この文書は,私が某所で吠えていた内容を大幅に加筆したものです。以下の内容には私の推測や妄想が含まれているため,一部正確ではないところもあります。
公開:2005.10.10/更新:2008.03.30
2004年9月末にNTTドコモの社長が定例記者会見でプリペイド携帯電話サービスの廃止を表明しました。契約数が落ち込んでいることと,犯罪に利用されることが多く日本の社会ではプリペイドは必要ないのではないか?というのがその理由とされています。さらに「ケータイWatch」によると,「プリペイド携帯のあり方を業界としてどうするか話し合いたい」という意向を示したとされていますが,日経のWebサイト(すでに削除)では「他社も同時にサービスをやめるのが望ましい」と発言したとあります。
実際にドコモの社長がどう発言したのかはわかりませんが,「犯罪防止」の「大義」をかかげて「あり方を話し合いたい」ということはやはり日経の伝えるとおり「ウチが止めるのだから,他社も一緒に止めて欲しい」という考えなのでしょう。プリペイド携帯電話については,ドコモが約9万台,auが約37万台の契約数があると公表されています。ボーダフォンとツーカーは非公開ですが,一説によるとボーダフォンで100万台以上,ツーカーで70-80万台程度の契約数があるといわれています。特にツーカーホン関西の「プリケーロング」はTVでのCMが流されているほどの「人気商品」です。適当な理由をつけて,自社で赤字であることを理由に好調(だと思われる)他社の同様なサービスの廃止を迫るというのは横暴以外の何ものでもありません。よくこんなことを平気で言えるものだと思っていたら,今度は「プリペイド携帯廃止法案」という話が突然出てきました。タイミングが良すぎます。
理由はドコモ社長が表明したものとほぼ同じで「犯罪防止の観点からプリペイド契約そのものを禁止する」という内容のようです。不思議なことにこのような法案提出の動きに対して,自民党と公明党はWebサイトを見る限り公式なコメントを出していません。以下は推測と妄想を総動員したものですが,ドコモ側から社長記者会見の前に,キャリア各社に対してプリペイド携帯の廃止について打診があったものの,まとまらなかったため「シェアトップ企業の利益と既得権益を守りたい人々」が国会議員に働きかけたのではないか,と思えます。しかもプリペイドにまつわる諸問題は今始まったばかりではありません。私はツーカーホン関西の「プリケーロング」をサービス開始とほぼ同時に購入しましたが,その時にすでに「本人確認書類」の提出を求められましたので,数年前には「問題」は認識されていたと思われます。それを今ごろになって「早急な規制が必要」と言い出すのはどう考えても変です。
さて「プリペイド携帯廃止論」の根拠は「犯罪に多用されている」ということです。では本当に『多用』されているのでしょうか?
平成16年に警察が認知したいわゆる「振り込め詐欺」事件は25000件だそうです。認知されていないものを合わせてもその倍の5万件程度だと考えられます。この事件で1件に1台使われたとすれば「振り込め詐欺」に使われたプリペイドは全体のわずか5%ですね。つまり90%以上のプリペイド携帯は犯罪とは無関係です。これで「プリペイド携帯は犯罪に多用されている」という結論がなぜ出るのか,私にはまったく理解できません。比率でも台数でも「犯罪に利用された自動車」の方が圧倒的に多いと思われます。
普通に携帯電話の契約をすると年に30000円以上の「維持費」(基本料金12ヶ月分)がかかりますが,プリペイドだとauで年10000円,ツーカーホン関西の「プリケーロング」では360日で5000円で,しかも全額通話料金に充当できる(ただし通話料金はちょっと高め)という比較にならないほどの安さです。この安さが「着信専用に使う」とか「使用頻度がかなり低い」と言った人たちに支持されているのは言うまでもありません。さてそのような中でドコモのプリペイド契約数が減少しているのはなぜでしょうか? 「本人確認を強化したから」とドコモは言っていますが,そうではなくて,客観的にみて他社のプリペイドと比べてドコモを選ぶメリットが皆無であることが理由だと思われます。「維持費」も他社に比べると高め(最低年36000円!)であり,しかもプリペイドカードである「モバイラーズチェック」にはプレミアがついていません。auの3000円のプリペイドカードでは3300円分の通話が可能なのに対し,ドコモの「モバイラーズチェック」は額面通り3000円の通話しかできません。「携帯電話の維持費をなるべく安くあげたい」というユーザーに向けた商品であるはずなのに,そのあたりをすべて無視していることは理解に苦しみます。ドコモがプリペイド携帯電話をやっているのは,おそらく「他社がやっているサービスをドコモだけがやらないのは格好悪い」という意識がどこかにあるからだ・・とも言われています。そう考えると「自分のところが止めるので,他社もいっしょに止めるべきだ」という発想がごく自然に出てくるのも当然なのでしょう。
