宝くじのパンフレットなどで「海外で発行されている宝くじを国内で購入するのは法律で禁じられています」と小さく書かれているのをよく見かけます。これは刑法で禁止されている「富くじの授受」の疑いがある,ということでこのような注意書きがされるようになったものと思われますが,実際には法律がどうのこうのという前に「海外宝くじ代行業者による詐欺被害」への注意喚起の意味合いのほうが大きいと思われます。では通信販売などで海外から直接現地の宝くじを買うことは本当に違法なのでしょうか? それについてちょっと考えてみることにします。ただしここで書かれていることは,いろいろと調べた上のことですが,私は法律の専門家ではありませんので,その正確性については保証できません。また「通信販売などで海外から直接現地の宝くじを買う行為」が違法かどうかを最終的に決めるのは裁判所なので,ここでは違法かどうかの結論はどうやっても出ません。念のため申し添えておきますが,このページは違法行為になるかも知れない「通信販売などで海外から直接現地の宝くじを買う行為」の推奨を目的とはしていません。またこのサイトの情報を利用されたことによる,いかなる結果についても一切関知いたしません。
お断り;上にも書いてあるように,このサイトでの結論は「海外宝くじの購入は違法と言われているけど,その根拠は意外とあいまいなのではないか?」という疑問であって,違法か合法かについての結論は出していません。繰り返しますが,私が判断する問題ではなく裁判所が決めることです。その点について誤解されないようにお願いします。
もうひとつお断り;あるWebサイトにこのページにリンクが掲載されていて,「ここにこう書いてあるから違法性はない」という解釈をされているようですが,そんなこと知りませんよ(笑)。理由は上に書いたとおりですし,何かトラブルに巻き込まれても一切関知いたしません。誤解なきようよろしくお願いします。(リンクそのものはご自由にどうぞ)
作成日2003.03.22/最終更新日 2010.02.28
まず,法律で禁じられているということで,その根拠をあげておきます。刑法187条です
国内での海外宝くじ購入は,この刑法187条第3項の「授受」に抵触するとされています。しかしいろいろと調べたのですが今のところ裁判所が刑法187条について明確な判断を示した例をみつけることができていません。ここで問題なのは,「富くじ」「発売」「取次」「授受」が具体的に何を(どのような行為を)指すのかが定義されていないことです。ということで,これらを用語の定義も裁判所の判断がないといけないということになります。
一般的な「富くじ」の意味は日本宝くじ協会の宝くじの沿革のページに詳しく書いてありますが,抽選によって当選者に賞金があたる仕組みのくじを指すとのことです。日本では1842年に廃止され,明治以降も刑法によって発売が禁じられているのは上に書いたとおりです。なお刑法第2条と第3条の規定により,刑法187条が適用されるのは国内での行為のみとなります。たとえば,アメリカに行って現地で発行されている宝くじを購入して国内に持ち込むだけでは,刑法187条の解釈にかかわらず違法行為とはなりません。(ただし,アメリカ連邦法は「宝くじ」の発行州外への持ち出しを禁じているそうなので,そちらに抵触する可能性があります)
富くじの販売は違法なのに,なぜ国内で宝くじという「富くじ類似商品」なるものが堂々と販売されているかと言えば,「当せん金付き証票法」いう法律によってその販売が認められているからです。宝くじというのは,その「当せん金付き証票」の愛称です。なお「当せん金」は「当選金」ではなく「せん」は「くじ」という漢字の「籤」が使われていたようですが,現在ではひらがな表記が使われています。
「当せん金付き証票法」の内容を適当に拾っておきますと
法律の全文は,総務省行政管理局の法令データ提供システムに掲載されています。なお,同じような「富くじ類似商品」としては,競馬,競輪,モーターボート,オートレースなどの「公営ギャンブル」と,サッカーのtotoがありますが,これらすべてにも対応する法律があって,富くじではないことになっています
