4.プロテインスキマーについて
プロテインスキマーは、海水に溶け込んだタンパク質等を除去する装置です。
海水に空気を送り込むと空気と水の境ができて、その境面へ海水に溶け込んでいる物質が集まる特性があります。その特性を利用して、筒状の容器の中にポンプで海水を送り、さらに空気を送り込んで泡を発生させます。海水内の微細な物質は、泡に触れると泡の表面に吸着されて泡と共に上昇します。プロテインスキマーの上部では泡が積み重なり合って、行き場を失った泡は、上部に設けられた汚水カップに溜まります。
Precision Marine BULLET−3
プロテインスキマーには、主に泡の発生方法によって「エアーストーン方式」「ベンチュリー方式」「ダウンドラフト方式」などあります。プロテインスキマーに送り込める海水の量と、発生できる泡の量・細かさによって、性能が違うようです。
プロテインスキマー選びのポイントと調整方法を以下のように考えています。
(1)プロテインスキマー選びと調整
@発生させる泡の大きさ
プロテインスキマーで発生させる泡の大きさは、大き過ぎると表面積が狭く(1個の大きな泡より、小さい泡が複数集まった方が、表面積は大きい)なるので、汚れを吸着する量が少なくなります。しかも泡が大きいと浮力が強くなるので、直ぐに水面へ達してしまいます。これでは水と接触する時間が短くて、汚れを吸着する前に水面へ達してしまいます。
逆に泡が小さ過ぎると大き目の汚れは吸着しにくくなります。また微小の汚れを吸着しても、泡の浮力が弱いため水と一緒にプロテインスキマーからサンプ水槽へ流れて出てしまいます。泡の大きさは、直径0.5〜1.0mmが適正のようです。
A発生させる泡の量
プロテインスキマーで発生させる泡の量は、少ないと汚れと接触する泡の数が少なくなるため、泡に取り込まれない汚れた水がプロテインスキマーを通り抜ける量が多くなります。結果的にプロテインスキマーの効率は良くないことになります。逆に泡が多過ぎると、水分を多く含んだ泡が汚水カップまで達してしまい、汚れだけでなく海水もいっしょに取る事になります。これは海水に含まれる主要元素,微量元素のような珊瑚に必要な栄養まで取除くことになりかねません。汚れだけ取除き濃厚な汚水が取れるプロテインスキマーと調整が必要と思います。
B泡が水と接触している時間
プロテインスキマーで発生させる泡は、筒内で水と接触している時間が長い程、汚れが泡に吸着しやすくなります。このためプロテインスキマーは、筒が長い程、能力の高いプロテインスキマーを作りやすくになります。ただ大き過ぎると水槽下のサンプ水槽に収まらず、水槽台の横に置くことになります。実際、高性能なプロテインスキマー程大きく、水槽の横に置くことを前提で作られています。
Cプロテインスキマーへ流す水量
ベルリン水槽では、有機物がアンモニアに変わって水質を悪くする前に、できるだけ早く・多くの有機物を取除く必要があります。このためには、ポンプで大量の海水をプロテインスキマーへ送り込んで、できるだけ早く綺麗な水へ処理してやれば良いことになります。つまり、「能力の良いプロテインスキマー程、大量の海水を送り込んで、短時間で汚れを取る能力が備わっている」ことになります。
もし能力の低いプロテインスキマーに、大型ポンプで無理やり大量の海水を送り込んだ場合どうなるでしょう。水位が異常に上昇して、良質の泡を調整するのは難しく、出来たとしてもエア量を極端に絞って泡の量の少ない調整になってしまうと思います。泡が少ない上に、水量が多いので泡と水の接触時間も短くなることから、汚れの取らないままの水がプロテインスキマーから出てしまいます。これでは、大型ポンプのランニングコストだけ掛かって、水は綺麗にならないことになります。
ベルリン式の場合、プロテインスキマーに表示された対応総水量の半分を適応限界と考えた方が良いと思います。(総水量が400Lの環境であれば、800L以上の対応能力を持ったプロテインスキマーを選択)また、総水量に見合ったプロテインスキマーを選択後は、そのプロテインスキマーの推奨するポンプを使用することが大切だと思います。さらに言うと使うプロテインスキマーの最大限の能力は、ポンプの水量が多いほど引き出しやすいですから、実際使われている方のポンプを参考にすることも必要だと思います。ポンプの表示水量は同じでもトルクが違いますから、負荷の掛かるプロテインスキマーは、ポンプのカタログ性能値だけでは選択が難しいと思います。
