2.海水水槽での飼育について

 海水水槽を立ち上げる上で重要なことは、まず
「自分が水槽で何を飼いたい」のか、目指す水槽をはっきりさせることだと思います。海水水槽は、大きく分けて「海水魚メインの水槽」「珊瑚メインの水槽」があるとと思います。この2つのどちらにするかによって、飼育環境・飼育スタイルが分かれると思います。
 閉ざされた水槽の中では、海水は劣化し(汚れ)ます。この劣化は魚の数・サイズ(残餌・糞・尿の量)によって進行スピードが異なります。ですから魚の数・サイズに応じた能力を持った濾過槽を設けて、海水を綺麗にしてやる必要があります。この濾過槽は、魚にとっては比較的無害な硝酸塩へ濾過してくれます。しかし、この硝酸塩の多い海水は、魚にとっては許容範囲の水質でも、綺麗な水を好む珊瑚にとっては生息しにくい環境です。また給餌等によって発生する燐酸は、濾過槽でも除去できませんから、海水魚メインの水槽は、硝酸塩・燐酸塩の蓄積によって、飼育できる珊瑚の種類が少なくなってしまいます。つまり、珊瑚をメインに飼育する場合、海水魚を飼育する時より、綺麗な水質が必要になり飼育が難しくなります。

(1)海水魚メインの飼育
 「海水魚メインの水槽」を考えている人は、今までの淡水魚の飼育環境(通常濾過)と基本的な考え方は同じだと思います。つまり、濾過槽を設けて、水槽内で魚によって汚れた水を、濾過槽の濾材に繁殖させたバクテリアによって、
アンモニア→亜硝酸→硝酸塩へ変える環境です。違うのは、飼育水が淡水から海水になったことで、水質管理のパラメータに「比重」が加わることかと思います。(実際にはもっと複雑だと思いますか゛...)
 水槽を立ち上げて濾過ができるまで、アンモニア・亜硝酸濃度を監視しながら、濃度が高くなったら水換えを行い、濾材にバクテリアが十分繁殖するまで待ちます。そして濾過が出来たら定期的な水換えを行う飼育方法は、「海水魚メイン」の場合も淡水と変わらないと思います。飼育環境は、濾過槽,ポンプ,他の器機が海水対応になっていれば問題ないと思います。
 注意することは、同サイズの水槽で、海水水槽と淡水水槽を比べると、海水水槽の方が淡水水槽に比べて、水質管理が難しいと言うことです。特に水槽が小型になる程難しくなります。それは、淡水に比べて海水は、酸素が溶けにくいため、溶存酸素濃度が低くなるからです。これは海水魚自身も酸欠になりやすいのは当然ですが、濾過システムへも大きく影響します。酸素量の減少により濾材にバクテリアが繁殖しにくいばかりか、バクテリアの酸化濾過に必要な酸素が少ないことから濾過能力そのものが鈍くなります。従って海水の場合、濾材を多めにして、バクテリアの絶対数を多くする必要があります。つまり
海水水槽の濾過は、立ち上がりが遅く、濾過能力も淡水に比べて低いことになります。
 さらに、海水魚は淡水魚に比べて水質の変化に弱いと言うことです。降水量や降水範囲等、注がれる雨量で水質が大きく変わる川等に生息する淡水魚は急な環境変化に順応しやすいのですが、広大で水質の大きな変化はない海に生息する海水魚は、急な環境変化に順応できません。ですから海水魚は淡水魚に比べ水質の変化に敏感で、飼育が難しくなります。導入直後の水合わせをはじめとして日頃の水質管理は淡水以上の慎重さが必要で、何事もゆっくり事を進めることが重要です。

(2)珊瑚メインの飼育
 「珊瑚メインの水槽」を考えている人は、ハードコーラルと呼ばれる珊瑚の中で、ミドリイシ科,ハナヤサイサンゴ科の属するSPS(Small Polyped Stony)を飼うか飼わないかによって、飼育環境が変わると思います。ミドリイシ科,ハナヤサイサンゴ科を飼わないのであれば、「海水魚メイン」と同じ環境、つまり通常濾過で飼育できる珊瑚が多いと思います。この場合、魚が少なく無給餌/餌を少なくする方が、良い結果が出やすいと思います。
 ミドリイシ科,ハナヤサイサンゴ科は、硝酸塩を多く発生する通常濾過の環境では、飼育そのものもが初心者には難しく、栄養塩が多くなりやすいですから、綺麗なミドリイシを維持することも、さらに難しくなります。でも、ベテランの方は、通常濾過でミドリイシを飼われている人もいます。その方々は、適度に換水を行い硝酸塩・燐酸を取除くことで、ミドリイシを飼育できる水質を維持しているからだと思います。この換水の大変さを楽にする飼育方法が、以降で紹介する
「ベルリン式飼育環境」です。
 ミドリイシ科,ハナヤサイサンゴ科の珊瑚は、珊瑚の飼育を始めた人なら、一度は飼育してみたくなる種類だと思います。もし珊瑚の飼育を始めようと思っている方で、既に少しでもミドリイシに興味ある方は、飼育環境を今から「ベルリン式飼育環境」を意識した設備を検討した方が、無駄な投資が少なくて済むと思います。ただし、淡水水槽・海水魚メインの水槽に比べて相当の設備投資が必要になります。

(3)ベルリン式飼育環境
 ここで紹介するのは、ミドリイシ科,ハナヤサイサンゴ科を含む、ほとんどの珊瑚を飼育する方法として、現在主流になっている
「ベルリン式」と呼ばれる飼育環境です。このベルリン式は、濾過システムの構造から、「珊瑚メイン」で魚は少な目に飼育することが特徴で、水流(潮),ライブロック(海の岩),ライブサンド(海の底砂),太陽光(メタハラ)など、自然の海に近い環境を水槽の中に、できるだけ創りだそうとしている飼育環境です。
 ベルリン式飼育環境は、淡水環境で常識とされる濾過槽を持たない環境で、この飼育環境を知った時、「濾過槽がなくてどうやって、水を濾過するんだろう。まさか毎日水換え??」と疑問を持ちました。これが当時ディスカス水槽の濾過システムに四苦八苦していた時のベルリン式飼育環境に対する第一印象でした。