なお1954年までは,政府発行の宝くじというものが存在していましたが,同年の「当せん金付き証票法」の改正で廃止されています。以下は余談ですが,「当せん金付き証票法」はもともと時限立法として作られたようで,1954年ごろの閣議においては,政府発行の宝くじをまず廃止し,その後なるべく早く都道府県発行の宝くじも廃止させる方針を決定したということもあったそうです。またこの法律では都道府県が発売できることになっていますが,現在,都道府県単独で発行しているのは,特別なものを除けば東京都の「東京都宝くじ」と栃木県の「地域医療振興くじ(レインボーくじ)」だけです。(最近では兵庫県が阪神淡路復興宝くじというのを発売しました)あとの道府県は「関東・中部・東北」(北海道と栃木県を含む22県10指定都市)「近畿」(2府4県と4指定都市)「西日本」(17県3指定都市)というふうに共同で発売しています。なおナンバーズやミニロト,ロト6はジャンボ宝くじと同じ「全国自治宝くじ」で発売元は47都道府県と18指定都市になります。
指定都市 : 札幌,仙台,新潟,さいたま,千葉,川崎,横浜,静岡,浜松,名古屋,京都,大阪,堺,神戸,岡山,広島,北九州,福岡
さて,上に書いた刑法187条の前の刑法185条には賭博に関する項目があります。
185条と186条も国外では適用されない規定なので,外国で合法であるカジノなどに参加することに関しては違法行為にはなりません。この法律を厳密に解釈するとパチンコが趣味の人はすべて刑法第186条に抵触するはずですが,今のところ(私を含めて(笑))パチンコの常習で検挙された人というのは聞いたことがありません。
これは本題とは無関係ですが「くじ」と「賭博」の相違点については,(株)日本総合研究所のJapan Reserch Review 1997年2月号に少し触れられています。(本文がWeb上で公開されていましたが,現在は削除されてしまったようです)。それによると「賭博」は主催者が損をする場合があるが,「くじ」では主催者は決して損をしない,ということで区別され,判例も存在するそうです。上に書いたパチンコの場合,主催者,つまりパチンコ店が損をすることはないはずなので,賭博には当たらないという解釈なのでしょうか?
結局,違法かどうかは,「海外で発行された宝くじ」を「国内で購入する行為」が,刑法187条で言う「授受」に相当するかどうかで決まる問題ということになります。(一応ここでは「海外で発行された宝くじ」は発行地においては合法であるとします。)この「授受」について,愛媛県にあるジェナスという「宝くじ購入代行サービス」をやっている会社が愛媛県警を通じて総務省に確認したという内容を掲載しています。それによると
ということだそうです。ただし総務省の解釈が裁判所の判断に優先するということはありえない,ということには注意が必要です。いろいろと調べたところ,刑法の教科書や司法試験用の参考書などにも同じ解釈が掲載されていますので,学問的にはほぼ共通の認識だと思われます。サイトでの説明によると,この会社では必ず入金を確認してから購入の手配をする,ということを行っているそうで,これだと所有権の移転が起こらないので「授受」にも,「当せん金付き証票法」で禁止されている「転売」にも相当しないとしています。ただし「海外宝くじの国内での購入は違法」とも明記されています。これが総務省の見解なのか,この会社の見解なのかは不明です。
もう一点,ここには興味あることが書かれていて,それは「宝くじの海外発送はしないけど,国内で受け取ることができるのであれば,海外からの申し込みを受け付ける」としていることです。「当せん金証票」を国外に発送しない限り,海外からの申し込みは違法ではない。ということなのでしょう。「当せん金付き証票法」には購入できる者の規定や,国外への持ち出しの可否についての規定はありません。(よって未成年者に販売しないのは法的に根拠があるわけではない)
たとえば賭博というのは「主催者」と「参加者」の両方がいて,初めて成立する犯罪とされており,このことを法学では「必要性共犯」とか「対向犯」の概念と呼んでいます。「必要性共犯」の場合,その当事者の片方だけを違法行為に問うことはできない,という考えが一般的なのだそうです。これが海外のサーバで開かれている「オンラインカジノ」に日本から参加するというケースで「主催者」側が(日本の法律では)違法行為とはならないため,国内の「参加者」を違法行為に問えないという説の根拠となっています。(あくまでも「説」です。実際には別の条項で参加者だけを違法行為に問える・・という説も存在します。もちろん,今のところ裁判所は明確な判断を示していません)なお賭博だけではなく,たとえば贈収賄なども「贈賄」と「収賄」の両者がいないと成り立ちませんが,これについては後述します。