(2)プロテインスキマーの必要性
私は、性能の良いプロテインスキマーの方が良いと思っています。しかし性能が良いプロテインスキマー程、高価になります。また、海水に含まれる珊瑚に必要な微量元素までも取り除く量が多くなると言われていますから賛否両論です。
私は、「何かの運命で我家に来てしまった貴重な珊瑚達ですから、できるだけ良い環境で飼育してやりたい」と思っています。ですからプロテイスキマーも性能の良い物を選びました。それによって取除かれる微量元素は、毎日の少量換水で補っています。実際には、毎日10Lの少量換水と週末の40L換水と毎月40L×3日の連続換水を行っています。珊瑚への愛着があれば、ある程度の機器投資と労を惜しまない換水が必要ではないかと思っています。
プロテインスキマーは、水槽が順調に立ち上ると後々不要になると言う人もいます。無給餌,少数魚の環境なら、もしかしたら可能かも知れません?。プロテインスキマーを停止して、しばらくは変化を感じないと思いますが、それが長期に渡るとどうでしょうか。(硝酸塩が蓄積されるまで時間が掛かりますから)ベルリン水槽の生物濾過は、モナコ/DSB水槽と違い、プロテインスキマーで取除けなかった有機物を酸化・還元する濾過能力しか備わっていないのですから。
また、高性能なプロテインスキマーに頼らないで、珊瑚を飼育できることを飼育者のレベルが高いと、思われている方もいるようです。言替えるとローパワーのプロテインスキマーがゆえに生じる問題を、飼育者の技量で解決できることが良い飼育者ように・・・。私も、水槽内で発生する問題をすべて自分の技量で解決することができたら素晴らしいことだと思っています。でも、それは飼育環境を整えた上で発生する問題の解決であって、機器に原因があるのだったらその要因を取除くことではないでしょうか。つまり、問題が起こり難い環境(機器)にすることが前提にあると思っています。
「機器に頼らずに飼育者のレベルを上げろ!」確かにそれも必要なことです。でもよく考えてみて下さい。環境の整っていない水槽で、飼育者は生じた問題を解決したことへの満足感に浸っているかもしれませんが、中にいる生体にとっては、頻繁に生死の危機にさらされる可能性が高い訳ですから、たまったものではありません。
順調に立ち上がった水槽は、その水槽に用意された環境で安定するはずです。つまり「飼育する」と言う行為は、給餌や添加剤など日常当たり前のことを除けば、基本的には換水だけになると思います。もし換水以外にすることがあるとしたら、その飼育環境のどこかに負担が掛かっているのではないでしょうか。増してや、その負担によって発生する問題を解決することを「飼育している」と思っている方がいるとしたら、そんな実験的な飼育はやめて、一刻も早く珊瑚に安定した環境を作って欲しいと思っています。
勘違いして欲しくないのが、ローパワーのプロテインスキマーが良くないと言っている訳ではなく、「問題の起きることが良くない」と言っていることです。水槽の状態(生体数,成長度合い,水の汚れ具合,・・・)を把握して、さらに自身の使っているプロテインスキマーの能力を理解して、能力不足を換水で補うことで、安定した水槽をキープする。これができている方が、ベテランの飼育者だと思っています。
私は、珊瑚水槽を始めた頃は、ローパワーのプロテインスキマーを使って、ミドリイシを飼育していましたから、「高性能なプロテインスキマーを使わないと珊瑚が飼育できない」とは思っていません。使っているプロテインスキマーの能力に見合った、水量・生体数以下であれば、まずは大丈夫、それ以上でも飼育可能だと思っています。ただ、広大な海と違い水槽内は、ちょっとした事故で水質が変化しやすいですから、ギリギリの濾過能力(プロテインスキマー)よりも、余裕を持った濾過能力で飼育して欲しいと思っています。このためには、水量・生体量に見合った能力+α のプロテインスキマーを選ぶことだと思います。重要なことは、この+α をどこまで想定するかです。生体は成長しますから、それを見越して能力に余裕を持たせる必要があります。また突然の生体の死によって水質が悪化した時など、プロテインスキマーの性能差を痛感すると思います。さらに将来的に水槽を大きくすることを考えているのでしたら、当初から大き目のプロテインスキマーを選んだ方が、買い替えによる二重投資をしなくて済みます。
