしまったでしょう。続いて始めた水草水槽では、順調に育つ水草と、すぐに溶けてしまう水草があって原因を調べたら、pHとGHの水質パラメータがあることを知りました。さらに、ディスカスを始めて、飼育水のpHが突然急落してしまう現象に驚いて、KHの重要性を知りました。またワイルドディスカスの生息するアマゾン河近辺の水質は、不純物の少ない水質であることを知って、TDS(不純物濃度)を知りました。この時、初めてROを使用しました。


 さて現在、海水を始めていくつの水質のパラメータが出てきたでしょう。いえ、これからも出てくるでしょう。
 海水を始めた頃、「ベルリン水槽は、無換水で長期の維持が可能である」ようなことが掲示板で話題になっていました。そこでは無換水でどれくらい飼育できたかを自慢しているような状態でした。(当時見ていたHPが悪かった?)当然、初心者の私も、ベルリン式=無換水と思い込んでいました。ディスカスの飼育で毎日1/2の換水をやっていた私には、夢のような話しでしたから。(笑)
 しばらくして、比較的飼育の容易な好日性ソフトコーラルを中心に始めた珊瑚水槽も、ある程度飼育できるようになっていました。その頃は、当然無換水を目指していましたから、「足し水」のみを行うつもりでしたが、不安だったので1回/月ほど換水を行っていました。
 ソフトコーラルの飼育が順調になると欲が出るもので、やはりミドリイシを飼育したくなり、ついにミドリイシに手を出してしまいました。


 ミドリイシの飼育を始めて、水質について色々調べてみると、
アンモニア・亜硝酸は無く、硝酸塩とリン酸の濃度が極少で、且つカルシウム濃度とKHが高い水質が良いことがわかりました。そして、ミドリイシを飼育する水質として、「貧栄養で微量元素の充分な」と言う言葉に集約されました。具体的に高カルシウム・高KHとは?貧栄養とは?微量元素とは?どういうことでしょう。

(1)高KH・カルシウム濃度
 KH(炭酸塩硬度,炭酸水素イオン濃度)とカルシウムイオンは、ミドリイシが骨格を形成するために必要な成分です。カルシウムイオンは380mg〜420mgの濃度を、KHは9〜12dKHと高めに保つことが理想とされています。しかし、カルシウム濃度とKHは、反比例の関係にあるため、両方の値を高く保つことは難しいです。それは、カルシウムイオンと炭酸水素イオンが反応して炭酸カルシウムになって沈殿するからです。つまり、カルシウム(例えば、カルクワッサー)を添加すると海水中の炭酸水素イオン(KH)と反応して、炭酸カルシウム(CaCO3)となり沈殿して、炭酸水素イオンが減り、結果KHが下がり、カルシウム濃度は上がります。逆にKH上昇剤(バッファ)を使うと、KHは上がりますが、カルシウム濃度は下がります。

  
Ca+
+(カルシウムイオン) + 2HCO3-(炭酸水素イオン:KH) → CaCO3↓(炭酸カルシウム) 
                                                     + CO2 + 2


 高KH・カルシウム濃度を保つ方法としては、この両方を同時に添加するカルシウムリアクターの使用をお奨めします。ただカルシウムリアクターの性能や添加する水槽の水質によっては、両方の値を高く保つことが難しい場合が多いですから、
高KHを優先させます。カルシウム濃度が低くてもミドリイシに大きな影響はありませんが、KH不足が生じるとミドリイシの成長が止まるばかりか、調子を崩し根元から白化が始まります。根元からの白化の原因で多いのがKH不足と光不足です。

(2)貧栄養化について
 貧栄養な水とは、栄養塩の少ない水のことを言います。アクアで栄養塩というと、アンモニアイオン(NH4),二酸化窒素/亜硝酸(NO2),硝酸イオン(NO3),リン酸イオン(PO4),ケイ素(Si)などを言います。特に硝酸塩,リン酸塩,ケイ酸塩は、植物性プランクトンが摂取して増殖することによって、植物性プランクトを摂取する動物プランクトンや魚などの海洋資源の動向と密着な関係があります。ミドリイシの生息する珊瑚礁は、海洋資源が豊富で、植物性プランクトンも豊富に存在していますから、この植物性プランクトンの栄養素となるの栄養塩は、大量に消費されるのことになります。このため珊瑚礁のある海は、貧栄養化な水になります。
 ミドリイシを飼育する水質は、「貧栄養で微量元素の充分な」水質にすることが良いことは上記しましたが、具体的に貧栄養にするためには、どのようにすれば良いのでしょう。