ここで刑法187条3項の「授受」に話を戻します。「授受」というのが有償・無償にかかわらず「所有権の移転を伴う行為」であるとすると,そこには「所有権を渡す側」(「授」側)と「所有権を受け取る側」(「受」側)の両者が存在しないかぎり,「授受」が成立しないことは明らかです。ということで,この刑法187条3項についても「必要性共犯」の概念があてはまる可能性があるということになります。もしそういうことになれば,刑法187条も国外犯には適用されないので「所有権を渡す側」が海外にいる場合には日本の刑法上の違法行為に問われませんので,国内の「所有権を受け取る側」=「海外宝くじの購入者」も違法行為だと断言できない・・ということになります。というわけで本当に刑法187条3項に「必要性共犯」の概念があてはまるのかどうかが,問題になりそうな気もします。
もし刑法187条で「必要性共犯」の概念があてはまらない,という判断があった場合は,国内で「富くじ」を誰かから受け取っただけで違法行為となります,極端な話,道に落ちていたのを拾って半年過ぎて所有者が現れなかった場合などは所有権を放棄しなければ違法行為になると思われます。(「当せん金付き証票法」には当せん金付き証票が遺失物となったときの扱いも決められています。)現状では,購入者が直接海外に出向いて,現地発行の宝くじを購入することについては違法にはなっていませんので,問題は「授受」つまり所有権の移転という行為がどこでが行われたかということになりそうです。一般に「国内での海外宝くじの購入」の場合,インターネットを通じて海外に本拠を置く代行業者に購入を依頼ということになるはずですので,所有権の移転,すなわち「授受」そのものは海外で行われることになりそうです。海外旅行に行く友人にお金を渡して「宝くじ買ってきて」とお願いするのと同じでしょう。
話を少し戻して,刑法187条では「富くじ」の「発売」「発売の取次」「授受」を禁じています。「授受」は「発売」と「発売の取次」以外の所有権の移転と伴う行為,であることも分かって来ました。さてこの「発売」「発売の取次」「授受」は「印刷したくじ券」そのものを指しているのでしょうか?それとも,くじの所有権などという実在の物体として存在しないものを指しているのでしょうか?。刑法187条は文語体から口語体に変わった他は一度も改正されていないようなので,おそらく「富くじ」の「印刷されたくじ券」の「発売」「発売の取次」「授受」を禁じている・・という前提で制定されたのだと推測します。となると,かなりこじつけですが,くじが実際に海をわたって国内に入って来なければ(国内での)「授受」にあたらない,という説も成り立ちますが,どうなのでしょう?。実際に海外の宝くじ購入代行業者はくじそのものを国内に向けて発送はせず,実際に購入したくじの写真をメールで送るというサービスをやっているそうです。ちなみにアメリカの連邦法ではくじの郵送(正確には発行州外への持ち出し)を禁じているそうですが,現実問題として州境を越える人の検問をしているのかどうかは不明です。私の経験ではアメリカ国内の空港での出国手続きで「ロトは持っていますか?」と聞かれたことはありません(笑)。
贈収賄は「贈賄」側と「収賄」側がいないと成立しないので,これも「必要性共犯」の概念があてはまる犯罪ということになるでしょう。ということで刑法の贈収賄に関する項目を拾ってみました。刑法197条と198条です
この項目をよく見てみると,賄賂の場合は「授受」という用語ではなく,わざわざ「収受」と「供与」という別々の表現が使われています。「贈収賄」が「贈賄」側と「収賄」側の両方がいないと成立しない犯罪であることは明らかなのですが,おそらく「贈賄」側が違法行為に問われなくても,「収賄」側を違法行為に問うことができるようにするため,このような表現になっているのでしょう。つまり「必要性共犯」の概念が当てはまる犯罪の場合,片方が違法行為に問われない場合でも,もう片方を違法行為に問うことができるためには,こういう表現の法律にしておかなければいけない・・という例になると思います。さてここで刑法187条3項に戻ると,そこには「富くじを収受または供与したもの」とはありませんので,やはり「授受」の両者が揃って初めて双方を違法行為に問えるということを前提にしているのでは?と思われます。