私は、以前「スパイラルプロテインスキマー」を使っていました。総水量400L強(ライブロック等あるので実際は300Lくらい)の割には能力の低いプロテインスキマーかなと思う時もありました。でもこの程度の水量なら十分対応してくれる良いプロテインスキマーだと思っていました。実際水槽を立上げてから、約8ヶ月順調に飼育できていました。
ある時、どうしても10日程家を空けなくてはならないことがありました。この時、真っ先に不安に思ったのが、プロテインスキマーでした。毎日チェックしている時は、さほど気になりませんでしたが、10日間も留守にするとなると・・・不安を持ったまま出かけました。そして、家に戻ってみると、心配は現実に・・・水槽は悲惨な状況になっていました。この時プロテインスキマーの大切さを痛感しました。(「もし、あなたが10日ほど家を留守にしても、今のスキマーで心配はないですか?」)
この事故を切っ掛けに、1600Lまで対応可能なプロテインスキマーへ変更しました。変更して効果はすぐにわかりました。抽象的な言い方しかできませんが、水の輝きが変わったことが、すぐわかりました。そして、ミドリイシの状態も以前に比べて良くなり、色も変わってきました。
(3)ミドリイシの色揚げへの役割
ショップに入荷直後の綺麗なミドリイシを買って、自分の水槽に入れると、最初は綺麗だったミドリイシが次第に褐色化してしまうことがあります。私の以前の環境も、同じような状態でした。確かにミドリイシは、元気にポリプも出して、成長もしていましたから、「私は、ミドリイシを飼育している」と思っていました。でも、ミドリイシが綺麗じゃないんです。
そして「ミドリイシって、こんなものなんだ!」と思い込み、次第に「ただ成長を見守るだけのミドリイシの飼育」にアクアへの興味すら薄れ掛けていました。そんなある日、ベテランアクアリストの方の水槽を拝見する機会を頂き、そちらで拝見した水槽で、ミドリイシ達が創り出す小さな珊瑚礁に感動しました。と同時に自分の水槽環境と技量の至らなさに、目から鱗が落ちた感じがしました。
これを切っ掛けに、いつの頃からか「綺麗なままのミドリイシを維持して、さらに色揚げしたい」と思うようになりました。つまり、「ミドリイシを飼育するだけの」飼育スタイルから「ミドリイシを飼育して色揚げする」飼育スタイルへ変わっていました。
誤解しないで欲しいのが、この飼育スタイルは、私の考え方ですから、「これがミドリイシの飼育方法だ!」などと、奨めている訳ではありません。
ミドリイシが褐色化する原因は、プロテインスキマーの能力不足か、光不足にあることが多いと思います。
ミドリイシは、元来貧栄養化な海で、豊かな太陽光を浴びて生息しています。「貧栄養化な海」とは、栄養塩の少ない、つまり硝酸イオン(NO3),リン酸イオン(PO4),ケイ素(Si)などが少ない水質の海です。ミドリイシの生息する珊瑚礁は、植物性プランクトンや、それを捕食する動物性プランクトン,魚など様々な生物が食物連鎖を持って豊富に生息しています。この食物連鎖の起源である植物性プランクトンの栄養となるのが栄養塩です。つまり豊富な植物性プランクトンによって、栄養塩が消費されるので、ミドリイシの生息する珊瑚礁は貧栄養化な海なります。
水槽内ではどうでしょうか。「貧栄養化な水」と「強い光」をどのようにすれば再現できるでしょうか。「強い光」の実現には、メタハラを増すことで可能と言うことはすぐに判ります。「貧栄養化な水」を再現するには・・・。水槽内を貧栄養化するには、プロテインスキマーによって、余計な栄養塩を生み出す有機物を取り除くことで再現できると思います。ミドリイシは、褐虫藻と共生していて、褐虫藻が光合成によって作ったエネルギーをミドリイシがもらっていることはご存知だと思います。富栄養化な水槽では、ミドリイシの持つ褐虫藻が肥大化して、ミドリイシ本来の色を覆ってしまうために、褐色化したミドリイシに見えやすいです。また、光が弱いとミドリイシは、自身に必要なエネルギーを得るために、褐虫藻を増殖させます。その結果、褐色化したミドリイシになります。
強力なメタハラだけでも、ミドイシの色揚げはできると思いますが、「貧栄養化な水」と「強い光」を両立させた環境のミドリイシの色合いは格別なものだと思います。
ミドリイシが褐色化して、悩んでいる方は、プロテインスキマーとメタハラを見直して見ることも解決策の1つだと思います。ただ、色揚げすることが、ミドリイシにとって良いことだとは思いません。飼育者のエゴだと言う事を認識して欲しいです。