@濾過システムを最大限に機能させることだと思います。
 つまり、アンモニア→亜硝酸→硝酸塩→窒素という濾過サイクルを機能させることです。ここでベルリン式で大切なことが、プロテインスキマーになります。アンモニアに変わる前に、いかに多くの有機物をスキマーで取り除くかです。試薬では「0」を示す、アンモニア,亜硝酸,硝酸塩ですが、試薬で四捨五入されただけで微小に残っていますから、スキマーの性能は重要です。

Aスキマーでも除去できない、リン酸,ケイ素は、吸着剤を使って取り除くことになります。 リン酸については、カルクワッサーを添加することで、スキマーで取除く方法もあります。

Bそれでも栄養塩は、蓄積されますから定期的な大量換水を行います。大量と言っても、水質を大きく変えないように、例えば私の場合40Lの換水を連続3日間行っています。

以上、ミドリイシを飼育するために必要な貧栄養化策は、このようになります。
 さらにミドリイシの色揚げ狙うには、スキマーの性能が大事になります。高性能なスキマーは、海水の微量元素まで、取り除いてしまうほどですから、貧栄養化には欠かせません。微量元素まで、取り除いてしまう高性能スキマーへ賛否両論はあると思いますが・・・。

(3)微量元素について
  微量元素は、海水1kg中に1mg以下しか含まれないものを微量元素と言います。1mgより多く含まれる元素を主要元素とも言います。主要元素には、塩素,ナトリウム,硫黄,マグネシューム,カルシューム,カリウム,バリウム,臭素,ストロンチューム,ホウ素,フッ素があります。これら主要元素以外が全て微量元素という事になります。具体的には、鉛,カドミウム,銅,鉄,マンガン,ニッケル,亜鉛,ヒ素,モリブデンなど微量元素になります。
 微量元素は、添加剤を使っている人が多いと思います。私も無換水を目指していましたから、すべて添加剤に頼っていました。ところが微量元素を添加するといっても、上記の通り種類が多いですから、全ての微量元素を添加しようと思って揃えていたら添加剤が7本にもなってしまいました。これでも、ミドリイシに必要な主要元素,微量元素をすべて補っているのか疑問が残ります。海水には、ミドリイシに必要な知られていない微量元素が他にもあるかも知れませんから。
 しばらく月1回の換水をしながら、添加剤を使っていた私ですが、水槽内でどの微量元素がどの位消費されて、どれが足りないのか、どれをどの位添加すれば良いのか、わからないまま続けていました。また添加するタイミングも、毎日添加したり、週1回になったりとバラバラで・・・「いったい水槽の水の状態は、どうなっているのだろう」と不安になりました。
 だったら「海水の成分を含む人工海水を添加すれば良い」という結論に至りました。人工海水は元々、海からの塩を精製して製造されるのですから、海水に含まれるすべての微量元素は人工海水にも含まれているはずです。水槽の状態が何かおかしいと思った時、皆さん何をやりますか?ほとんどの方が、換水をやると思います。換水をやったら状態が良くなったという話も多く聞きます。この換水がミドリイシに悪い訳がありません。無論水質を大きく変えるような大量換水を除いては。
 私は、添加する量とタイミングも一定にするために、水槽から10Lの海水を抜いて、10Lの新しい人工海水を毎日添加するようにしました。実際、毎日換水をやり始めてから、水槽の状態は良いです。

(4)ミドリイシの色揚げに向いた水質
 今まで、ミドリイシを飼育するための水質について載せましたが、最後に私が思うミドリイシの色揚げに向いた水質について載せたいと思います。
 ミドリイシを色揚げするために、私がやっていることを簡単に書くと、「プロテインスキマーで貧栄養化して、カルシウムリアクターで高KHを維持しながら、毎日の少量換水を行う」ことに集約されます。毎日少量の換水を行うのは、全ての微量元素を簡単に添加できるからです。さらに言うと、「殺菌灯でさらに貧栄養化して、水槽内に蓄積された栄養塩を減らす定期的な連続換水」も効果があるとと思います。当然、強いメタハラがある前提です。
 珊瑚礁のように植物性プランクトンが豊富に存在して、ミドリイシにとって余分な栄養塩を消費してくれる環境を、水槽内へ創れれば最良と思います。しかし、閉ざされた水槽内で栄養塩を植物性プランクトンだけで、安定して保つことは難しく、藻類の大量発生をまねくかもしれません。ですから、プロテインスキマーで余分な栄養塩を抑えながら、ミドリイシが消費したり、プロテインスキマーで運悪く取除かれた微量元素の添加が必要なのではないかと思います。