海外旅行先で現地の宝くじを買ってきて,友人・知人におみやげとして渡す・・というようなこともあると思いますが,これは明らかに刑法187条3項の「授受」に抵触する行為です。しかし現実の問題として厳密に言えば違法行為なのでしょうが,実際こういう事例で検挙されることはまずないと思われます。
結局のところ,裁判所の判例もないようなので「海外宝くじの国内での購入」が違法かどうかについての結論は出ないのですが,少なくとも単純に「海外からの通信販売による購入が刑法187条3項の授受に抵触する」という「違法の根拠」については,やや怪しいような気もします。購入に関する手続きがすべて海外で行われるので,「海外旅行に行く知人に宝くじを買ってきてくれ」というのとどこが違うのか?という説ももっともだと思うのですが,私自身は,「授受」とひとくくりにしている以上,「必要性共犯」の考えが当てはまって,購入者だけを違法行為に問えないのではないかと思っています(そうでなければ,贈収賄罪のように「収受または供与」という表現にすべきです)。ただ現在ではこの問題は最初に書いたように,法律の解釈の問題ではなく「海外宝くじ代行業者による詐欺被害」を防止するために「購入」=「授受」ということにしておけば,罰金も比較的高額であることから効果的である,ということであいまいなまま利用されている面は否定できないでしょう。違法かどうかはっきりさせるためには,どこかから通販で買って自分自身を告発して裁判で決めてもらうしか方法はないのかも知れません。いずれにしても,今の刑法では現状に対応しきれていない,という印象もあります。しかし,どういう改訂が「妥当」なのかはかなり難しい問題だと思われます。
また,ここでは刑法187条と海外宝くじの関係について考えてみましたが,海外宝くじを規制できるのはこの法律だけではありません。極端な例ですが,ある国が「収益金のすべてを軍事費に充当する」宝くじを発売していた場合,この宝くじの購入行為については,その宝くじの発行国と日本との関係によっては,外国為替および外国貿易管理法の規制を受ける可能性が高いと思われます。(ちなみにこの「収益金のすべてを軍事費に充当する」宝くじですが,国内で1945年に発売されました。抽せん日前に敗戦となったため抽せんは行われなかったそうです。)
個人的な印象としては,「海外の宝くじ」が国内の宝くじと比較して特に有利なギャンブルだとは思えません。少なくとも,罰金刑になるかも知れないリスクをとって,高い手数料(代行業者はそこそこの手数料を取ります)を払ってまで買うべきものなのかどうかはよく考える必要があるでしょう。
2003年5月から国内で「無料宝くじ」である「ラッキーサーフ」(2005年4月に「ロトキング」と改称,2008年10月にサイトが閉鎖されていることを確認)というサービスが始まりました。参加費無料で宝くじのロト6とほぼ同じルールのゲームに参加でき,1等賞金が1000万円(独占禁止法の規定にもとづく公正取引委員会の告示による)が当たる・・というものです。これは刑法187条に抵触しないのでしょうか?
以下は推測ですが,サービス開始にあたってはおそらく法律的な問題はすべてクリアになっていると思われます。ということは同じ「宝くじ」のようなサービスでも,参加費が無償(つまりくじの実施だけによる利益がゼロ)のであれば「懸賞」と見なされて合法という解釈になりそうです。いずれにせよ,この「無料宝くじ」が合法であるならば,海外の「無料宝くじ」サイトへの参加も違法行為とはならないはずです。ただしこの種のものは「当せん金証票法」とは無関係ですので,賞金は非課税ではありません。
なお以下では,違法行為になるかもしれないため海外の宝くじが購入できるサイトの紹介はしません。各種サーチエンジンを使えばたくさん出てきますので,必要な方はそちらをご利用下さい
国内で発売される宝くじの一般的な情報を掲載しているサイトのリンク集です
ここでの「調査」で利用させてもらったサイトのリンクです