この法律案の提出をたくらんでいるのは国会議員ですが,彼らはそもそも電話料金を払っているとは思えません。「国会議員の歳費,旅費,手当に関する法律」(昭和22年4月30日法律第30号)の第9条にこんな条文があります。
第九条 各議院の議長、副議長及び議員は、公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため、文書通信交通滞在費として月額百万円を受ける。
2 前項の文書通信交通滞在費については、その支給を受ける金額を標準として、租税その他の公課を課することができない。
つまり月に「通信費」として無条件に税金から100万円を支給されているのです。もちろん公務でという制限がついていますが,無条件に支給されている以上,「私的流用」されていてもわかりません。この金額がいつ定められたのは知りませんが,100万円といえばプリペイド携帯ですら7日間連続で通話できる金額です。IP電話(8.5円/3分)なら245日分でひと月では使い切れません。「交通滞在費」とありますが,国会議員は公務であればJRや航空運賃は無料(同法第十条)です。つまりプリペイド携帯ユーザーに相当な負担増をさせることを目論んでいる連中は,自分で電話代を負担したことがない連中でもあります。彼らに「プリペイド携帯の利便性やコスト」などのメリットが見えないのは当然です。
プリペイド携帯電話が問題とされている点は「匿名性」にあるとされています。つまり発信者が特定できないので・ということですが,発信者が特定できないのは公衆電話も同じですし,固定電話でも通常契約の携帯電話でも特定できるのは「電話の所有者」であって「発信者」つまり電話を使用した人ではありません。また最近の「架空請求事件」ではダイレクトメールが使われていますが,これも「差出人」が特定できません。ということで「匿名性」があるのはプリペイド携帯電話だけにあることではありませんし,それが問題になるのであれば,ここに上げたものはすべて「廃止対象」にしなければならないはずです。また匿名性だけが問題であるならば,それを打ち消す方法を考えれば良いだけの話です。たとえば,
で「匿名性」の問題はほぼ解決できると思います。あるいはプリペイドカードの方法を止めて,クレジットカード/銀行振替で前払いするという方法もあるかと思われます。要はいくらでもやりようがあるわけで,「犯罪に多用されている」という不正確な情報をもとに「じゃあ廃止すればいい」というのは,あまりにも短絡的すぎます。
以上,くだくだと書いてきましたが,いずれにせよ「プリペイド携帯電話」をわざわざ法律で禁止する積極的な理由はどこにもありませんので,この法案は単にNTTドコモの権益を守るために,競合零細企業の主要事業を叩きつぶすという,信じられない法案としか見えません。なぜこんな法案が「歓迎」されるのでしょうか?法案そのものについてはNTTドコモ自身の働きかけによるものかどうかは知りませんが,政府に近いところにはNTTグループに便宜を図ることによってなんらかの利益を得る人や団体があり,こういう人たちがNTTの利益を守るため,国民の財産(電話加入権)の没収を容認し,NTTドコモの利益を守るためプリペイド携帯の廃止を画策するとしか思えないのです。特定の民間企業にだけ便宜をはかることは公正な競争を阻害し,私たち消費者の不利益になります。なんで私たちが理由もなく不利益を被らなければいけないのでしょうか?。私にはまったく理解できません。よってプリペイド携帯廃止法案には断固として反対します。
プリペイド携帯については廃止ではなく規制を強化する方向に落ち着き。「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」という長い名前の法律が2005年5月に公布されましたが,実はまだ施行されていません。現実には各キャリアが本人確認を強化・徹底することにより怪しい回線の停止処置が始まっていますので,もう法律で規制する必要もないと思われます。犯罪の防止・抑止が目的ならば,さっさと施行すべきだと思いますが,これではやはりそういうことではなかった,と勘ぐられても仕方ないように思われます。